第307話・委嘱とのこと
翌日、大学で講義が一緒だった星藍が、オレの隣で授業に目を遣っていたときだ。
「言い方は悪いけどさ、自殺した人はVRギアを熟知してなかったってことだろうね」
オレは、昨夜シダさんたちと話していたことを星藍に伝えると、星藍はテーブルの上に乗せられた参考書とノートに当たらないように、頬杖をついた。
「どういうこと?」
はてなと首をかしげるオレを見て、
「それじゃぁ聞くけど、スマホが壊れた場合、まずどこを頼りにする?」
と、星藍は眇めるように聞いてきた。
「そりゃぁ、その機種を販売していたり、契約している携帯会社の量販店に行くかだろう」
「でもそれって、量販店があるかどうかだよね?」
星藍がいいたいのはこうだろう。
「VRギアにはそういうセルフサービスみたいなものはなかったのか?」
「いちおうはあるよ。有料だけどアカウントを削除することでHDDに影響がないかってのがね」
星藍は言葉を止め、講師の説明をノートにメモしながら、
「でも、今回の事件、一番の問題はギアのHDDが壊されていること。パソコンだったら起動用ディスクや外付けHDDとかにOSをインストールされていれば起動させることができる。でもVRギアはそういうことができない」
その言葉にオレは、はて……と小首をかしげた。
「パソコンとつなげるためのUSBを使ってとかってできないの?」
「それにOSをインストールした外付けメモリーカードみたいなものを使えばって思っているだろうけど、そもそも内蔵されているHDD以外は起動しない仕様になってるんだよ」
星藍は、オレの言葉に対して、肩をすくめたように云う。
「それじゃぁHDDが死んだら、手の打ちようがないってことか」
「以前、カミナリでVRギアがおしゃかになったみたいな話があったでしょ? それって基本的には電源関係が悪くなっただけだと思うよ」
「それじゃぁ、それさえ直せばまた使えるってことか?」
そう得心したように言い返すと、星藍はそれが答えだといったようにうなずいた。
「それにVRギアに搭載されているHDDは他の、パソコンで使われているHDDとは規格が違うからね。まぁこれは
それってどういうこと? と首をかしげるや、
「まず搭載されているOS自体がセーフティーロングの独自規格だから、それで動くもの以外はプレイできないようになってる。逆にそのOSを解析すればゲームの改造もできるってこと」
星藍がにらむように答えた。
「つまり、窓で動くソフトを林檎で動かすことはできないってことか」
それにたいして、星藍はうなずいてみせた。
「だからこそ、魔女はHDDを壊すことを選んだ」
「それが一番の謎なんだよなぁ」
オレが腕を組むように唸るや、星藍は顔を黒板のほうへと向けたまま、視線だけをオレに向けた。
オレの言葉に、同意しかねないといった、けげんそうな視線。
「いや、ナツカからのメールで聞いてるとは思うけど、大塚彩葉が犯人だったとしても、彼女はまだ容疑者でしかない」
「まだ彼女が犯人だとは言い切れないものね。教えてもらった掲示板を読んだけど、もしプレイヤーだとしたら、星天遊戯の時みたいに名前を隠匿することはできない」
「どういうわけか、セイフウとメイゲツがフレンドになっていたプレイヤーの名前が消えていたことや、そもそもニネミアとフレンドになっていたプレイヤーの書き込みでは、彼女の名前も消えていた」
しかも、魔女に襲われたとされるプレイヤーの名前がNGワードとして受理されている。
「死者の名前がいえなくなっているってことになるんじゃ?」
オレがアッとちいさく声を上げるや、星藍はちいさくうなずいてみせた。
「でも、ニネミアの場合はどうなる? 彼女が死んだなんて話は聞いてないぞ?」
そもそも、闘技場でビコウと決闘をしたその日に、オレは、テンポウとともに、魔女から記憶を失う魔法をかけられている。
となれば、それをしているはずである
「しかし、どうする?」
そうたずねると、
「どうするって?」
「大塚彩葉が大学に来ていないことだよ」
そう言い返すと、星藍はむず痒そうに顔を歪ませた。
