第328話・七星とのこと
ナツカから定鳳丹を一粒もらい、それを口に含んで舌の上で転がしてみると、
「んっ? 妙に
舌の上で広がるのは薬特有の苦々しさというよりは、すこし甘めのイチゴドロップ。
「あぁ、使う人によっては薬臭いのが苦手って人もいるからね。うちの定鳳丹は白水がちょっと改良したもので、子供でも安心して舐められるように舌触りに甘味が含まれているのよ」
たしかにこれだと薬も呑みやすい。
◇定鳳丹の仙気が体内に広がり、身体は金を帯び強風をも凌ぎ歩みを止めない。
効果制限時間は現在[02:59:44]です。
「時間制限があるから、目的のところまでならアタシも知っているから案内するわよ」
「それじゃぁ、もう一回鳥居をくぐってみますか」
鳥居をくぐった先は、相もかわらず、陽光を反射させ、視界を
「うわぁぁああああああああああっ!」
「きゃぁぁあああああああああああああああっ!」
「どぅわぁあああああああああっ!」
「ぐわぁあああああああっ!」
……と、オレたちのあとから入ってきたプレイヤーが、風圧に押し負けて外へと吐き出されている。
「今の人たちって、定鳳丹を呑んでいないってことですかね」
フリンクがオレのマントの裾を握りながら、聞いてきた。
「まぁそうだろうな」
そう返答してから、
「もしかしてシュエットさん、これを考慮に入れていたんじゃ?」
という不審感を抱いてしまった。
「それとシャミセン、ちょっと離れると危険だから……」
言うや、ナツカはオレのズボンのベルト通しに赤い縄を結びとおした。
もう片方をナツカは
「これならある程度の制限はあるけど、三人とも中距離での戦闘はできるし、なにより離れ離れにならないわよ」
雪山で一番怖いのは遭難することだからだろう。
「ワンシアがいればこういう心配はあまりないんだが」
「場所が場所だからね。それにテイムモンスターを使った捜索とかもできるけど、今回はそれこそ[月夜に
「それはいいとして、視界が悪いことには先がまったく見えんのだけど」
いまだに暴風雪……ほとんど渦の中にいるかんじで、定鳳丹のおかげで飛ばされる心配はないのだけど、周囲は未だに見渡せるわけもなく、五里霧中……いや五里
「あら? たしか
オレがどうしたものかと叩頭していると、はて……といった具合に、ナツカが首をかしげてみせた。
「ナツカやビコウたちが持っている[
というよりは、障害物とか関係なしに見える
夏休みに、森の中で訓練を兼ねた鬼ごっこをした時、
「覚えておいて損はないと思うわよ……といいたいけど、まぁ取得は難しいかなぁ」
「どういう意味?」
首をかしげ、けげんな顔つきで聞き返す。
「いや、取得方法が完全に見えない状態じゃないとダメなのよ。つまり夜目が見えている状態だとクリアしてもスキル獲得にはならないわけ」
「それって街灯もない山の中にある寒村に住んでいて、懐中電灯なしで山の中をさまようくらい危険な気がするんだけど」
「そういうこともあるから、あまり難しくない簡単なダンジョンで取ったほうがいいみたいよ。今みたいな意見もあるから、さすがにビコウも考えてるわよ」
ナツカはちいさく嘆息をつく。
「火眼金睛が使えるのは、この中だとナツカだけか」
「ワタシも持っていませんのでそういうことになりますけど、――ちょっと待ってください」
フリンクはそう口にするや、腰ベルトに着けていた短剣を抜いた。
刀身
刀身に銘打たれた北方玄武七宿の名
星官七つの力を宿し 妖魔従える宝剣 銘は七星剣
フリンクが抜いた宝剣に、オレは見覚えがあり、
「もしかして、それって
そうたずねるとフリンクはうなずいてみせた。
たしかテンポウがそれを持っていて、インホグイという巨大な陸亀を召喚できたはず。
「おいでハクキ」
言うや、フリンクが七星剣を一振りすると、毛並みの白い天馬――
というよりは身の丈
いや一応召喚したフリンクのために弁解しておくけど、白い毛並みに羽があるから天馬に間違いはないのだが、
「ん~~ぁ~~(=ω=)」
気高い天馬のイメージなどドブに捨てたといった具合に、驢馬は気の抜けるような欠伸をし、その場に伏せた。
うん、驢馬って言うより
「どう見ても役に立つとは思えんのだけど」
というか、おしりをオレのほうに向けてだばだばとクソを垂らすな。駄馬だけに。
「で、でもシャミセンさん、物事を見た目で判断してはいけませんよ。この子見た目は駄馬……いやいや驢馬ですけど、ユニークモンスターで敏捷性は足の長さとかでダメですけどスピードは馬モンスターの中でもトップクラスですから」
主であるフリンクが顔を赤らめ、声を震わせながら言い返してきた。
「本当に役に立つのかねぇ?」
訝しげな視線を馬にぶつけると、驢馬はスクッと立ち上がるや、
「んぁ~~っ、フリンクちゃんの頼みごとならなんでも聞くのねぇ」
とフリンクのところまでひょっこりひょっこりと歩み寄った。
「って、喋れるのか?」
オレがおどろいて見せるや、
「あぁユニークモンスターって喋る事もあるみたいよ。ほらあんたのワンシアだってユニークモンスターといえばそうなるでしょうが」
ナツカがオレにすがめながら言う。
ワンシアの場合は
「んぁ~~、ちょっと三人とも、周囲に妙なのがいるのねぇ」
ハクキが険しい声を上げ、警告を促した。
「モンスターか?」
左手に持った錫杖を構え、戦闘態勢にはいる。
「数は……ざっと4、5匹ってところかしら」
ナツカの瞳がカッと朱に染まる。おそらく火眼金睛を使って、周りを見渡したのだろう。
「ハクキ――だっけ? もしかして火眼金睛に近いものを持ってるとか?」
「いえ、この子は危機感知能力が優れているんです。ワタシたちが普段見えないうしろも見えるくらいですし」
たしか馬の視界って三百二十度くらいあって、見えないのはおなかと尻尾あたりくらいだっけか。
「ふたりとも無駄話はその辺にして、ちょうどモンスターとの間合いが中距離になったから」
ナツカはそういうが、こちらとしてはいまだにモンスターが出現したというアナウンスすらない。
「って、目視できなかったら認識できないんだっけか」
いまだに周囲は暴風雪だからまったく視界が綺麗じゃない。
しかも風の音が轟々と耳鳴りのように聞こえていて、ナツカたちの声も辛うじて聞こえるくらい。
「んぁ~~っ! 後方突撃してくるのねぇ」
ハクキが後ろを振り向くようにオレを見据えた。
ってことは、オレの背後から来てるってことか。
「ナツカ、この山って定鳳丹がないと身動きすら取れないんだよな?」
「……大丈夫、そっちにプレイヤーらしき人間はいないわよ」
――らしきってことは襲ってきてるのは人型のモンスターってことか?
