第343話・燐灰石とのこと
「……えっと?」
なんか時間が止まったみたいに全員黙り込んでる。
「いや、それならなんで最初にセイエイが攻撃した時にダメージ入ってないの?」
「防御された」
綾姫がオレに詰め寄ろうとしたが、セイエイが待ったをかけるように言葉を発する。
「あぁ、じゃぁやっぱり」
「おなか側が弱点ってことで間違いない?」
「でもどうやってダメージを与えるっすか? あいつウサギで常時四つん這いっすよ」
チビッコの言う通り、リーヴィガタ・ラビットは常時お腹を地面に向ける形で構えを取っており、攻撃も角から発せられる雷撃。
「下に潜って攻撃――」
「する前に押しつぶされる」
「風で押し上げる」
「風魔法を覚えてるひとがいればね?」
オレとセイエイ、綾姫は、ジッと親衛隊の三人を見やる。
「申し訳ないっすけど、オレたちの中にそういうの覚えてたのリーダーくらいっす」
しょんぼりと答えるチビッコやアフロと太っちょ。
「シャミセン、[ライティング・ブラスト]は?」
「弱点がないってことはクリティカルもないってことよ?」
言い返され、頬をふくらませるセイエイ。
「あぁ、頬をふくらませるセイエイどの可愛いんじゃ」
「心がぴょんぴょんするっすねぇ」
「セイエイ可愛いセイエイ」
親衛隊の三人が、悶絶したように身体をくねらす。
「シャァミィセェエエン、この人たち切っていい?」
「煌にいちゃん、さすがに私もそろそろ何かがプチって切れそうなんだけどなぁ」
逆にセイエイと綾姫は親衛隊を戦闘にまぎれて攻撃しようとさえシてる。
「やめときなさい、無駄にPKになるとあとがめんどい」
というかPKになったらギルドメンバーに入れられない懸念もあるから控えてほしい。
「それじゃ、どうにかしてお腹を見せるようにするしかないってことか」
「……ひっくり返すとかは?
「ウサギが立ち上がってくれないとムリじゃないかな?」
「立ち上がらせるかぁ……セイエイ、顎を攻撃して上空にノックバックさせることは?」
セイエイにそうお願いしようとしたが、当の本人は首を横に振り、
「たぶん、ムリだと思う。[韋駄天]、[牛鬼]で
と説明してくれた。
「あれ? それならノックバックは成功しているんじゃないの?」
綾姫がくびをかしげる。
「ノックバックが成功したらうしろに弾かれて少しだけ身動きが取れなくなるから……」
「成功すれば防御も解かれるってことっすか?」
チビッコがそう言うと、セイエイはうなずいてみせる。
「それがなかったということは……、ノックバックを無効化する自動スキルをもっているってことか」
「それならどうするの? 攻撃の対処法がわかってもそれを試すタイミングがそもそもないし、避け続けるのも限度ってものがあるよ?」
「――それなんだけど、さっきから遠くにいるおれたちには雷撃で攻撃してくるだけだよなぁ?」
アフロが違和感を持った声でいう。「おれたちとおくにいる。かみなりで自分に近づけさせない」
太っちょもどこかおかしいと言った具合。
「近距離攻撃をするようにプレイヤーを促しているか、それに釣られて攻撃すると突進をするって感じか――んっ?」
グイッとオレの法衣を掴んで自分に注目を向けるセイエイ。
「いってくれる?」
そうお願いすると、セイエイはコクリとうなずくや、「[韋駄天]、[極め]」
あくまで偵察だと察したのだろう、[牛鬼]のような
そしてパッと飛び出すようにしてリーヴィガタ・ラビットの方へと走っていった。
「きゅい」
近づいてきたセイエイに攻撃をしかけるように、リーヴィガタ・ラビットは前足を振りかぶり下ろす。
それをセイエイは既の所で避け、
「[花鳥風月]」
斬撃を飛ばし、リーヴィガタ・ラビットのお腹めがけてダメージを与えようとするが、
