第337話・勧誘とのこと



「あれ? 二人してなんの話してんだよ」


 奥座敷の襖が開き、オレと星藍はそちらを見る。

 そこには鉄門が立っており、怪訝そうにこちらを見ていた。


「ちょっとゲームのことで相談」


「あぁ、ナズナがギルドを作るってやつか?」


 なんで知ってるの? そのことをたずねると、


「ハウルからメッセージ来ててな、同じテイマーどうし一緒のギルドに居たほうが楽じゃないですか? って」


 根回し早すぎませんかね?


「ちなみにおれは参加してやらなくもない。こっちも色々と行動範囲が広くなるからな」


「でもたしか鉄門くんって魔獣演舞でかなり有名だったわよね? 他のギルドから誘われたりとかしてたんじゃない? テイマーだけのギルドもあるわけだし」


「たしかに誘われてたけど全部断ってるんだよ。そういうのは誘われるじゃなくて入りたいって思ったところじゃないと」


 花愛から誘われてるけどそっちはいいのか?


「あのなぁ、おれもハウルも同じギルドに入りたいって思ったから意気投合してるんだぞ?」


 オレがけげんそうに見ていたからか、鉄門は口をすぼめた。


「ちなみにハウルからの言伝ことづてだが、おれとハウル、テンポウ、綾姫は入る気でいる」


 まぁ、もともとはハウルと綾姫がオレがギルドを作らないかって思って話をふったのがことの始まりでもある。

 が、妙に気になるのがあった。「恋華はどうなのかしらね?」


 星藍がそう口にする。


「一応綾姫がギルドに入らないかって誘ってはいるみたいだけどな」


 あの猟犬なら有無を言わさず入りそうなんだけど、まぁ理由を考えると遠慮しているってところか。


「別にあの子がどこのギルドに入ろうとわたしには関係ないと思うけど」


 言うや、星藍は眇めるようにしてズボンのポケットからスマホを取り出した。

 そして画面を見るや、スッと立ち上がり、座敷の隅へと引っ込んだ。


「もしもし……」


 声は聞こえないが、淡々と電話先の相手と会話をしていく中、


「いいかげんにしなさいよ恋華っ! あんたわたしが入ったからって自分も入るわけじゃないでしょうね? そういうのはプレイヤーの自由なんだからあんたが入ろうが入るまいがわたしには関係ないでしょ?」


 星藍の怒声が反対側にいるオレや鉄門にも聞こえてきた。


「どうやら相手は恋華らしいな」


 会話の内容的にオレが設立するギルドに関してらしい。


「でもあそこまで反対するかね?」


「ビコウが運営側の人間だってのは知ってるだろ? 本人はそれがネックになってるんだよ」


「なるほど、つまりビコウがギルドに入ると自分たちに迷惑を掛けてしまうってことで躊躇してるってことだな」


 鉄門はポンッと得心したように手を叩いてみせた。


「でもそれで文句を云ってくるやつはビコウがゲームマスターの一人だって知ってるやつだけだし、あいつのデータはプレイヤーとしてのアカウントだろ? MOBのデバッグをする以外は普通にプレイヤーとしてログインしてるじゃんか」


「うーん、それとこれとは違うかもしれないな」


 オレとしては居てくれたらそれだけでいいんだけど、


「そもそも恋華にあそこまで言うかな」


 そんなことを考えていると、星藍は電話を終えたのか、こちらに戻ってきた。


「まっ……たく」


 かなりお冠のようである。


「ビコウがそこまで怒るってかなりのことだよな?」


「別にあの子がどこのギルドに入ろうといいのよ。あの子が決めることだしね――、ただわたしに依存するのもいい加減やめなさいっ思わず怒鳴って」


 静々と食べかけていたうどんの麺を口に啜っていく星藍は、


「それでやっぱり恋華も綾姫から煌乃くんのギルドに入らないかって誘われてたけど」


 あきれ顔でオレを見た。


「ビコウが入らないと自分も入らないって駄々こねてたから思わず……か」


「そこは遠慮しなくてって思うんだけどね」


 喰い終えたうどんのどんぶりを見つめながら、


「みんなが言うほど簡単なことじゃないのにね」


 とつぶやいて、お椀をもって座敷を後にした。



「――あれ?」


 オレの隣で腰を下ろしている鉄門が指折り数えた手を見ながらくびをかしげる。


「どうかしたか?」


「いや、仮にビコウやセイエイを入れたとしてちょっと人数を計算してたんだけどよ、全然人数足りないだろ?」


 言われ、オレは自分でも指折り数えてみた。

 元々の発案者であるハウルと綾姫。それに準じてハウルから誘われた斑鳩。話を振られた時に一緒に居たテンポウ。そしてビコウとセイエイ。

 そしてオレを含めた計七名になるからギルドを設立するメンバーは足りない。


「他に心当たりはいないのか?」


「ケンレンは……ビコウとセイエイと一緒で入ってくれなそうだし、サクラさんも一緒だろうなぁ」


「仮に二人が入ってもまだ九人。ひとり足りねぇだろ?」


 オレはそう言われながら、一人どうしても入ってほしいと思う人がいた。


「ローロさんは……ムリか」


 そう口にすると、鉄門はギョッとした顔つきで、


「ローロ……って、明さんか? そりゃぁリアルで知り合いだし入ってくれればいいとは思うが」


 とうろたえた。


「うーん、ビコウたち以上に無理ゲーか?」


「無理ゲーどころか、ローロさんの立場を考えてみろよ。オレもだけどお前だって武器の作成にお世話になってるだろ? ただでさえ他のギルドが抱え込もうとしてるんだぞ? まぁ自分たちが優位になるようにって感じだろうけど」


「明さんはリアルがあるからおいそれと束縛はしねぇよ。もちろんビコウもだけど」


「でも多分断られると思うぞ」


 オレはスマホを取り出し、


 ◇シャミセン:ギルドを作ろうと思っているんですが、内のギルドに入ってくれませんか?


 [線]で明さんに連絡というか、ギルド設立の話を持ちかけた。


 ◇ローロ:すまないがギルドに入るのは断っているんだ。誘ってくれたのは嬉しいけどね


 明さんからのメッセージは、予想通りことわりの文章だった。


「やっぱり断られるか」


 おれはうむと肩をすくめる。


「なら、条件付きでこれはどうだ?」


 オレはメッセージを送る。明さんにはギルドに入ってほしいからというのもあるが、一番の理由は――、


 ◇シャミセン:ギルドに入れば他のギルドから誘われることはないでしょうし、こちらもローロさんを他のプレイヤーから取り上げようって気はサラサラないですよ。


 ◇ローロ:たしかにギルドに入れば他のギルドから誘われることはなくなるだろう。しかしギルドに入った以上貢献しないといけないのは社会人としても一緒だと思うけどね?


 ◇シャミセン:ローロさんがうちのギルドに入ったら、まずオレのギルドじゃないと手に入りにくい素材アイテムを無償でローロさんに提供する。ローロさんはそれを使って武器の製作をして他のプレイヤーのサポートをする。


 ◇ローロ:君のギルドにではなく、他のプレイヤーにかい?


 ◇シャミセン:制作した武器の相場5割の値段でうちのギルドにアイテムの納品代金を支払う。


 こうすれば普段は手に入りにくいレアアイテムを使って武器が作れるし、ローロさんは強化した武器をプレイヤーに卸せる。


 オレが提案したのは、武器の性能で付加した値段ではなく、元々の値段によるものだ。

 例えばの話、武器を制作するとなると素材アイテムが必要になる。

 ローロさんがプレイヤーから好意を持たれているのは、素材アイテムをもっていけば値段がその分安くなるということだ。

 つまりローロさんのお店に素材アイテムをもってくれば、その分制作に必要な依頼金が安くなるため、プレイヤーは挙って素材アイテムをもってくることが多い。

 それもそうだ。そもそも素材アイテムがなかったら武器の製作は出来ないし、なによりもっていないものを何もない状態で作れというのはどだいむりな話。

 逆に言えば、オレが提案したのはオレの運があれば手に入るかもしれないアイテムをローロさんのところに卸して、その武器が公式が設定した値段の5割で購入できるということになる。

 もっともこの考えは完全にローロさんにしか利益はないけど。


 ◇ローロ:すみません、少し考えさせてください。


 ◇シャミセン:わかりました。


 考慮はしてくれるようだけど、まだもうひとつ押しが必要になるな。

 とはいえ、こちらの条件は伝えたし、あとはローロさんが決めることだ。

 妹……漣のことを話そうとは思ったが、それはそれ、コレはコレだ。



「おい、煌乃、鉄門ッ! 休憩時間はとっくに過ぎてるぞ」


 バイトリーダーが座敷の襖を開け、オレと鉄門に声をかける。


「マジか? くそあんまり休憩できなかったな」


 鉄門は一切れのサンドイッチを口に詰め込み、


「ナズナ、今はギルドを作るより明日のご飯のためにも仕事を頑張ろうぜ」


 そう口にして、お茶で口の中のサンドイッチを流し込んだ。

 言ってることは正論なんだが、ハムスターみたいな変な顔で言われても説得力がないぞ。


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