くだんの魔女とされている大塚彩葉本人に聞いたほうが早いのだが、事件発生――いや、オレとパーティーを組んで翌日あたりから大学に来ていないことや、同じ学科の生徒に訊いても、彼女のことを誰も知らない――いや、知らないというよりは見たことはあっても、話したことがなかったという。
「そっちで住所とか調べられないのか?」
星藍は、言葉を返すように首を振った。
シダさんの言っていたとおり、日本には個人情報保護法があるから、警察以外にはあまり口にできないようだ。
「煌乃くんは、わたしが運営だから聞けると思ってるんだろうけどさ、運営スタッフとして使えるのは、バトルデバッグやイベント、プレイヤーが不審な行動をしていないかを監視するために、色々と権能が許可されているアバター以外は使えないの」
星藍はそう言うと、
「そもそもわたしはNODのスタッフじゃないから、あまり口出しできない立場だからね。言い換えれば、管轄外の事件に首を突っ込んだり、指導できないって思えばいいよ」
嘆息混じりに言を吐き出した。
「玉帝には?」
「そう聞かれると思って、フチンに連絡して調べてもらったけど……」
星藍はシャープペンシルを指と指の間に回すように手遊びしながら、言葉を選んでいるようだった。
「住所がこっちじゃなくて、おそらくだけど実家のほうになっていた」
「実家から通ってるんじゃないの?」
「その住所が九州のK県だといったら?」
星藍がちいさく睨むように言い返す。
「それって、要するに――」
「ネットの支払いが銀行口座からの自動引き落としで、無線が使えれば、どこにいてもVRギアは使えるよね?」
それは言い換えれば、住所はあくまで登録時における情報で、VRギア自体は無線ネットワークが使えれば、それこそどこにいても――、電源があるところならどこでもできるということだ。
「でもNODは日本サーバーでしかプレイできない。つまり大塚彩葉が日本から出ていないってことだろ?」
「…………っ」
「それに、大塚彩葉が漣を誘ったことだって偶然なのか?」
「…………ッ」
「お前、言ったよな? テンポウが見たっていう掲示板を書いたのが大塚彩葉で、それを読んだことで漣のことを聞こうとしていたんじゃないかって」
「…………」
「そもそもあいつが漣をVRギアのテストに誘わなかったら、あいつが死――ッてぇ?」
オレの言葉を止めるように、星藍は右手に持っていたシャープペンシルの先をオレのひたいに突き刺した。
「落ち着きなさいって、そもそもそれが大塚彩葉がひとりでやったことなんて、わたしは一言も言ってないわよ」
星藍はあきれた表情でためいきを吐く、アゴをしゃくるように正面――黒板のほうに意識を向けさせた。
「どうしたナズナ、さっきからうるさいぞ」
自分を呼ぶ声がし、そちらに視線を向けると、ボンバーヘッドに褐色肌、それでいてメガネにスーツ姿の男性講師がけげんな視線をオレにぶつけた。
「す、すみません」
オレが、講師に向かって咬頭すると、
「興奮するのはわかるけど、今は授業中でしょ?」
星藍が肩をすくめるように注意するのだった。
「ごめん」
星藍に対してちいさく謝ってみせると、星藍はさほど気にしていないといったように、
「そもそもVRギアのテストは抽選だからね。つまり漣さんが選ばれたのは偶然でしかないと思うよ」
そう言うと、星藍は意識をオレから黒板の方へと向けなおした。
「偶然でしかない?」
オレは、星藍の言葉を、それこそオウムがえしするように片眉をしかめた。
「漣がサイレント・ノーツのトッププレイヤーだから、運営が抽選とか関係なしに送ったとかじゃないの?」
そうたずねると、星藍はコントとかでよくみる、ボケに対してコケるといった仕草を見せた。
あれ? もしかして違うの?
「あ、あのねぇ? 前にも言ったと思うけど、わたしと恋華は、フチンからのプレゼントでVRギアを手に入れてるし、恋華がNODのテストプレイをしたのだって、丑仁義兄さんからこういうゲームが配信されるってことで、会社の関係者だけを集めた会食の時に、一度だけ体験プレイをしただけよ」
それこそVRギアの性能を知っている星藍もだが、恋華は発売後日、送られたやつが初めてだったらしい。
でもそれって、二人が運営というか経営者の家族だからじゃないの?
