第244話・嫉妬とのこと
「
その大きな体躯をひるがえしながら、スィームルグ状態のワンシアが、落とされていくオレとセイエイを背中で受け止める。
やわらかい羽毛がクッションとなって、結構な高さから落ちたにも関わらず、墜落によるダメージはほとんどなかった。
「シャミセン、大丈夫?」
オレの顔を覗き込むように、チョコンと座るセイエイがジッと見つめるように聞いてきた。
「あぁうん、ありが……」
セイエイに視線を向けるや、彼女が着ている法衣が濡れていることに気付き、オレはとっさに目をそらした。
もともと扇情的な服装なのだが、布がぬれて肌に張り付いており、それがさらにエロティックな雰囲気を出している。
「どうかした?」
そんなオレの仕草を不思議に思ったのか、キョトンとした顔で首をかしげるセイエイ。
当の本人はオレのことを気にかけているのだろうけど、
「あぁっと、自分の胸のところを見てみろ」
ここははっきりと言ったほうがいいな。
「んっ?」
セイエイは視線をオレから自分の胸元へとおろした。
「服が濡れてるだけだけど? さっきワンシアが雨を降らしたからそれで濡れただけ」
いや、その原因を説明されてもね。
「なんかこう、恥ずかしいとかそういう気にはならないの?」
「別にはだかじゃないし、それに――」
その先を言おうとしたとき、セイエイは顔をちいさくしかめ、口ごもらせる。
恥ずかしいのか、恥ずかしくないのか、どっちなのかね?
「シャミセン、わたしのはだかを見て、なんとも思わない?」
セイエイは、本人ですら納得していないような、けげんな口調で、オレに問いかけた。
「突然すごいこと聞いてくるな」
いくらゲームでも少女の裸身を見て興奮しない男はいないだろ。
まぁセイエイの場合は、なんかこう、そういうのとはどことなく違うんだよなぁ。
やっぱり本人の幼い雰囲気がそう思わせてしまうのだろうか。
年相応の反応なら、一発
「セイエイは、そういう風に見られたりとか、興奮してほしいの?」
「おねえちゃんがもうすこし羞恥心を持てって言っていたけど、羞恥心って恥ずかしいとかそういうことだよね?」
いや、そうなんだけど……。
そんなことを聞くということは、今の今まで感じたことがないのだろうか?
「シャミセンにはだかとか下着に近い服を見られるのは恥ずかしいのとはなんか違って、可笑しくないかなとかそっちの気持ちのほうが強い」
そういえば、星天遊戯ではじめて会った時、彼女はビキニアーマーを着ていた。
それ自体見ようによっては恥ずかしい気がするが、彼女はそんなことを微塵にも見せていない。
NODで最初に会ったときも、彼女の法衣は胸を強調したデザインだった。
まぁ本人は動きやすそうという軽い気持ちで選んでいる。
それが二度目の衣装チェンジのさい、シュエットさんの小さな親切、大きなお世話のせいで、さらに胸を強調した服装となってしまっていた。
そのとき、セイエイは多少の恥ずかしさを見せている。
「まぁ、本人の中にそういう気持ちが芽生えたのはいいことなのかねぇ」
オレが腕を組みながら唸って見せるや、
「そういうものなの?」
と、やはり本人の中では、そういうあいまいな気持ちの答えがわからず、おもわず片眉をしかめていた。
「そういえばセイエイって、家族以外の異性からはだかとか下着姿を見られたことがないって、ビコウが言ってたな」
まだビコウが病院で意識だけが起きた状態で星天遊戯をやっていたころ、セイエイや他のフレンドプレイヤーの何人かでビコウの病室に訪れたさい、始まりの町の裏山にある隠しダンジョンの水溜りで、オレがセイエイのはだかを偶然見たさいの、セイエイの反応をからかうようなことを言っていた。
「あれ、冗談とか揶揄じゃなくて、本当のことだったのか」
小学生なら教室で男子と一緒に着替えたりしていた気がするんだがなぁ。
そのことを聞いてみると、
「着替えのときは、カーテンで仕切って男女別々で着替えてた」
それが当たり前じゃないの? といった表情で返してきた。