「きゅきゅい」
途端、リーヴィガタ・ラビットは地面をお腹に押し付けるようにして、そこにダメージがいかないように身体を伏せた。
「――ッ!」
それを見て、セイエイはすぐにオレたちのところへと戻ってきた。
「シャミセン」
「やっぱり弱点はおなかかぁ」
「でもどうするの? 弱点がはっきりしたとは言ってもそこを確実に仕留めないと倒せないってことだよ?」
セイエイが攻撃したことで雷撃はやんだにはやんだが、リーヴィガタ・ラビットの額の角が再び光るや、オレたちに向かって雷撃が放たれていく。
「まぁた雷かぁッ!」
しかもこれが広範囲で来るもんだから死角があったものじゃない。
「――ッ!」
試しにセイエイがうしろに回り込むが、みえているのかそこからでも雷撃がくるため、攻撃のタイミングが見当たらないでいる。
結局この攻撃でオレたちは避けるだけで反撃のタイミングはなく、近距離での攻撃を仕掛けても反撃されるか、身体をふせられてダメージを与えられないという、ある意味悪循環に陥っている。
「どうにかしてあいつを倒す方法はないっすかねぇ」
うーむと考えながら、
「よし、太っちょ」
オレがそう声をかけると「おでの名前、ニョフウカイッ」
「お前さん、水系の魔法とかおぼえてない?」
「……覚え……て……る」
「そうか覚えて……えっ?」
あまりにゆっくりだったから早とちりしそうになった。
「覚えてるの?」
聞き返すとニョフウカイはうなずいてみせた。
「おでINTみんなの中で高い100くらいある。でもAGIとDEXが低いからよく攻撃外す」
「そうなんだよ。こいつDEXが低くて肝心な時に役に立たないんだよ」
「でも俺らリーダーも含めてよくつるんでるからさぁ、こっちでもよく一緒に遊んでるってわけっす」
そんな君らの裏事情はどうでもいい。
「でもシャミセン、シャミセンだって水属性の魔法使えるんじゃないの?」
「使えなくもないけど、結局チャージしないといけないから身動き取れないぞ」
「そうか、その場で詠唱しないといけないから雷撃の的になっちゃうね」
オレが[アクアショット]を使えないことを察する綾姫が、
「それでもなんで水が必要に――えっともしかして?」
なんか妙竹林なことを考えてるんじゃなかろうかといった具合に怪訝そうに肩を落とした。
まぁ当たらずと
錫杖の石突で地面に円を広く描き、「風水スキル・[安身窟]」
スキルを唱えると、岩が隆々と盛り上がり、ちいさな洞窟を作り上げる。
「狭くない?」
「大丈夫」
そうは言いますがニョフウカイさんや、こっちはぎゅうぎゅうなんですけどね。
もう少し円をひろく取ればよかったかなぁと軽く後悔。
「外にいる他のプレイヤーも心配だけど、作戦は至ってシンプル……」
「おでやってみる――でも失敗したらみんなの迷惑」
ニョフウカイは得物である杖をグッと掴む。
「煌にいちゃん、こっちの準備も出来たよ」
「いつでもオッケェーっす」
綾姫とチビッコ――モリウンの声が聞こえる。
「ニョフウカイ、ウサギの周りに水を張ってくれッ!」
「[チャージ]・[ウォーター・バレット]ッ!」
ニョフウカイの錫杖に施された宝石が光り輝き、水の波動を放つ。
水の波動はウサギ――ではなく、地面に落ち、水浸しになっていく。
「セイエイっ!」
「[韋駄天]・[牛鬼]・[極め]・[三昧真火]」
セイエイはステータス上昇の体現スキルを放ち、二振りの青蜂刀を構えリーヴィガタ・ラビットへと一直線に向かう。
「うぅおおおおおおっ! くぅラァえやぁラビ公っ! [ジャイアント・スロー]ォオオオオッ!」
アフロヘアーもとい、ニョカキュウが両手持ちの
「キュイっ!」