「でもね、大塚彩葉が漣さんの住所で勝手にVRギアの抽選に応募したとしても、コンピューターがランダムに抽選してVRギアのテスターを選んでる。だから二人が選ばれたのは偶然としかいえない」
星藍がむずかゆそうな苦笑いで言うのだが、
「誰かが手を加えた――っていう考えは?」
「いや、それはないかな。そもそも応募にはセーフティー・ロングが配信しているPCやスマホ向けのソーシャルゲームをプレイするためのIDが必要になるし、話を聞いているかぎり、キミと漣さんはゲームでの課金とかはしていなかったんでしょ? 課金をするには携帯の番号とかクレジットカードを登録したりとか色々処理が必要だから、もし課金していたらそれが会社のデータサーバーに残っているはずよ」
「まぁそうとは言い切れないけど、すくなくともオレや漣はそうだったな」
そう答えると、星藍は、
「そうなの? たしかあの居酒屋って高校生のころからバイトしていたんでしょ?」
と片眉をしかめるように首をかしげた。
「あのなぁ、今も昔も、給料から学費とかスマホ代を出してたからな。とてもじゃないがゲームに課金するほどお金に余裕はなかったよ」
「あぁ、ごめん……わたし居候させてもらっているからバイトの給料の五分の一を生活費で出してるけど、それ以外はほとんど出してなかったし、学費もフチンが払ってくれてた」
星藍はそれこそ、
「気にしてないからいいよ。しかしIDが必要だったのか」
はて、それだとどうやって大塚彩葉は漣のIDを知ることができたんだ?
「もしかして二重アカウントをつかったとか?」
「漣さんの住所を知っていれば可能だろうけど、それはちょっと難しいかな」
「あら? どういうこと?」
さっき、ID登録にはメールだけでいいとか言ってませんでした?
「まぁこれは他言無用でお願いするけど、ネットワークに接続可能なパソコンやスマホにはIPがでてくるでしょ? それ以外の、別の機種でログインすると、たとえ本人がログインしても、登録しているメールアドレスに警告メールが送られるようになってるんだよ」
「ログインしたのが本人だったのかっていう確認をするためか」
「そう。しかもサイレント・ノーツはPC専用のゲームだから、漣さんがログインしていたのは自宅からだけだと思う」
星藍は言葉を一度止め、
「それに、セーフティー・ロングのIDはひとつのデバイスに対して、ひとつしか登録できない」
ズイッと、シャープペンシルの先をオレにむけた。
それこそその尖端がオレの眼前にあるから、ちょっとでも動くと刺さるほどの咫尺な距離。
「あぶない、あぶないから」
「あ、ごめん」
ちいさく謝った星藍は、シャープペンシルを引っ込ませる。
「でも、さっき他のデバイスではログインできるってこと言った矢先じゃないか?」
「あのね、デバイスはひとつだけど、配信していたゲームはPC向けやスマホ対応だから、IDを使えばどのデバイスからでもログインはできたんだよ。自宅のパソコンからじゃなくてもネットカフェのやつでもログインできるしね」
講師の話を片耳に、オレの話を片耳でと言った具合に聞いている星藍は、授業内容をノートに書き記していく。
その目は真剣といった感じなのだが、オレの話を聞いてくれているあたり、良心的なんだと思う。
「まぁネットカフェ限定のアイテムとか色々キャンペーンがあったりしてたけどね」
星藍の説明を聞いて、別にIDがあれば、どこでも、対応しているデバイスならゲームをプレイすることは可能だということはわかった。
が、オレはふと高校のころのことを思い出していた。
「どうかした?」
「いや、いますごくいやぁなことを思い出したんだけどさぁ、ほらスマホのゲームって3GPとかじゃなくてWi-fiのほうを推奨するじゃない?」
「まぁ最近のスマホゲームは大容量ファイルが主流だからね。ダウンロードするデータ容量を考えると遅い3GPよりはWi-fiを使ってもらうよううながすけど、それがどうかしたの?」
どういうことだろうかと、首をかしげる星藍を尻目に、
「高校の時、修学旅行と同時に漣と遣っていたスマホゲームのアップデートがあってな、宿泊するホテルが無料Wi-fiを飛ばしていて――」
「も、もしかして、それを使ってそのアップデートをダウンロードしたってこと?」
星藍がひくついた笑みを浮かべる。
「しかもWi-fiって使うだけなら無料じゃない? 漣のやつそれでブラウザゲームのほうもプレイしていたみたいでさぁ」
あぁ、今考えるとその時にウイルスとかかかってたんじゃないか?