「あぁっと、うん。それを聞いてなんかすごく納得してしまってる自分がいる」
あれかぁ、異性に見られることのはずかしさというか、そういう羞恥心を経験するようなことが、いまのいままでなかったのか。
「それでセイエイはどうなのよ?」
ここは年上として余裕を見せましょう。
「シャミセンなら見られても仕方ないかなとは思ってるけど、あまり見られるのはなんかはずかしい」
「答えになっていないんだけどなぁ」
というか、オレに見られても仕方ないってどういうことよ。
「おねえちゃんが、女の子のはだかを思いかけずに見てしまったりとか、胸を触ったりとかをラッキースケベだって言ってた。シャミセンってなんかゲーム以上に運が可笑しいし、シャミセンならそうだなって思ったんだけど」
セイエイは、それこそキョトンとした顔で、首をかしげる。
「お、おう……」
なんだろう、それに対してオレ自身ツッコむべきなんだろうけど。
なんか納得できてしまうのもどうかと思うぞ。
「それはそれで話をしていいかなぁ?」
ジンリンが、それこそ鬼の形相でオレを睨んできた。
「どうかしたのか? そんな怖い顔をして」
「いや別に***が誰と付き合っているとかはいいんだけどさぁ」
「別に付き合っているとかじゃないんだけど」
「うん言い訳は結構――」
オレの言い分を遮断しながら、
「それはそうと、ペロ・ミトロヒアを倒したわけだけど」
と、ジンリンは頭を抱える。
「そういえば、倒したみたいなアナウンス出てない」
ハッとした顔でセイエイはジンリンを見据えた。
「出ていないんじゃなくて、出ないのが正解なんだよ」
両手で頭を抱えながら、唸るようにジンリンはうなった。
「あのさぁ、ゲームのバランスブレイクもたいがいにしてくれない? そもそもペロ・ミトロヒアに遭遇したプレイヤーは逃げる以外に選択肢がないのに、【無属性】の魔法武器なら攻撃が通じるってわかった途端、ステータスを上昇させる魔法文字を使って、あろうことか倒すとかありえないからね」
涙目で訴えられてもなぁ。目の前の猟犬はそんなことお構いなしな気がするぞ。
それにジンリンだって、オレの計画に嬉々として賛同していたじゃないの。
「反撃してこなかったけど?」
「そもそもなんで死の宣告が三回もおきたのに、***が生きているのかって話だよ。あれ防御不可のはずなのにぃ」
セイエイの問いを無視するように、ジンリンはその小さなからだを空中で縮こまらせる。
まぁその勝因に大きく貢献したとすれば、
「みゃう」
と、セイエイの頭の上でちいさく鳴いた緑毛慧眼の西表山猫のスキルなんだよなぁ。
「それに加えてワンシアの【
「だぁかぁらぁ……普通ね、モンスターの弱点をつくでしょ? 火なら水、水なら土、土なら風、風なら火みたいな感じでさぁ。そりゃゲームだから攻略法がないわけじゃないけど、普通は効率がいいほうをするでしょ?」
「あぁっとジンリン、これだけは覚えておいたほうがいいぞ」
なんかこの一言をいうと、ジンリンの心を圧し折りそうなんだが。
「なに?」
「たとえ効率が悪くても、倒せない相手じゃないとわかった途端、オレの知ってるトッププレイヤーは怖いぞ」
たぶん、セイエイだけじゃない。
ビコウやナツカでも、連続攻撃とかモンスターを油断させながらの戦闘なんてことを結構やってるからなぁ。
「といっても、空中で掴んでくるとは思わんかった」
「シャミセン、あれってわざと?」
「いや、わざとじゃないんだけども」
まぁからだが空に放り投げられたとき、ワンシアがスィームルグに変化していたのが視界に入った。
逆にペロ・ミトロヒアはオレしか見ていないのがやつの敗因なんだよなぁ。
「もうさ、***の幸運値おかしいよね?」
「それ、今に始まったことじゃない」
ジンリンの苦笑に、セイエイがごく当たり前のような態度を取る。
オレは普通にプレイしているだけなんだけどなぁ。
「そりゃぁ、シャミセンさんですからねぇ」
テレポートでオレのところにやってきたセイフウが、すこし膨れッ面でオレの背中を蹴った。
