第139話・菽麦とのこと
最初の町に戻り、恵風のところでセイエイとメイゲツと再会したオレとテンポウと、メイゲツの三人は、その場で別れる。
というよりは、ジンリンからすこし話があると言われたからだ。
セイエイたちは、今日の目標である全員のXbを5以上にするという目標はそのまま継続して、一度休むためにログアウトしてから、午後8時くらいから再開するらしい。
まぁオレは斑鳩に一度メールをしておいて、星天遊戯の方にログインしようかなと思ってるけど。
……斑鳩がいなければ、白水さんのところにいって預かり物を受け取りに行くしかないか。
「それで、話ってなに?」
宿屋に入り、自室で休みながら、目の前を浮揚しているジンリンに声をかける。
ちなみに他の町でも、それこそどこでもドアよろしく同じ場所に飛ばされる仕様らしい。
「まぁ、そんなに難しい話ではないですけど、ちょっと気になることがありまして」
「前々から思ったけど、ジンリンってNPCじゃないよね?」
気になることを先に聞いておく。ジンリンの話はその後でもいいだろうし。
「うーん、まぁ基本的にはシステム上でのサポートフェアリーではあるんですけど、たしかにシャミセンさまのご想像どおり、私はNPCではありません。ただプレイヤーのようにVRギアを使用しながらではなく、パソコンのモニターを通して話をしていると思ってください」
つまりはボイスチャット可能のMMORPGをプレイしていると思えばいいってことか。
「もちろん、シャミセンさまがログインしている時間と噛み合わなかったり、ボクだって休みたい時がありますから、その時は本当にシステム的なことしか言いませんし、F&Aに掲載しているような返答しかできません」
本当に対人だった。っていうかなんでそんなことをしてるんだろうか。
「というか、今日お話しようとしていたのはそのことなんですけどね」
えっ? そうだったの?
「なんで運営スタッフが一概のプレイヤーであるオレにそんなコトしてるの? 同じ製作会社と関わりがあるビコウとセイエイだったらまだわかるけど」
「あっと、実はですね……ボク――いえ、私個人とシャミセンさまがちょっと関わりがありまして」
はて? オレの知り合いに、それこそ星藍と恋華、丑仁さん以外に[セーフティーロング]のスタッフや関係者はいないんだけど。
「直接的なではなく、間接的にと言ったほうがいいですね。……
ジンリンの言葉に、オレは驚きと恐怖を覚える。
いや、顔がそれを訴えるような色をのぞかせたのだろう――
「やはり、ご存知でしたか」
と、ジンリンははっきりと理解したような表情で、オレを見据えた。
「――冗談とかだったらキレるぞ。いちおう逆鱗を逆撫でしているようなもんだからな」
「いえ、冗談で亡くなった人のことを話題にしようなんて愚行はいたしません。それにこの会話はオフレコ状態にしています。――いえ、私個人が聞きたいことがあるんです」
ジンリン個人が聞きたいこと?
「いや、それを話す前に――ちょっと聞きたいことがある。なんでオレが漣の知り合いだって思った?」
「VRギアの個人情報登録」
「はて? なんでそれと漣が関係するんだ?」
「シャミセンさまは気にしたことはありませんか? どうして頼んでもいないのに通信教育の教材広告が家に届くのか」
「名簿の売買だっけか?」
「そういうことです。もちろん私たち[セーフティーロング]は名簿売買などはせず、ユーザーが購入したVRギアのID登録のさい、使用されるギアの型番を管理登録するために個人情報提供を求めています。アカウント停止はそのギアによるログインはできないようにしていますが、使用者の変更は名簿変更という名目で、すこし作業代金としてお金をもらいますが可能ですからね」
真鈴が花愛にギアを渡しているから、それが可能だということはわかっている。
「でもひとつ気になることがある。それとオレとどう関係があるんだ?」
「さきほども言いましたが、名簿売買は基本的に学校の生徒名簿が売られたりすることです。それを売買し、先ほど言った通信教育の広告郵便や電話でのアンケート集計、……オレオレ詐欺に使われるんです」
「個人情報保護法はどこに行ったっ?」
ニュースで耳にしてはいたけど、他人の住所売るなよ。
「まぁ、ツッコミをいれたくなるのはわかりますけどね」
「うん。でもなんで漣が出てくるんだ?」
VRギアが出たのって、漣が死んでから一年くらい後なんだよなぁ。
だから、普通だったら漣の名前が出てくるとは思えない。
でもジンリンは間接的にオレと関わりがあると言っていた。
それはつまり、漣に関することだ。
そうじゃなかったら、漣の名前なんて出てこない。
「実は宝生漣さんはVRギア試作ベータテストプレイヤーとして、参加されていたんです」
――えっ?
