第274話・明星とのこと
魔女とおもわれるプレイヤーの名前を入力した途端、NGワードとして引っかかったということは……そういうことなのだろうけど、逆に規制を食らってしまうと、訊こうと思っていることが聞けないということになる。
「これ、どうしよう……」
うぅむ、まさかNGワードになるとは思っていなかったので、少々戸惑っている。
ちらりと、妖精のほうへと視線を向けるや、
「ちょ、直接ケツバさんのところに行ったほうがいいんじゃないかなぁ……」
ジンリンも、メッセージで聞けないならと、そんなことを言う。
「あれ? そういえばメッセージで【
前に【
「その方法もあるけど、やっぱり聞きたい相手がログインしているのなら直接行ったほうが無難かな。こういうのってメッセージのやり取りだけだと結構手間がかかるし、途中で魔法が切れたりもするからね」
妖精の話では、最近の随時アップデートで【
【
そういう部分は、星天遊戯におけるオレの月姫の法衣や、ナツカや白水さん、双子が使っている
「となれば、やっぱり直接行ったほうがいいのか」
まぁエメラルド・シティに行くこと自体は、転移魔法を使えばいいんだけどね。
「それもあるけど、まずケツバさんからどんなメッセージが来ているのか読んでおいたほうがいいんじゃないかな?」
あ、言われて思い出したけど、ケツバさんからメッセージが来てたんだった。改めて、オレあてのメッセージ一覧を見るや、
『そろそろ第三フィールドに行け』
と、件名にそう書かれているだけ。
「いや、そこはプレイヤーの都合でだな」
というか、そもそも運営スタッフがプレイヤーに行動指示をするのはどうかと思う。
「でも魔法のほうきを手に入れてから結構経ってるからねぇ」
苦笑を見せながら、ジンリンはうぅむと腕を組んで首をかしげる。
たしか今週の月曜に取得したはずだから……、運営としては先に進んでほしいと思っているのか。
「どうする?」
「そこは***に決めてほしいところだけどね。優柔不断は嫌われるよ」
ジンリンはオレを眇めながら忠告する。
「一度ケツバさんのところに行って、状況を整理。それから――」
ビコウとセイエイ、それからテンポウとハウルも【魔法のほうき】を手に入れているから、彼女たちがログインできた時にでも、第三フィールドに行ってみるか。
ほかのフィールドに行くことができれば、後は転移魔法で行き来できるようになるから、なにかと便利だし。
……と、そんなことを考えていると――。
◇セイエイからメッセージが届きました。
とインフォメッセージがポップされた。
「セイエイから?」
思わず、はてな、と首をかしげてしまった。
メッセージを確認すると、
『今日ムチンが買い物に行くから付き合わないといけない』
という、いつもの件名に用件が書かれている内容。
それに続いてか、
『結構遠いところまで行くみたいだし、帰りは夕方になる』
『それと昨夜は宿題してないから、やらないといけない』
とメッセージが続けざまに送られてきた。
まとめてというよりは、いつもどおり、件名に用件を書くという行為は、彼女の父親であるボースさんが社会人だということもあるのだろう。
長文の場合はちゃんとメッセージ本文に書くのだけど、簡単な文章は件名に書くことのほうが多い。
まぁ、いちいち本文を開かなくてもいいので便利なんだが、できればまとめてやったほうがいい気がする。
「つまり帰ったらご飯を食べて宿題をしないといけないからログインできそうにないってことか」
となれば、今日はログインできないってことだな。
◇ビコウからメッセージが届きました。
セイエイのメッセージ(というよりは件名)を読んでいると、その叔母からメッセージが来た。
『恋華からメッセージが来ていると思いますが』
『わたしも付き添いです』
連続でメッセージが来ているのは、メッセージ件名の文字数規制である三十文字に入りきらなかったからだろう。
内容からしてセイエイがオレに送ってきたメッセージを知っているということか。
フレンドリストを確認すると、メッセージを送り終えたからなのか、その叔母と姪子コンビはともにログアウトしている。
「そういえば、双子ちゃんたちは第二フィールドをクリアしたのかしら?」
ジンリンがそうたずねると、双子はともに首を横に振った。
「それがビコウさんたちからいろいろと聞いてはいるんですけど」
「もうすこしレベルを上げてから挑戦しようかなって」
双子はそれぞれ苦笑を浮かべながら答える。
沼地のボスの攻略法は知っていても、実際クリアできるかどうかはわからんしなぁ。
オレの場合は、そもそもセイエイやハウルとパーティーを組んだことと、プラスそれぞれが連れているテイムモンスターでギリギリのところがあったからな。