「うわぁっと?」
空を飛んでいるスィームルグの背中に乗っているだけだから、落ちたら死ぬ。
「セイフウ?」
「一人だけ仲間はずれにされると、すごく寂しいですよ」
そのしおらしい声に、思わずどういえばいいのかわからなくなっていた。
「べつに仲間はずれにしたわけじゃないんだが」
そう思わせてしまったのなら、素直に謝るしかないな。
「これくらいで寂しいとか、甘やかせるとダメだよ」
「いやでもなぁ、セイフウがそう感じても仕方がないわけだし」
セイフウのことを忘れていたわけじゃないが、だからといって彼女が何かできたかといえば、回答に困ってしまう。
誰でもそうだが、適材適所はあると思うんだよ。
「シャミセン誰にでも優しいけど、今回はセイフウほとんど役に立たなかった」
「セイエイ……」
その失言ともいえる言葉に、思わずセイエイを睨んでしまった。
「…………っ!」
本人は本当のことを言っただけだろうし、それを言われたセイフウだってそれはわかっているだろう。
「それにしてもさぁ、***の周りにいるプレイヤーって、どうしてこう独りよがりというか、かまってちゃんが多いのかな?」
毒のようなジンリンの言葉に、
「別に自分だけがいいとは思ってない」
「たしかにシャミセンさんを頼りにしていることは否定できませんけど、だからって邪魔をするようなこと」
セイエイとセイフウが顔をしかめるようにしてジンリンを睨む。
「そう? それじゃぁ――第三フィールドに行くそのはなむけに、一回本気で殺してあげようか?」
ジンリンはゆっくりとオレから離れるや、
「よっと」
空中でとんぼ返りを打つと、ちいさな身体は、五尺四寸の少女へと変化し、フードを被った魔女の容姿へと変わった。
深々とフードを被っていることで、その顔色を窺うことができず、オレはじっとその深淵を見つめるしかできなかった。
「三人とも、こんな言葉があるのは知ってる?」
ジンリンの艶のある声に思わず背筋が凍る。
「なに……?」
それをもっとも感じ取っていたのだろう、セイエイが恐怖を押し殺した声で聞こうとしたとき、ジンリンの左手には魔法盤が展開された。
「ニーチェいわく、『深淵をのぞく時、深淵もまたお前をのぞいているのだ』」
【BYVNYWNZQ】
魔法文字が展開されるや、ジンリンの姿が消えた。
その刹那、
「――ッ!」
首元を、蛇が這い回るような感触がし、
「なぁろぉ!」
思わずその腕を掴み、背負い投げの体制を取る。
「シャミセンッ! それセイフウッ!」
セイエイの声に、オレは思わず自分が投げたのがセイフウだったことに始めて気付く。
「なぁっ?」
セイフウの腕をとっさに捕まえ、彼女を地面に落とさないよう力をこめる。
「えっ? なんで? わたしシャミセンさんからちょっと離れて……」
セイフウも、なにがおきたのかわからず、戸惑いを隠せないでいる。
「離さないでくださいよ! ぜったい離さないでくださいよぉ」
わかった。わかったから落ち着け。
「それはどうかなぁ。こんな絶好のチャンスを逃すわけ」
あぁっと、ジンリンが冷たい声でオレのうしろに立っていることは、なんとなくわかるのだけど。
「いいのか? 絶好のチャンスって言うのは誰にでも巡ってくるってことでもあるじゃないか?」
「あぁ、そうだね……」
うしろを振り向いた瞬間、そこにいたのはジンリンではなく……セイエイだった。
「ふぇっ?」
双剣を手に持っていたセイエイが、それこそ狙っていたはずのジンリンがそこにはおらず、逆にオレがいることに眼を見開く。
「おごぉわぁ」
「ほいっ!」
スィームルグから落ちそうになっていたセイエイを、ジンリンは片手で掴み、スィームルグの背中に叩きつける。
「きゃぁっ!」
「うわぁっと?」
スィームルグの身体が揺れ、バランスが崩れる。
落ちる落ちる、落とす落とす。
「ちょっと揺らさないでっ! というか落とさないでぇ」
だったら叫ぶな。大声を出すと結構身体が揺れるんだぞ。
「ジンリン、お前なに考えて」
さすがにちょっと怒るぞ。
