第336話・誘い水とのこと



「はい?」


 ハウルがキョトンとした顔でオレを見る。「いや私たちが言ったからって作らなくてもいいんだけど?」


「そうですよ、別にシャミセンさんが気にすることじゃないですし、わたしも自慢じゃないですけどLUK幸運値は高いほうなんですから」


「いや、それとはまた違った話でな」


 言うや、ハウルとテンポウは首をかしげる。


「どうかしたんですか?」


「フレンドの位置を把握したりはできるよな? それと一緒でギルドメンバーがどこにいるのかって把握できないのかなって」


「あぁそれはできると思いますよ。MMORPGってフレンドがどの地域にいるのかはわかるようになってますし、さすがに普段使いができるシステムでギルマスが使えないってのはないでしょうし」


「同じフィールドとかにいれば簡易マップで位置がわかるからね。ただちょっと注意しないといけないことがあって」


「注意しないこと?」


 オレはオウム返しするように聞き返した。


「星天遊戯って初心者が狙われないようにわざと名前やレベルがわからないように匿名が使えるじゃない? それもあってかフレンド登録していなかったり、PKプレイヤーキラー以外はアイコンが見えないようになってるんだよ」


 その話にどこか見覚えがある。


「前に綾姫がシャミセンさんと会った時がそうかな」


「そういえばそんなこともあったな」


「あっと……、要するにシャミセンさんが言いたいのはフレンドというかギルドメンバーがどのあたりにいるのかを把握できないかってことですかね?」


 テンポウの言葉にオレは肯いてみせた。


「それにしてもなんでそんなことを?」


 疑うようにオレを見据えるハウル。「いや今日新しくフレンドになったプレイヤーがいてな」


 オレは今日あったことを、特にアスィミに対してのことを二人に話す。


「それ、普通にパーティーからはぐれたってことじゃないの?」


「でもいくら状況が悪くても連絡のひとつくらい出すだろ?」


「まぁことわりのひとつくらいは出しますよね。イベントで連絡が取れないとかじゃない以上は」


 やっぱりそういう流れが普通なんだろうけど、


「でもその子の保護者っていうのもアレだけど、仲間のプレイヤーが戦闘後すぐに現れるってのも妙な話だよね」


 ハウルがテンポウに視線を向けつつ、オレに気を配る。


「そこんところは、ナツカも知り合いっぽかったっし」


 オレもオレで、テンポウに目をやった。

 そんなテンポウはキーボードウインドゥを展開し、どこかにメールを送っているところだった。


「「なにやってるの?」」


 オレとハウルの声がハモる。「よし、こんな感じかな?」


 タンッとキーボードを叩く音が聞こえるような感じで、テンポウは文字を打ち終えたようだ。


「誰かにメッセージでも?」


 怪訝そうにたずねてみると、テンポウはオレを見て、


「こういう時に一番役立ちそうな人がいるじゃないですか」


 したり顔で言われましても困るんですが?


[ビコウさまからメールが届いています]


 アナウンスが聞こえ、簡易ステータスを確認するとメールマークのところに新規メッセージが入っていた。


 ◇送り主:ビコウ

 ◇件 名:今仕事中ですよ。

  ・テンポウからメッセージが来てましたが、内容から察するにシャミセンさん絡みだと思うので、メッセージを送らせていただきます。

  ・運営側から言えば、今回のクビコさんの行動はおかしな点はありません。

  ・ですがプレイヤーからしてみれば突然シャミセンさんやナツカのところに来たというのはいささか疑問点があります。

  ・またパーティーを組んでいたプレイヤーが離脱する場合、その旨のアナウンスがはいりますから、アスィミもそれに気付いていないとおかしいですね。


 という内容のメッセージだった。


「運営としてはおかしくないが、プレイヤーとしてはおかしな点があるってことか」


 オレが自分のステータス画面に注視していたのを疑問に思ったのか、


「あれ? もしかして私のほうじゃなくてシャミセンさんの方にメッセージの返答来てません?」


 テンポウが怪訝そうに言う。「そうだけど?」


「なんでそうなるんですか?」


 喚くな。言いたいことはわかるけど…………、


「ほら、今日ビコウはスタッフとしてMOBの調整をしないといけなくてバイトの時間まで束縛されてるんだから」


 オレがなだめるが、テンポウは納得の行かない表情で睨んでくる。


「だからって、だからってぇ!」


「ほら、準備も出来たんだし装備品の熟練度あげよう」


 ハウルがテンポウをなだめ、もとい抑えるようにして店をあとにした。

 オレは二人を見送りながら、もう一度ビコウから来たメッセージに目をやった。


  ・後記 ギルド設立に関してお聞きしたいことがあるので、今日の休憩にでも話をしましょう。


 多分オレにメッセージを送ったのはこっちがメインなのだろう。

 そんなことを思いながら、オレはオレですることもないのでログアウトすることにした。


 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎


 オレや星藍、鉄門が働いている居酒屋では、スタッフの休憩を客に迷惑がかからないようにスタッフルームから一番近い人目の付かない奥座敷を休憩室として設けている。

 そもそも客入りが多かったら休む余裕などないし、オレの場合は事務の仕事に目処がついたら他のスタッフの手伝いもしないといけない。

 よっていつでも出られるように調理場と並列したスタッフルームの近くで休むように義務つけられているから、自然とこの奥座敷で休むことになっていた。

 そんな座敷のテーブルの隅で、オレは軽食のサンドイッチを頬張る中、


「それで、一応話は聞くけど、ギルドを作りたいってことでいいのかな?」


 と、対面しているビコウが軽めのうどんを食べながら問い質していた。


「まぁ他のみんながどこにいるのかってのをつぶさに認識できればって思ったんだけど」


「それは別にパーティを組んでいればシステム上どこにいるのかってのがわかるけど」


「でも組んでないギルドメンバーの場所は把握できないだろ?」


 言い返すと、ビコウは怪訝そうなかおでうなずく。


「つまりシャミセンさんが言いたいのは、別の場所にいるプレイヤーを監視できないかってことですか」


「言い方はアレだけど、要はそういうことなんだよなぁ。出張でばらったプレイヤーがどこにいるのかってわかればメッセージとかもできるかもしれんし」


 オレがその場に居なくても情報の共有はできそうだし、なにより……


「ピンチの時にそっちに行ければなって思うんだけど?」


 オレは懸念している部分を口にした。


「あ、それはさすがに無理ですね」


 バッサリ切られた。


「あぁ、やっぱテレポートの魔法スキル持ってないとだめとか?」


「簡略的に言えばそうなりますけど……」


 星藍は一度うどんを口にし、


「他のプレイヤーの場所がわかるようになるか云々よりもまず、設立に必要なギルドメンバーをどうするのかって話ですよ」


 確か最低でも十人必要なんだっけか。


「うーん、他のフレンドに相談してみるかなぁ」


「あ、わたしは無理ですよ」


 ちいさく、なぜか苛立った声で星藍は口走った。


「なんか入れない理由とかあるの?」


「理由も何も、わたしはプレイヤーとはいえ運営側の人間ですからね。それを知っているプレイヤーから批判されるのが目に見えてるのに、誘うって気じゃないでしょうね」


 にらみつけるようにオレを見る星藍に、


「えっ、そうだけど?」


 とくびをかしげてみせると、星藍はバンッと手に持った箸をテーブルに叩きつけた。


「なんでそう楽観的に考えるのよ? わたしをメンバーに入れたらそれこそ爆弾を背負うようなものよ? だいたいナツカのところに入らなかったのだって――」


「自分が運営側の人間だからってことだろ。そんなの関係――」


「あるわよッ! それで迷惑をかけて一番苦しいのは誰かわかる? 自分が悪いんだって理解している人よ」


 星藍は肩を震わせる。さすがに話が拗れてきたか?



「でもなぁ、すくなくともビコウにはいてほしいんだよなぁ」


「フレンドとしてなら今と変わらずに付き合うけど、ギルドメンバーに入れようものならこっちからフレンド切るわよ」


 さすがにおかんむりのようだ。交渉決裂か――と思ったのだが、ちょっと腑に落ちないことがある。


「あれ? そもそもビコウのプレイヤーデータはチートもなしで成長させたやつだろ?」


「まぁ、そうだね」


「なら別に問題ないんじゃない?」


「あのね? 全然理解してないようだからはっきり言うけど、わたしはGMでなおかつイベントの攻略も全部わかってるのよ? そんな攻略本を常に携帯しているプレイヤーを置いたらそれこそ非難されるの見えてるでしょ?」


「でも最初あった後のイベントには参加してたよな?」


「あれはクエストの攻略は必要ない純粋なバトルロワイヤル形式の――」


 星藍は「アッ……」と口にする。


「オレは別にビコウ・・・をイベントに参加させたいわけじゃないし、参加しなくてもいいんだよ。そこは本人の自由ってことになるけど、お前がいればオレが居なくてもうまくまとめられるだろ」


「その誘い方だと、わたしがサブマスって位置づけになりそうなんだけど」


 なりそうもなにも、最初からそのつもりだ。

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