とはいえ、双子特有のプレイヤースキルというべき『阿吽の呼吸』がうまくいけば一概に無理とは言い難い。
「それだったらボクがレベル上げに――あぎゃらぁ?」
妖精の頭をつまみ、これ以上は言わせないようにする。
「おいやめろ……っ! さすがにやめろッ!」
おまえ、あの
「……っ? どうかしたんですか?」
そんなオレの行為に、メイゲツは首をかしげるが、
「いや、なんでもない」
オレは苦笑で返事をした。
「それより、ふたりにはちょっと頼みたいことがあってな」
「なんですか?」
「その……さっきオレたちが遭遇した男性プレイヤー……ふたりはプレイヤーの名前を知っているみたいだったけど――」
オレはすこしだけ考えるように間をおいてから、
「それってサンドバギーさんも知っているってことだよな?」
と言葉を続けた。
「あ、はい。もともとはパパがフレンド登録しているプレイヤーでしたから」
「となれば、運営スタッフであるボースさんやビコウに聞くが早いとは思うが」
でも遠回りしてしまう気がするし、
「個人情報を無闇に扱うなんてことはしないだろうしな」
さてどうしたものか――まぁ考えとしてはまだあるんだけど。
「さすがにこれをすると、ふたりを余計に巻き込んでしまうわけで」
「「やらせてください」」
頭を抱えていると、双子がオレをジッと見つめて言った。
「――なにを?」
「いまシャミセンさんが考えていることです。たぶんアタシたちにしかできないことじゃないんですか?」
メイゲツが上目遣いで言った。
「いや、でも……これ以上ふたりを巻き込むわけには――」
「パパに****さんのことを聞いてほしい。そういうことですよね?」
セイフウの言葉に雑音があったが、おそらくあの容疑者Xのプレイヤー名を言ったのだろう。
「その人の死がシャミセンさんたちが悩んでいることとつながっているんじゃないんですか?」
「で、でもねふたりとも……もしかしたら偶然かもしれないし」
ジンリンがなにかを察したのか、慌てた声色をあげる。
「パパに聞くくらいだったら大丈夫です。それに――借りたものはちゃんと返すものじゃないんですか?」
メイゲツがそう言うや、セイフウもうなずいてみせた。
「べつにオレはふたりになにかを貸した覚えはないのだけど」
むしろ借りていることのほうが多い気がするぞ。
自分で言うのもあれだが、ジンリンから口すっぱく言われているとおり、ゲームはいまだに下手の横好きだし、みんなに迷惑をかけているしなぁ。
「シャミセンさんは意識してないかもしれませんけど、アタシたちもそうですけど、みんななにかしら借りは作っていると思いますよ。それと同じで、シャミセンさんもみんなに借りは作ってますけど」
そんなことを考えている矢先、メイゲツはさり気なくオレをフォローするようなことを言う。
「まぁ、どんなかたちとはいえ、借りは返すべきだと思いますけどね」
セイフウがクスクスと笑みをこぼしながら、
「それにオレたちふたりがやりたいと思ったから言ったんです。もうひとつ理由があるとすれば、やっぱりこの前までログインしていた人が急にいなくなると、やっぱり不審に思うじゃないですか」
ジッとオレを見据えるように言った。
そうかねぇ? こういうのって当人の都合にもよるだろうけど。
双子はオレからの返答を待っているかのように、ジッとオレの相貌をみつめている。それがなんとも歯がゆくこしょばゆい。
拒否権などもとからないような――そんな視線だった。
「はぁ……」
思わずあきらめともいえるためいきをついてしまった。
オレ、たぶんこの子たちが思っている以上に、みんなに借りを作っているのかもしれない。もうひとつ付け加えれば、これからも作っていくのだろう。
まぁその倍以上は返していかないと割に合わないけど。
「わかった。ただし条件がある。サンドバギーさんからふたりが言っているプレイヤーのことを聞いたら、キチンとオレに話すこと。それからこれ以上のことは首をつっこまないこと」
そう注意を払うや、「わかりました」と双子は答えた。
「***、最初のほうはわかるけど、やっぱり……」
「ジンリンさん、アタシもシャミセンさんと同じ立場だったら、たぶんこれ以上だれかを巻き込みたくないという気持ちはわかると思います」
「でも、よく言うじゃないですか。『毒を食らわば皿まで』って」
そんなことを言うセイフウに、オレは思わず肩をすくめた。使い方間違っている気がするのだがねぇ。
「えっと、二人がこれ以上NODでおきていることを知ると、逆に危ないから***は止めているんだけどなぁ」
ジンリンもあきれたような声で肩をすくめていた。
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