たしかその時にプレイしていたのって、セーフティー・ロングのゲームだったと思うし。
「いやもうわかったから。つまりそれってメールとかで簡単にログインができるタイプのやつだよね? 専用のIDとかそういう登録が必要じゃないタイプの」
星藍が宥めるように言うので、オレは答えるようにちいさくうなずいた。
φ
「あ、はははは……」
本日はバイトが休みだったので、夕食を実家で済ませ、一息ついてからNODにログインした午後八時。
大学で星藍と会話したことをジンリンに伝えると、ジンリンはひきつった笑みを浮かべてはいたが、次第にことの重大さに心が折れたのか、
「ごめんなさい。ほんとぉにごめんなさい」
マイルームにある丸テーブルの上で、ジンリンは額をこすりつけるように土下座をしていた。
「まったく、無料Wi-fiを利用すると利用履歴とかを盗み見されやすいって、ニュースで聞いたことなかったの?」
部屋に訪れていたビコウが、腰に手をあてながら片眉を落とすようにジンリンを見下ろしている。
さながら、罪を告発された罪人を罰している閻魔王といったところ。
「いやだって、自由時間の時くらいスマホでゲームが遣りたいし、ブラウザゲームもちょっとソースを調べれば画像保存とかできるしね」
「うん、言い訳はお互いに納得できることを言おうね」
ナツカが苦笑を交えたように肩をすくめており、その隣にいる白水さんも憐憫とした視線を向けている。
どうやらビコウと一緒にPTを組んで、レベル上げをしようとしていたらしいが、先にオレのところで話を終えてからということで同伴していたらしい。
「要するにその時もケチってWi-fi接続していたから、その時に盗み見されていたってことですか?」
「考えられるとしたらそうだろうけど、でもこれが引っかかるとは思えないのよね」
「***っ」
助けを求めるようなジンリンの視線を無視しながら、
「それにログインしてアカウントを乗っ取ったってことか?」
オレがそうたずねると、
「いや、それはないかな。大学でも話したけど、別のデバイスでログインすると確認用メールが送られてくるでしょ? ジンリン、そういうのはなかったの?」
ビコウが視線をオレからジンリンに向け、聞き質す。
「そういうのはなかったかなぁ。うん、なかったよ」
思い出すような仕草を見せたが、確信したように心猿に言い返した。
「ビコウ、そもそも魔女がジンリンをVRギアのテストプレイに誘ったのは、シャミセンが彼女の本名を曝してしまったあとだったんでしょ? その修学旅行っていつの話だったの?」
ナツカにそう聞かれたオレは、
「高校一年の時だったよな? 十月くらいのとき」
いまだに土下座した姿勢から体制を崩していない妖精を見据えながら、そう答えた。
「それくらいの時だったと思うよ。そのあとにキミがボクの本名を曝したんだから」
ジンリンも、その時のことを覚えているらしく、オレの言葉に同意する。
「でも、そのことと魔女がボクにVRギアを送ったのとは関係がないんじゃないかな? そもそも学年が違うわけだから」
「いや、それがそうはいえないのよ」
ジンリンの問いかけを否定するように言ったビコウは、ベッドに腰を下ろし、指を絡ませながら背中を丸くさせた。
「アカウントを盗み取ることができれば、あとはその人に成りすますことができるってこと」
「ちょ、ちょっと待って? それって今回の事件と似ている気が」
白水さんが、ハッと口を開くが、
「いやそれはパソコンとかスマホとかの話でしょ? VRギアのアカウントIDは乗っ取れないんじゃ?」
ナツカが注釈するように言葉を挟んだ。
「ええ、VRギアからの接続ならIDを盗み取ることはできない……でもね、それはあくまでVRギアからの接続に対してだけなの。これ、どういうことかわかる?」
ビコウが、それこそ困り果てた笑みをうかべ、オレたちを見渡した。
「あ、うん。これってどうあがいても盗まれても文句言えないわ」
理由がわかったのか、ナツカの顔が見る見るうちに蒼白していくのが感じ取れた。
「え? どういうこと?」
