第86話「表裏一体」
今まで戦ってきた相手とは根本的に違うのは命のやり取りではないという事。あくまでも勝ち負けを明確にすること。そこだけは互いに譲れないものがある。
俺が勝てばユイナは解放され、この悪魔も俺についてくるという。俺が負けたらこの悪魔に従わざる負えないというのだが、結果的に俺がこの先悪魔に付きまとわれることになるのは確定事項だという。
(冗談じゃない……)
どちらにしろゲームには勝たなければいけない。ユイナが確実に助かるのは勝つことなのだからここで負けてしまったのでは元も子もない。
本気で勝ちに行くことこそが今やるべきことなのだ。
「さて、どうする? 公平で尚且つ俺の納得するゲームが有るのならば受けて立つが、納得できなければゲームそのものの参加を辞退するが……」
「遊ぶことを生きがいにしているボクにかかれば、君を納得させることなんて造作もないよ。でもそれじゃ禍根も残るよね。だから、君がゲームを決めていいし、ルールも自由に決めてくれて構わないよ。その方が燃えるからね」
俺の予想に反してゲームの土台からルールまで全て、丸投げされる形となった。もちろん、こちらの有利なルールで挑むことも可能となるのだが、それは要するにハンデとして容認されている範囲内だと暗に言っているわけだ。
生まれたての赤子が大の大人に挑むような状態は何も変わらない。
それはひしひしと伝わってくる。
身体能力でも頭脳戦でも恐らく手も足も出ないだろう。ならばできることというのは完全に運に任せる事しかない。
それでもステータス上の運という項目がある以上これでさえフィフティフィフティというわけにはいかないだろう。運も数値かできるのならば数値が高い方がその力を発揮する為、ぶつかることがあれば負けるとみておいた方がいい。
ならば、あくまでも自己完結する類のものでなければいけない。相手の運とぶつからない内容で勝負をするほか選択肢はない。
ギャンブルなんてしたことも無ければしたくもないというのに四の五の言ってはいられない。やるからには勝たなければという意思だけで勝負に出る。
運命は切り開けるなんて気軽に言ってる人もいるようだが、現実は甘くはない。理由は言わずもがな。
勝つか負けるかのどちらかだというのだから簡単な話だ。勝率が偏に50%だとしても、負ければかけたベットは全て相手の手に落ちてしまう。
結果として命を失うのと同義だと言える。これから先の自由というものの一切を手放すのだから死んでいるのと同じだと思う。
それは違いという者ももちろんいるだろう。この世界に奴隷というものがいるのかどうかわからないが自由と引き換えに必要最低限の生命を保障されている者達。
ノーワークノーペイだから仕方がないと言えるのか。金と命は同じはかりで計れるのかなどと考えても、彼らは少なからず納得している節があるという。命を懸けて対偶を改善する者達もいれば捨身で奴隷国家を壊滅させた者達もいた。その対偶に甘んじることはそういう事なのだ。
俺は生きていたいのではなかった、一度は自分の命と引き換えにしえも偽善者でいたいという思いがあった。導き出される答えは一つ。
従うのが嫌だというのなら従わせるしかない。
だからと言って強要させるつもりもない。安息の時間が確保できるというのなら拘束するつもりもなければ相手にしなくてもいいと考えている。それも勝たなければその限りではない。
必ず勝つために行うゲームは……。
「今から金貨を投げる。お前は表か裏か好きな方を選べばいい、単純だが白黒つけるならこれ以上ないと思わないか?」
俺は財布から金貨を一枚取り出した。表には国王の横顔、裏にはドラゴンのレリーフが描かれている。
何か仕掛けをすれば勝てるかといえばそうではない。
運命というのは切り開けるなんてことはないのだから。
勝つか負けるかは最初から決まっているも同然。
小細工など通用する相手ではない。姑息な手段に手を出せばそれ以上の力でねじ伏せられる。
しかし、何もしないのであれば奴は何もしない。ゲームを楽しむというのは対等だから面白いのだ。
一方的に勝ちゲームをするのはゲームを楽しんでいるのではない。勝っているという優越感にひたっているだけなのだ。
だから、ゲームを楽しみたい者は相手との差を埋めるための手段は惜しみなく費やす。
均衡こそが最高のスパイスだと遊びに全力を注ぐものは迷うことなく言うという。
「それでいいよ。ボクも久々に胸躍る体験ができる事に喜びを隠すことなんてできないね。うずうずするなぁ」
浮足立つ悪魔。
その瞳は無邪気にコインを見詰めて離さない。
どれだけ目が良かろうとコインをはじく前に表裏を選ぶため、何も問題はない。
さて、悪魔はどちらとこ問えるのか。
「さて、裏か表か選ぶといい。コインをはじくのは俺だからな。答えたほうと反対の面を出せばいいだけの簡単なゲームだ」
「その駆け引きに意味はあるのかな? ボクがそれに気づけば……わかるよね?」
一度俺の手元から離れた後に何かされれば俺に勝ち目はない。
それがわかっているからこのような事をしれっというのだ。
さて、どうしたものか。
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