第341話・親衛隊とのこと


 マコウとの決闘が終わり、すこしばかり休憩を取る。


「アハハッハハっ! いやぁ、負けた負けた」


 負けたというのにそんなこと微塵も思わせないほどにカラカラと嗤うマコウを、オレは唖然として見ていた。


「なぁビコウ、マコウってどっちが正解なのよ?」


 最初と違って別人としか思えないんですが。


「結構人見知りが激しいんですけどね、気を許した人だと思いっきり明るいんですよ」


 ビコウもビコウで、どう説明するべきかと困惑気味。それくらい人が変わったようなマコウの態度。


「私もそれにちょっと引いた部分があるわね。まぁ慣れるとそうでもないんだけど」


 ケンレンはゆっくりとオレに近寄る。


「そういえば、あんたギルド作るって言ってるけど、メンバーのアテはあるの?」


「えっと、今内約が確定しているのは、ハウル、綾姫、斑鳩、テンポウ……」


「なぁんだ、まだそれくらいなのね」


 期待外れだったのか、ケンレンは苦笑を浮かべる。


「それじゃ、わたしもあんたのギルドに入らせてもらうわ」


「あ、わえも入りたいです」


 ケンレンとマコウが二人して声を上げる。「いいのか?」


 すごく簡単に決めてますけど。


「いいもなにも、元々わたしたちもシャミセンがギルドを作らないかって期待してたからね。それにギルドに入ればよほどのことがない限り他のギルドへ誘われるってことはないし、知らないところより知っているメンバーで集まったところのほうが気が楽でしょ?」


わえはシャミセンさんに興味がありますから。あ、さっきプレイヤーとしてはって言いましたけど」


「あ、そこは本当のことだから別に気にしてないから」


 言い過ぎたと自覚してるだけまだいい。そもそもこんなレベルだけど普通にデスペナ食らったりしてるし。


「で、ビコウ……あんたまだ入らないって駄々こねてるの?」


「誰が駄々こねてるのよ? 人の立場を考えなさいな」


 からかうようなケンレンの言葉に、ビコウは苛立った声色で返す。


「あぁっと、これは言わないほうがいいんだろうか?」


「んっ? 他のメンバー以外に誰か誘ってる人がいるとかですか?」


 ビコウがくびをかしげる。


「一応ローロさんに声をかけてみた。条件付きだけど」


「ローロさんって、初心者から絶大な人気のある武器職人の? わえも何度か武器を作ってもらったことがありますけど、どうしてそんなすごい人を誘えるんですか?」


「まぁいろいろあってね」


 マコウの質問に、オレは笑ってごまかしながら、ビコウを見据える。


「ローロさんはまだ確定じゃない。でもお前にとっては大事なのが内定している」


「――それはいったい誰のことですかね?」


「セイエイとサクラさんも、オレのギルドに入ってくれるって約束をしてくれた」


 それを聞くや、ビコウは俯きながら――、


「そうか、わたしなんかよりやっぱりシャミセンさんを選ぶか」


 ちいさく震えるように声を発した。


「あぁ、それからあいつが宣戦布告してたけどな。お前が入らなかったことを後悔するくらい強いギルドにするって」


「あの子らしいですね」


 ゆっくりとビコウは立ち上がるや、オレの方を見て、


「前にも言いましたけど、わたしは運営側の人間です。どんなに甘言や色よいことを言われても立場上誰かに肩入れすることは出来ないんですよ」


 離れていくようにその場をあとにしていく。


「えっ? ちょっとビコウ?」


 ケンレンとマコウが彼女を追いかけるように立ち上がる。

 ケンレンが先に行く中、マコウはふとなにを思ったのか立ち止まり、


「シャミセンさん、わえは星藍があんなに楽しそうに話している貴方に興味があったんです。だから今日はじめて会い勝負をした時にわかりました――あの子が興味をもつほど強い人だって」