オレがけげんな顔でビコウやナツカを交互に見渡した。
「それじゃぁ聞くけどさシャミセン……、あんた星天遊戯とNODにログインする時、当然配信会社であるセーフティー・ロングに登録しているアカウントIDと登録パスワードを使ってログインしているわよね?」
ビコウの代わりにナツカがそう聞いてきたので、
「まぁな、そういえばサイレント・ノーツも同じ会社が配信していたから、星天遊戯とかのログインはそのアカウントIDを使って――」
そう答えたが、次第にふたりが懊悩としている理由がわかり、オレはその場で地団太を踏むように頭を抱えた。
「も、もしかして魔女が死んだアカウントに乗っ取っていたのは――」
「単純明快にそのアカウントを乗っ取って好き勝手していたって事ですよ」
「でも、たしかVRギアに登録されるのはひとつのデバイスにひとつだけですよね? 他のプレイヤーが別のアカウントを使うことはできないんじゃ?」
白水さんが眉をしかめながら、そうたずねるのだが、
「前に教えてもらった、プレイヤーデータが入ったファイルをバックアップすることで、アプリを再インストールしてもプレイが続行できるからか」
オレの言葉に、ビコウはうなずいてみせた。
「そう。どうやって調べたのかはまだわからないけど、魔女はデータを壊すと同時に、自分のパソコンにVRギアのデータ――NODの基本データをVRギアに登録されているIDデータ諸々を盗み取った。そしてそれを使って、当人が使っているように偽造した」
「でも、自殺したプレイヤーが使っていたアカウントをどうやって調べるんですか?」
白水さんが肩をすくめるように言ったが、
「いや、アカウント自体を盗み取ることはもしかして簡単だったんじゃないか?」
「そうね。そこで体育すわりしている妖精がやったことを考えると」
ナツカが手櫛で前髪をかきあげながら、チラリとジンリンをみる。
そのジンリンは、自分がしでかしたことの大きさに押し潰されそうになっているのか、さっきからほとんどしゃべっていない。
「だけど、こうも考えられないか? 掲示板に書かれていたことだけど、妙なアイテムを受け取るとデータが壊れるってあったんだが、もしそういうことができたのなら、不特定多数に与えていたはずだぞ」
オレがみんなにそうたずねると、ナツカが口元に手を当て、
「シャミセンの言うとおり、そうしたほうが楽といえば楽だけど、魔女はそれとは違う方法として使っていたんじゃないかしら? たとえば、そのアイテムをわたそうとしているプレイヤーのアカウントIDとかを調べつくした状態で、その本人がアイテムを受け取るとメッセージでアカウントを調べるようなことをした」
と言ったのだが、
「いや、それは無理よ。セーフティー・ロングが配信しているゲームで自分のアカウントIDや電話とかメールアドレスを送るのはご法度だから、どのゲームでもメッセージは遅れないはずだから」
ビコウがナツカの推測を否定した。
まぁネットゲームというのは昔からあったみたいだし、それに伴って個人情報を連絡用伝えていたりとかあったのだが、それが原因で殺人事件とかがあったりしているから、個人情報に引っかかるメッセージの送受信は法律で禁じられているんだよなぁ。
「といっても、それはあくまでユーザー間のみで、プレゼントの応募とかで書き込むのは近似されていないんだよな」
「隠語とか、わざとひらがな表記にしてもですか? ほらガラケーの文字盤を使って打ち込むと090が[わらわ]ってなったり」
「あぁ、文字の組み合わせというか前後の文字から変換推測しているから、そういうこともできない」
「あのぉビコウさん? それってメッセージでだけですよね? 魔女がメッセージじゃなくて、指定したメールアドレスで送信するようにうながしていたらどうなります?」
ジンリンが震えた声で聞くや、
「うん、そっちは完全に蚊帳の外だから、こっちはなにもできないのよ」
あははははと、ビコウは自縄自縛したように自嘲した。
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