「言ったでしょ? はなむけだって」
それはさっき聞いた。それをする理由が知りたいんだけど。
「ジンリン、さっきの魔法文字ってなに? あれが発動されてからジンリンの動きが見えないんだけど」
セイエイの疑問に、
「あぁあれ? 『サイレント・ノーツ』のステータス上昇魔法でね、【
ジンリンの返答に、オレは言葉を失う。
「セイエイ油断するなッ!」
「――っ!」
ゆらりとからだを揺らすジンリンの姿形が陽炎のように消え、気付いたときにはセイエイの背後に忍び寄り、ゆっくりと彼女のからだに手を伸ばしていた。
「意味は主題のリズムやテンポ、強弱、旋律、音色なんかを変化させながら反復させる形式の変奏曲」
「――ッ!」
セイエイはからだをひねらせ、ジンリンから逃れようとするが、
「あぁ言っておくけど、ステータス上昇といってもなにが対象にされるかわからないんだよね。さっきは敏捷性が上昇して、今は攻撃力が上昇しているみたいだね……言っておくけど、セイエイさんのステータスだと、勝てないよ」
それを聞くや、セイエイは一度だけジンリンを睨んだが、勝てないとわかるや、ものわかりがいいのか、
「はぁ……」
とちいさくためいきをついた。
「***……」
ジンリンはセイエイをやさしく解放しながら、オレに視線を向ける。
「あ、ちょっとごめんね」
そういうや、ジンリンはセイエイの左腕を取り……、
「まっ!」
オレの制止は届くことなく――。
ゴキッ…………。
「あぁがぁああがぁぁあがぁあぁがぁ」
セイエイの左腕が本来曲がるはずのない方向に曲がっており、その痛みにセイエイはその場にのた打ち回る。
「おいジンリンッ! お前いったいなにして」
「これでも本気を出していないだけまだいいんじゃないかな。はっきり言って緩いんだよ***のやりかたって」
たしかにエレンからしてみれば、オレのプレイなんて下手の横好きみたいなものだろうな。
「なんでオレだけじゃなくて、セイエイやセイフウも……」
「……嫉妬っていえば聞こえはいいだろうけど、そうじゃないんだよ――***を倒すためには誰かを犠牲にするくらいの気持ちじゃないと」
「それだけは絶対にしねぇ」
ジンリンの言葉に思わず反感を覚える。
「***っていつも傲慢だよ。わかってる? ボクはもう許してるけど……ボクがいじめられた原因って***にもあるんだよ」
「あぁそれはもう充分聞いた。贖罪も快く受け入れる。でもなぁ――」
お前が本気でオレたちを殺そうとしていないことは充分感じられている。
冷酷な態度も、お前の中にはそもそも住んですらいないだろ?
「俺の知ってる歌姫はなぁ、つまんねぇ理屈で動くほど人間ができてねぇんだよ」
「……っ! そ、それこそ***の独りよがりじゃない? なに? ボクが理屈で動かないとか勝手に決めないで! というかボクが***と中学のあいだ離れてたんだから、そのときに――」
「そう簡単に変わるかってんだよッ!」
ジンリンの言葉を、強引に押し黙らせる。
「人間なんてのはなぁ、根本的なものはかわらねぇんだよ。お前がセイエイのうしろを取った時もそうだ、あの時に首の骨を圧し折ることができたはずなのに、お前はなにもせず、攻撃してもなにも意味がないとわかったセイエイを解放している」
「……ッ」
「オレがお前と思って背負い投げしたセイフウも、本当ならワンシアの背中から落ちていたはずなのに、オレの手が届く範囲で落ちてる」
「そ、それはたまたま偶然で」
「たしかに偶然かもしれないけどな。でも、根本的にお前は優しいんだよ。オレなんかよりもずっとゲームがうまいくせに、人に合わせたり、さりげなくヒントをやったりとか、ジッとオレが来るのを待っているようなお人よしだ」
「だから、それは***が勝手に決め付けているだけでしょ?」
オレとジンリンの口論が激しくなったときだった。
「あの、お二人とも……」
ワンシアが口を出してきた。
「「なに?」」
思わずオレとジンリンの声が重なる。
「そんなところで息を合わせないでくださいませ! というかですね、さすがにちょっと変化できる時間が……」