 マコウはゆっくりとオレの方へと振り向き、頭を下げる。


「これは独り言ですので聞き流してください」


 そう言い放ち、背中を向ける。


「体現スキルではない[縮地法]を見破ったのと、[八卦]の発動条件に一回で気付いたのは星藍とシャミセンさんだけでしたよ」


 マコウは追いかけるようにケンレンたちの後を追っていく。

 オレは彼女たちの後ろ姿を見ながら、「[八卦]はたまたまなんだけどな」


 指で頬をポリポリと掻きながら、オレは苦笑を禁じ得なかった。




「シャミセン、こんなところでなにやってるの?」


 ビコウたちが去っていてしばらくすると、セイエイと綾姫が怪訝そうにオレのところへとやってきた。


「んっ? ついさっきまでビコウたちと話してた」


「おねえちゃんと?」


 いつものとおり、キョトンとした顔でくびをかしげるセイエイ。「もしかしてケンレンとマコウさんも一緒だった?」


「なんで知ってるの?」


「マコウさんがわたしの家に宿代わりで泊まってるから」


 リアルで知り合いだった。


「同じ国のサーバーならここにいるのもうなずける」


「同じ国?」


「いや、最初マコウが中国語で話しててさ、てっきり中国サーバーをメインに活動してるとばかり」


「マコウさん中国人だけど、住んでいるの日本だよ」


 何か間違ったことを言ってるのだろうかと、セイエイは眉をひそめる。


「……まぁ気にしないでおこう」


 なんか腑に落ちないけど。腑に落ちないけどさぁ。


「あ、ケンレンとマコウがギルドに入ってくれるってさ。まぁ例によってだけど」


「入ってないのおねえちゃんだけってこと?」


 セイエイの問いかけにオレはうなずいてみせた。


「まぁ、結局入る入らないは本人が決めることだから」


 ポンッ……と、柏手を打つ綾姫。「今日はどこに行こうか?」


「二人の自由にしていいぞ。オレは別にこれといった目的はないし」


「レベル上げ……はムリだから、スキルのレベル上げとか?」


 ザシュ……、ザシュ……、ザシュ…………。

 人と話をしながら得物の青鋒刀で毒蛇を払い切っていくセイエイ。


「っていうか、場所変えない?」


 綾姫も綾姫で杖の石突で毒蛇を払い除けている。


「いちおう聞くけど、なんでこんだけ蛇が出てきて経験値ないんだ?」


 そうたずねると、セイエイは少しばかり考えてから――、


打草驚蛇だそうきょうだってわかる?」


「ニュアンス的に四字熟語なんだろうけど、わからんので解説頼む」


 知ったかぶって恥をかくより、素直に教えてもらうほうを選ぼう。


「中国の故事成語で『草を打って蛇を驚かす』って意味」


「あぁ、つまりことわざにある『藪をつついて蛇を出す』ってのと同じか」


 セイエイはうなずくように答える。「意味はわかったけど、さすがに多すぎない?」


 綾姫の言う通り、モンスターの認識がされないからいくら倒しても湧いて出てきている。


「ここってベータ版だと元々毒沼だったんだけど、中にレアアイテムがあるかもしれないし、わかってても中に入ろうとしないプレイヤーもいたから、茂みにして毒の代わりに蛇を入れてるっておねえちゃんが言ってた」


 あぁ危険をかえりみずに貴重なアイテムを手に入れるのってRPGじゃあるあるネタだよなぁ。


「それにしてもマジで鬱陶しいなコレ」


 オレもオレで話してるあいだ、何度毒蛇に噛まれそうになったか。あと地味に足元が痒い。


「あ、ついでに藪蚊も入れてるって」


 オレが足元をもぞもぞとしているからだろう、セイエイは足元を一瞥して言った。


「なんなの? その地味な嫌がらせ」


 へんなところでいたずら心を発揮するなよ。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 さても草叢から少し離れた場所を転々と、モンスターがポップされたらそれに戦闘を仕掛けていく。



 [ドゥシュア]Lv20 属性・水/陰

 [ドゥシュア]Lv21 属性・水/陰

 [ドゥシュア]Lv20 属性・水/陰

 [ドゥシュア]Lv23 属性・水/陰



 毒蛇四匹。セイエイは後方に、オレと綾姫が前に立って魔法を放っていく。


「[チャージ]・[ライトニング]」


 天空へと光の矢を放ち、チャージの効果で分裂したヒカリがドゥシュアにダメージを与えていく。


「[チャージ]・[アイススラッシュ]」


 綾姫の放った氷の波動が毒蛇を切り刻んでいく。


「きぃしゃぁっ!」


 一匹の毒蛇が綾姫に飛び上がるが、「よっとッ!」


 杖でそれを叩きつけるように攻撃を返した。


「…………」


 そんなオレたちを見ながら、ウズウズと戦闘に参加したそうなセイエイ。

 何度も戦闘をしているか、メインはオレと綾姫だけで、セイエイは一度も攻撃を交えていない。


「あ、セイエイは本当にヤバい時に参加してくれるだけでいいからね?」


 そんなセイエイを察したか、綾姫が声をかける。


「なんでっ?」


 ふてくされた声で駄々をこねるセイエイだが、


「「セイエイだとこのレベルじゃ一撃で倒す可能性もあるから」」


 オレと綾姫の言い分に、「あ、はい」

 と圧されるように答えた。


「それに今日はスキルの熟練度を上げることが目的で、レベルは勝手に上がるんだから気にしないほうがいいだろ」


「だったら、あんまり[チャージ]とか補助スキルは使わない方がいい。大量に倒すのには便利だけど熟練値は通常でやったほうが成長も早くなるから」


「了解ッ!」


 なら通常で複数ダメージを与えられるスキルのほうが効率がいいやね。

 錫杖を天高く掲げる。

 すきを見せたオレに毒蛇が飛びかかる。


「[アイスエッジ]」


 綾姫が氷の波動を放つ。一匹倒しきったが、まだ三匹残っている。


「ごめん、煌にいちゃんっ!」


 謝りを入れるが、気にしていない。


「心配するなっ! [龍星群]ッ!」


 石ころが流星となって毒蛇にダメージを与える。全体攻撃だから残った毒蛇を一掃することが出来た。



 ◆[龍星群]の熟練値がマックスになりました。

  [龍星群]が[龍突星]へとクラスチェンジされます。



 戦闘が終わると、アナウンスでスキルがクラスチェンジされたことが報じられる。


「[龍突星りゅうついしょう]?」


 気になったのでスキルの説明を見ることにする。



 [龍突星] 体現スキル 属性・火

 フィールド上にある岩石アイテムをサーチドロップし、それを火系攻撃アイテムという扱いとなり、任意の方向から流星となってダメージを与える。

 ただしプレイヤーの片手で持てる大きさと重さの石のみ。(最大10kgとする)使用者のMPの20%が消費される。*チャージ兼用可能。



 内容は[龍星群]の時と変わらないが、


「任意の方向から?」


 少し違うとすればそこである。あと持てる重さが大きくなったのも地味に嬉しい。


「ランダムじゃなくて好きなところから落とせるってことじゃない?」


 覗き見るようにしてオレのうしろに立っていた綾姫が口にする。


「あっとつまり、見えない死角から放出することも可能になったってことか?」


「今までの[龍星群]だとランダムで色んなところから落ちてくるから正直迷惑だった」


「そうそう、特に範囲が広いとこっちもどこによければいいかわからなくなるし」


 ふたりとも愚痴をこぼすな。


「たしかに任意だとフレンドファイアとかなさそうだな」


 それこそ奇襲にいいかもしれない。



 さて次のモンスターを見つけて、早速[龍突星]のテスト走行でもしようかねと、そこらへんを見渡して見るや、


「これはセイエイどの、今日も一段と美しいですぞ」


 なんとも厚かましい声が聞こえ、岩の上を見上げた・・・・・・・・

 そこに立っていたのはひょろっとした眼鏡の剣士。

 小さな坊主頭の格闘家。

 前歯の長いアフロの戦士。

 大きく肥えた巨体の魔道士。


「――えっと?」


 オレが首を傾げるや、集団の中央にいたメガネの戦士が、ビシッとポーズを決めながら、


「我が名はウンリムッ!」


 と名乗りを上げる。それに続いて――、


「我が名はモリウンッ!」


 こちらは小さな坊主頭。


「我が名はニョカキュウッ!」


 こっちは前歯が目立つアフロ。


「我が名はニョフウカイッ!」


 最後に名乗るのは肥えた巨体。


「誰が呼んだかおぼえていないが、誰も呼んでないならそれもよし」


「今日も我らが親愛なる姫を見守る、悲しい男の性」


「遠くで見守り、日々の憩いを守り」


「邪悪な根源悪を絶たん」


「「「「我ら、セイエイ親衛隊ッ!」」」」


 特殊効果があるとすれば、決めポーズをした時にうしろが爆発しそうな勢いで自己紹介する四人のプレイヤー。

 え、なに? なんでこんなのが湧いて出て来てるの?

 そんな彼らにオレと綾姫が呆気にとられている中、もっと呆気にとられていたのは言うまでもなくセイエイのほう。というよりはあきれを通り越して、怒りと羞恥心で表情が定まっていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る