まぁいいやと考えつつ、両手を弓矢を引くように構える。
「合図はハクキ……お前に任せる」
「んぁ~~、任されたのねぇ」
ハクキはジッとオレの視界の先を見据え、オレもそちらへとライトニングの弓を構える。
ゆらりと、雪のカーテンに人影が映り込んだ。
「――っ! 今なのねぇ!」
「チャージッ! ライトニングッ!」
光の矢は数本に分かれ、四方へと放たれた。
「えっ?」
オレはうしろへと放たれたライトニングの光の先を一瞥すると、
「あふぁぁあああ」
とフリンクが涙目でオレをにらんでいた。
一応あたらなかったからよかったけど、もしかしてうしろのほうにもモンスターがいたってことか?
「アギャァ!」「イギャァッ!」「ウギャァッ!」「エギャァッ!」「オギャァッ!」
五匹命中したのか、五通りの悲痛な叫び声が嵐の中で響き渡っていく。
「あれ?」
命中させた本人が言うのもなんだけど、オレが狙ったのは目の前の人影なんだが、なんで光の矢がグインとうしろにとんぼ返りするみたいに曲がった気がしたんだけど。
「もしかしてあんた、ライトニングの熟練値が成長していて、攻撃範囲内でのホーミングスキルとか付加されてない」
ナツカがあきれた声で言う。
あんまりスキルのステータスとか見ないからなぁ、後で確認しておこう。
「なぁ~~、何匹か仕留め損ねてるのねぇ」
そんな中、ハクキが憤慨とした声をあげた。
「まぁ、シャミセンの攻撃力だと一撃で倒せるとは思ってなかったし、ここら辺のモンスターだったら、これで十分でしょう」
言うや、ナツカは右手に火尖槍を構える。
「[
槍を一振りするや、尖端から放たれた炎が一陣の風に乗った午の如く、周囲を駆け巡っていく。
……あれ? 周りは豪雪で霜焼けが起きかねんというのに、丙午の炎はまったくといっていいほど、血気盛んと言わんばかりに轟々と燃えている。
「もしかしてセイエイの三昧真火みたいな感じか」
たしかあれって、本来なら相性が悪いはずの水の攻撃にも耐えられるスキルだったはず。
「そう。そんじょそこらの炎使いとは年季が違うのよ。飛縁魔っ! モンスターを見つけたら問答無用で
聞こえ奏でるは 紅蓮地獄に堕ちた亡者の
「すげぇ……」
悪天候をものともせず、煌く一閃の流星のごとく駆け巡っていく、ナツカの召喚獣……、
「えっと、召喚獣って言っていいのか?」
「技のエフェクトだから、厳密には召喚獣じゃないけどね」
オレが首をかしげるや、ナツカが照れ臭そうに返した。
◇プレイヤーのレベルが上昇しました。
・ステータスポイント【5】授与されます。
そんな中、オレのレベルが上がったことがアナウンスされる。
おお、まさに棚から牡丹餅。勿怪の幸い。
「あのさぁ、パーティー組んでいるからこうなるのはわかってたけど、さすがに尸位素餐は笑えないわよ」
オレがレベルアップしたことは、当然ナツカたちにも見えているので、ナツカが肩をすくめるように嘆息をついてみせた。
「いや、戦って経験値を得ているというなら文句はないんだろうけど、ほとんどナツカからの
「……ですよね?」
オレが片眉をしかめながら言い返すや、フリンクも同意するようにうなずいた。
「それでハクキ、周りにモンスターの気配はあるのかしら?」
「ぬぅぁはっ?」
ナツカが逃げるようにハクキに声をかけるや、駄馬はそれこそ膨らませていた鼻提灯が破裂したように吃驚した声を上げた。
っていうか、この状況で寝てたのか?
「あぁっと、もう大丈夫なのね。先に進めるのよ」
「そうか……。なら先を急ぎましょう」
ナツカはうんうんとうなずいてみせるや、チラリとオレのほうへと一瞥すると、
「一応忠告しておくけど、アクアショットとか使わないでよ」
と言い残すや、オレやフリンクの腰に巻いているロープを引っ張るように先へと進んでいった。
――あっと、もしかして周りが冷気をまとっているから、水属性の魔法は使うなってことなんだろうけど……。
さすがに言われんでも使う気にはならんぞ。
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