それを避けるようにリーヴィガタ・ラビットは宙へと
「[花鳥風月]ッ!」
下からセイエイがふたふりの刀で斬撃を飛ばした。
「きゅきゅい」
リーヴィガタ・ラビットはぐるりと体躯を丸め、セイエイの斬撃を受け流す。
「[闇烏]ッ!」
セイエイがさらに追撃を与えるが、リーヴィガタ・ラビットは身体を丸めたままピクリともしない。
「きゅきゅい」
カカカと嗤わんばかりの声を発するリーヴィガタ・ラビット。
たしかにその自慢の装甲はこちらも舌を巻くよ。
でもそれは普通のゲームだったらの話だ。
「綾姫ぇぇええぇっ!」
「[チャージ]・[
綾姫が杖を天へと高々と掲げるや、上空がドス黒い雷雲が現れ、そこから嵐が吹き荒れ、大粒の氷雨が降りしきる。
「きゅきゅきゅい」
まだまだ余裕のあるリーヴィガタ・ラビットの唸り声。
「――ッ!」
セイエイが地面に降り立つ。それと同時にリーヴィガタ・ラビットは地面に前足を先にして地面に――、濡れ凍った地面に足を取られ青天を食らった。
「キュイ?」
なにが起きたのかわからずあっけにとられるリーヴィガタ・ラビットを後目に――、
「風水スキル・[泥人形]」
地面が泥濘んだことでそこからオレのHP一割を吸い込んだ泥人形がリーヴィガタ・ラビットを身動き取れなくする。
「いくっすよぉっ! [アイシクルチェーン]ッ!」
モリウンが魔法を放つと凍った地面から氷の鎖が出現し、リーヴィガタ・ラビットの四肢に絡ませて動かさせないようにする。
「これでもくらえやッ! [チャージ]・[鬼殺し]ぃいいいぃ!」
パンっと飛び上がったニョカキュウが炎をまとった
「キュキュキュキュキュイキュイキュイイイィイイイッ!」
リーヴィガタ・ラビットはのたうち回るように悲鳴をあげる。
ジタバタと地割れが起きそうな程に地面が揺れる。
「キュ……キュイ……キュイキュ――」
声はいつしかやみ、一瞬の静寂がおとずれると思ったが、
[モリウンのレベルが上昇しました]
[ニョカキュウのレベルが上昇しました]
[ニョフウカイのレベルが上昇しました]
勝利ファンファーレとともに、親衛隊三人の(リーダーであるメガネは戦闘不能に鳴ってるから経験値は入らない)レベルが上昇したアナウンスが入った。
「うおぉおおおおおおっ! レベルアップじゃぁっぁあああっ!」
「おで強くなった」
「強くなったす、また一段と強くなったスねぇ」
三者三様に喜びをあらわにするセイエイ親衛隊の三人。
「シャミセン、宝石」
セイエイがそう声をかける。
「あぁ、そうだった。おーい喜んでるところ悪いけどちょっと探し物の手伝いをしてくれっ!」
声をかけるや、親衛隊三人はオレの方を一瞥する。
「ウサギが倒された周辺を調べるから」
「「「調べる?」」」
怪訝そうにくびをかしげるモリウン以下三名。
「モンスターを倒してから周囲を探さないとレアアイテムが手にはいらない場合がある」
セイエイがそう説明するや、
「なんすかその仕様はぁっ?」
モリウンがツッコミを入れる。うん、そういいたくなるよね。
しばらくして――、「あったっ!」
綾姫が手になにかを掴んで上げると、自分のところへと皆を呼び寄せる。
「宝石あったよ」
その手には小さな、淡い紫色の宝石が握られていた。
[燐灰石] 宝石/素材アイテム ランクSR
リーヴィガタ・ラビットという杜若色の兎の瞳に眠っているとされている宝石。
売ればかなりの高額で取引されるが、この宝石を装備品の素材として使った場合、通常より多くのAGIが付加される。
「これがレアアイテムっすかぁ」
「すげぇ宝石がめっちゃ光ってやがる」
「きれい」
親衛隊三人が、宝石を見つめる。
「なんならお前たちの誰かが持っていてもいいんだぞ?」