鳴きながら……いや泣きながら状況を訴えるワンシアに、
「も、もしかしてJT切れか?」
そうたずねるや、ワンシアは顔がちいさくうなだれた。
「ちょ、ちょっと待って! さすがにこんなところから落ちたらデスペナになるって――***っ!」
「わかってる。二人とも、オレとパーティーになれ」
言うや、セイエイとセイフウからパーティー申請がきた。
それを急いで受理する。
「魔法盤展開っ!」
右手に魔法盤を取り出し、ダイアルを回す。
【WFXFTZVW】
転移魔法の魔法文字が受理されると同時に、ワンシアの身体が元の仔狐に戻った。
д д д д д д д д д
「ジンリン」
元の、妖精の姿に戻ったジンリンをじっと見つめながら、彼女の名前を呼ぶ。
「ごめんなさい」
「あぁっと、まぁ事情はなんとなく察しはつきますけど……」
深々と頭を下げるジンリンに、セイフウは苦笑を見せる。
「ジンリンからしてみれば、わたしたちは弱いってこと?」
折れた左腕を抱きしめながら、セイエイは不安げな声で問いかけた。
「――弱いというより傲慢かな。いや別にそういうプレイが悪いってわけじゃないよ。ただ……」
「ただ?」
「今回のことに関して、ボクはほとんど本気を出していない。そもそもあの魔法だってなにが上昇されるのか、そのときになってじゃないとわからない完全に運任せの魔法なんだよ」
眉をしかめながら説明するジンリンは視線をオレに向ける。
「はっきり言って、ボクはあぁいう魔法は戦闘の効率が悪くなるからあまり使おうとは思わない」
「それでなんでオレのほうを見るんだ?」
片目を瞑り、疑問に満ちた声で問いかけるや、
「シャミセン使えない?」
「というか、完全にシャミセンさんが使うべき魔法じゃないですかね?」
セイエイとセイフウも、オレをジッと見据える。
「なんでそうなるんだよ」
「シャミセン、星天遊戯もそうだけど」
「ほとんど運に任せた戦いかたしてません?」
聞こえない。聞こえなーい。
いや、本当のことだけどさ。
「あ、あははは……」
それに便乗して、ジンリンが苦笑を浮かべる。
「笑える状況か?」
そんなジンリンに、ぎろりと睨みをきかせるや、
「ご、ごめんなさい」
と、頭を抱えるように、深々とうなだれた。
「でもこれだけは忘れないでよ。たしかに***たちのプレイは緩いとしかいえない。たぶん次のフィールドでその考えが間違っていることを知らされるかもしれない」
ジンリンはゆっくりと呼吸を整えるように、胸に手を添える。
「だからこそ油断だけは絶対しないでよ」
それはたぶん彼女なりの警告だったのだろう。
「セイエイさんの腕を折ったり、セイフウさんに怖い目にあわせたり、痛めつけておいて言えることじゃないけど、これよりもっとひどいことをするプレイヤーだっている」
「それくらいの覚悟を持てってことか」
まぁいまさらな気がするけど……。
「ありがとう」
オレは思わずそう言った。
「ありがとうって、普通は怒るところじゃないの?」
「いや、オレからすればかなりの情報だ。たしかに油断しないで行くべきだが、傲慢なところはなんともねぇ」
「わたしも……ジンリンが本気を出せば簡単にわたしを倒すことができるってわかったし、それに――ジンリンがブラックリストのことを教えてくれなかったら、たぶんクリーズからしつこくメッセージが来てたと思う。もうあきらめてくれたみたいだけど」
セイエイの安堵の表情は、喜ぶべきだろうか……。
彼女は知らないのだ――、その本人がもうこの世にいないことを。
「なぁジンリン。まさかとは思うけど、こんなことをした理由って」
そうたずねると、ジンリンは視線を落としながら、
「***の考えがそうならボクはなにもいわない。だからこそ油断だけはしてほしくないんだよ」
声のトーンを落としながら、陰鬱な顔色を覗かせていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます