第49話「三人で泊まる最初の夜へ」

 二人が会議室を出てから、町長は俺に声をかけてきた。

 このタイミングを待っていたのだろう。

 俺の仲間も職員も出ていき、俺と町長の二人だけがひときわ大きな会議室に取り残された。


「改めてお礼を言わせてください。ありがとうございます。一度ならず、二度三度と助けていただき、それに首都への連絡役まで買って出ていただきまして、頭が上がりません」


 ハウゼンは頭を下げて俺へと賛辞を述べた。

 

 トントン


 ドアがノックされる音が会議室へと響き渡る。

 

「入りたまえ」


「失礼いたします」


 年若い女性の職員が、書類と袋を木のトレーに乗せて俺達の元まで運んでくる。

 

「これが、首都へと向かって抱く際に届けていただき書類になります。首都では国王ではなく首都のリカード首相が一定の権限を保持しておりますので、首相へとお渡しいただければと思います。そしてこれはこの町で滞在していただけるホテルの招待状となります。費用の方も私共の方で負担させていただきます。最後に私どもからの、少ないですが謝礼となります。どうか旅に役立てていただければ幸いです」


 書類、招待状、金貨100枚を受け取った。

 現状では金銭の価値まるでがわかっていない為、これが妥当なのかどうなのかわかりかねていた。

 ただ、旅の旅費に受け取った金額の実に33倍も貰ってしまった。


(おそらく、これは多すぎるに違いない)


 金貨一枚一万円くらいだとしても百万円という金額。

 命を懸けて稼いだお金としては一人頭三十三万円、寧ろ安いのだろうか。

 素直に受け取っておくとしよう。


 決してこちらを侮っているという事もあるまい。


「こちらこそありがとう。これは有効利用させてもらう。それと滞在に関しては今日一日休んだらすぐに首都へと向かおうと思っている。復興の兆しをもたらすのは早い方がいいだろ?」


「あなたのような方は見たことがない。一体何者……何ですか?」


「勇者……だろ?」


「そうですね。あなたの事は勇者として皆に周知させます。その方があなたは動きやすくなるでしょう」


「正直、俺は迷っていたんだ。目の前で困っている者、危機に直面している者が見れば救ってきたつもりだった。だが、結局助けることができなかった者が多すぎた。それで勇者を名乗るのはどうかって思うのだが……」


「私にはあなたが背負っているものを理解することは出来きませんが、これだけは言わせてください。私にとっての勇者は紛れもなくあなただったという事を。私たちのような戦う力のない者は何かにすがるしかないんですよ。それは神であったり精霊であったりしますが、結局のところ目の前で手を差し出してくれた方が私達にとっては神であり、天冥の軍勢を滅ぼすために活動している人たちは私達の命の恩人とはなりえないんです」


「俺も天冥の軍勢を滅ぼすように頼まれたんだ。それでも拾える命は取りこぼすことがないようにしていきたいと思っている。もう目の前で人が死ぬなんて冗談じゃないって思うから」


 会議室の椅子に腰を預けて、俺は答えていた。

 あまり大ぴらに人に言うかどうか迷っていたのだが、話の成り行きで言うことにした。


「地位や名誉を求めて天冥の軍勢に挑む者は後を絶たないんですよ。私が先程申したのはそういう者達です

。自慢げに10体倒した、50体倒したというのです。何も変わらいというのに。そんな彼らと比べるとあなたは勇者じゃないかもしれません……。あなたを支えているのは勇気などではないと思いますし、彼ら蛮勇のような下卑た勇気でもない。なれば……あなたはこの世界の英雄になると思います。私は信じてます」


「ありがとう。俺は俺のできる事だけをやる……」


 俺は会釈し、会議室の外へと向かう。

 町長が出口まで見送りの為に一歩下がって追随する。

 互いに再度一礼し、会議室を後にする。


 階段を二段飛ばしで足早に下りていく。

 一階の玄関ホールにはスペラを宥めるユイナと退屈そうにしているスペラが俺の来るのを待っていた。

 俺の来るのに気が付いて二人が駆けつけてくる。


 そのまま出口付近で待っていればいいのにと思っていたが、正直駆け寄ってきてくれて助かった。

 ホールは未だに血の跡が消えずに残っていたのだ。

 飛び散った肉片や、血液はあらかた掃除されていた物のまだ、匂いも痕跡も残っていたため目にすれば気が滅入ってしまう。


 それを知ってか知らずか二人は、緩和してくれたのだ。


「遅かったね。もう話は済んだの?」


「ああ、要請書と謝礼を受け取ってきた。ホテルへの紹介状も貰って来たから今日は町で一泊しようと思けど、どうかな。俺は一泊したらすぐにアルティアへ向かう予定だが、みんなの状態次第ではもう一泊することも考えているけど」


「私なら大丈夫だよ。こんな状態の町に長く滞在するのも割る気がするしね」


「ミャーは大丈夫にゃ。アーニャが行くっていうなら喜んでいくにゃ」


 いつの間にかスペラにしがみつかれていた。


「決まりだな。とりあえずこの地図にあるホテルに向かおうか、割とここからは近いようだし」


 俺は紹介状と一緒に渡されたホテルへの地図と街並みを見比べながら言った。

 この辺りは多少損壊をしてしまった建物があるが、町全体から見れば被害は最小限と言ってもいいだろう。

 これならば、地図を頼りにするれば迷うことなくたどり着けるだろう。

 はっきりと地図が見れるうちに行くとしよう。

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