第5話引越しの日、昼

ご飯を終えて、本当に最低限の荷物だけを載せた車に乗って機械化都市を出た。200年前にはギリギリ自動運転車があったらしい。逆に手動の運転なんて人間は無茶をするなあって思うんだけど。機械化都市から出たことの無かった私には何もかも見慣れない景色だ。


まあ、景色というか……高速で移動しすぎて横の窓から外を見ていると気分が悪くなるのでずっと運転席の前から見える果てのないほど長い道を見ていた。


「この道路はどこの街なの?」


「ここはどの街のものでも無いよ。昔、鉄道のことを話しただろう?ここはその跡地さ」


父が一応ハンドルを握って、そう返事をした。この国は、繰り返した消滅の結果、その復興やら色々で行政機能が麻痺した。一極集中な行政は廃れ、各都市が独立しているのが現状だ。機械化都市を始めとして、消滅を防ぐには新しい物で埋めつくしていくしかないというのが今ある理論の一つ。


もう一つは、人の記憶には消滅が働かない為、住民が実際に保護をしたい時代の環境下で暮らして消滅しても書き直せるように備えている都市。それが歴史保護区だ。


「何故昔の人は鉄道なんてものを作ったのかしら」


「沢山の人を一度に運ぶには丁度いい手段だったのよ」


「そんなに大勢で一体どこに行ったの?」


「昔は家で仕事をすることが出来なかったからね、恵理架が学校へ行くみたいに大人も一斉に朝から仕事場へ通っていたんだ」


その話が正しいなら鉄道があったとされる地下や空中にも仕事場とやらがあったことになる。そんなにも場所を確保するくらい仕事場へ行くことが大切なのだろうか?


コンピュータや情報通信の技術は昔からあったのに何故仕事場へ行ってまでやることがあるの?と聞くと父も母も「それが理解出来ないから消滅前の世界は不思議なのだ」と言った。


「……まさか、200年前だからって臥木の人もそんな生活をしてる訳じゃないよね?」


「そこまでじゃないさ、生活や空間をを真似るべき場所は真似てるけど、当時の人間と……僕らは違うからね」


違う、というのは私たちのような現代人という意味か、或いは……。と考えたあたりで他の可能性とはなんだろうと不思議に思った。


次第に車が速度を落とした。鉄道跡地の道路を降りる合図だ。


「この道路でずっと臥木まで行くのかと思ってた」


「それは不可能なのよ。臥木は……200年前には鉄道が走っていなかった土地だから」


飛行船も当時は無いから避けて通るのよ?と母がため息混じりに語る。


「鉄道が無いからこそ歴史保護区に指定された訳だがね」


広い四車線の道路を降りて、一本道のような道を進むと、やがて目の前にトンネルが見えてきた。


「見えるかい?あれが臥木に入るための入口だ。準備はいいね?」


車はゆっくりとトンネルの中を進んでいく。

真っ暗な壁にはジャム瓶や万国旗や本棚なんかの落書きがの並び、ぼんやりと光っている。


「ねえ、さっきの道路で少し酔ったみたい……寝ててもいい?」


「良いわよ。着いたら起こしてあげるから」


もうすぐ着くけどね、と母が言うのを聞いて、私は広い後部座席に寝転んだ。


臥木。そこには……私の住みやすい世界があるのだという。そしてそこには……お兄ちゃんがいる。そう思うと、これからの暮らしが少しだけ楽しみになった。


次に目覚めたら……そこは。

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