オレがそう言うや、三人はギョッとした顔で、
「そ、そんな滅相もありません」
「そうっすよ、こんな高いもんもらっていいわけないっす」
「いや、でもどっちかといえば三人が協力してくれたから倒せたようなもんだし」
あと今気づいたけど、俺ら別にパーティー組んでないし、そもそもとどめを刺したのはニョカキュウだしな。
「ふたりはどうする?」
いちおう綾姫とセイエイにも意見を聞いておこう。
「私は別に宝石を見つけただけだし、戦闘で頑張ったのは親衛隊の人たちだからね」
「わたしも、その人たちが頑張ったんだから、ご褒美はあったほうがいいと思う」
ふたりとも特に興味がなさそうだ。
「ってことで、その宝石は君たちのもの――どしたの?」
三人はまとまってなにかブツブツ会話してますけど、
「それでいいな?」
「リーダーには悪いっすけどね?」
「でもおでたちもっても猫に小判、豚に真珠」
親衛隊三人は「ウム」とうなずきあうとスッとセイエイの前へと立った。
それをセイエイは怪訝そうにくびをかしげる。
「セイエイさん、こいつを受け取ってくれ」
ニョカキュウは頭を深々と下げ、[
「いいの?」
「あぁ、オレたちがもっていても宝の持ち腐れってもんだ。それにコレはオレたちがセイエイさんを応援して……」
ニョカキュウが渾身の言葉を発している中……、
「シャミセン、コレ白水のところにもっていったら装飾品とか作ってくれる?」
そんなのは最初から求めていないと言わんばかりに、セイエイは白水さんにお願いして宝石を加工して装飾品ができないかとオレに訊いてきた。
「えっ…………? えっ?」
あまりに突拍子のないセイエイの行動に唖然とする三人。
じっと地面を見るようにうつむき、ワナワナと肩を震わせる。
「こ、ここここ」
さすがに怒るかなぁ。まぁそんな態度取られたら誰だって――、
「こぉれがぁ最高なんじゃァぁああっ!」
「あぁセイエイさんのその
「セイエイ、可愛い、まじ可愛い」
なんか無駄に盛り上がってるんですが?
「シャミセン、そろそろほかのところに行こう」
そんな彼らを無視して、セイエイがオレの法衣を掴む。
「そうそう、こんな人たちほっといてさ」
綾姫も綾姫でオレの法衣を掴んで催促する。
「…………」
オレはちらりと親衛隊三人を見る。
「今日のことリーダーに報告するぞ」
「絶対悔しがるっすねぇ」
「おで、今日のことスクショにした」
「「でかしたぁぁっ!」」
なんかほっといてもいい気がするし、ほっといたほうがいいんだろうな。
そんなことを考えながら、彼らに悟られないよう――、
「ヨッと」
両脇にセイエイと綾姫を抱かせ、[土毒蛾の指輪]の効果で、空中をゆっくりと垂直に、降りていった。
そんな時、ふと綾姫が――、
「そういえば、あの人たちどうやって岩山に登ったんだろ?」
と首をかしげた。
「普通にロッククライミングじゃね?」
「それはそうなんだろうけど、逆に降りる方法ってあるのかな?」
「「……あっ!」」
オレとセイエイの唖然とした声が重なる。
地面に降り立ち、しばらく岩山の上を窺っていると――、
「ぬぅぁあああああああああっ! そういえばここ道ねぇよぉっ!」
「どうするっすかぁ? あのバカリーダーが登場するなら高い岩山からだろとかヌかしたっすよ」
「おで高いところだめ」
等々、自分たちの状況に慌てふためいでいた。
「――バカと煙は高いところが好き?」
ジッとオレを見るセイエイ。セイエイの中じゃ完全にあの人達は目立ちたがりのバカ認識になった。
「アハハハはっ……」
オレは彼らへの哀れみも含めて、苦笑で返すしかなかった。
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