結構長い付き合いだけど、本人からそんなこと聞いてないぞ?
もちろん、漣が隠していて、おどろかそうとしていたのなら、それはそれで気にはしないけど……。
「ま、まぁ……あいつはゲーム上手かったし、呼ばれてもおかしくはないだろうな」
「それはこちらも存じ上げています。[サイレント・ノーツ]でのトッププレイヤーとして名を馳せていましたからね」
つまりは、スカウトってことか。
「VRギアに搭載されている『マインド・プランダー』はご存知ですよね?」
「話には。ギアが人間の感情……喜怒哀楽における感情の脳波を電気信号として読み込んで、プレイキャラのステータスに反映させるシステム」
そう応えるや、ジンリンはうなずく。
「現在度重なるシステムアップデートによって、ゲーム内での使用以外に使われないよう、システムの中でも解読不可能にするほどにプログラミングが組み込まれた複雑なファイルとしています。下手なハッカーでも解読不可能といえるものです」
運営だからこそいえることだろうけど、
「それがどういうわけかハッキングされているってこと?」
いちおう聞いてみましょう。
「いえ、それはまず不可能ですね。ギアの内部をハッキングしてファイルを見つけ出したとしても、ファイル自体を解読することができるのはそれを作った孫五龍社長だけです」
孫五龍って、確か星藍と丑仁さんの父親だっけ?
星藍本人はあまり話そうとはしないけど、[セーフティーロング]の企業HPに、その人の写真が載っていて、見た感じ六十代後半の、白髪交じりのイメージだ。
「あら? それじゃぁ外部からじゃないってこと?」
「内部といえば、星天遊戯で夢都さんがそれを解析して悪用しようとしていたことは私も噂で聞いています。ですが今回に限っては――VRギアのテストプレイヤーが関わっていることなんです」
どういうことだろうか?
「それと漣がどういう関係があるんだよ?」
「ゲームのベータテストではなく、その媒体となる機械のテストプレイヤー、そしてギアには電気信号によって人間の感情を読み取り、それを反映させるシステムが有ります。現在はうちの製品以外のゲームやサービスで読み込むことは固く禁止されていますし、星天遊戯やNODにその機能が付けられていますが、だからこそ悪用されないよう、細心の注意を払われているんです」
ジンリンの言葉を整理すると、彼女が懸念している理由がわかった。
「つまり、最初の頃はギアから電気信号を発して、脳波を読み込んでいたってことか?」
それが答えだと言わんばかりに、ジンリンはうなずいてみせた。
「もちろん脳波に電気信号を送るということは、古いたとえとなりますがロボトミーと同じ扱いになるので倫理問題になってしまいます。社長もそれはご存知でしたので脳波を読み込むプログラミングを作ったんです」
ということは漣がテストプレイヤーだった時は、それがまだ実装されていなかった。
でも、それならなんでオレが関わってくる?
「――いや、個人情報……、個人――」
ジンリンは学校の名簿が売買されてとか言っていたな。
「っと、そういうことか」
オレは、ジンリンがオレが漣と関わりがあるということを、それで知ったということだ。
だから、間接的にオレを監視するかたちでジンリンとしてゲームの中でオレに会ったということだろう。
「こちらとしては、漣さんもプレイしていると思ったのですが、どういうわけかシャミセンさまのログイン情報に彼女のプレイデータとリンクされているんです」
「どういうこと?」
「ギアの型番は異なっているのですが、シャミセンさまが持たれている星天遊戯のログインデータに、こちらが保存している漣さんのVRギアデータがリンクしているんです」
それって、つまるところオレのアカウントが漣のデータになっているってことなんだろうか。
「でもなんで漣のアカウントなんかが? だってVRギアが完成販売される前にアイツは亡くなったんだぜ?」
「……いえ、正確に言えばこちらが亡くなったことを知らなかったと言ったほうが話が早いですね」
「個人情報を提供してもらっても、それを調べるってわけじゃないのか」
誰かがそれを偽ればギアに登録されるってことか。
「いえ、ギアの個人情報登録は販売されてからですし、漣さんはあくまでテストプレイヤーでのアカウントデータしか残っていません」
「つまりそのデータとオレのアカウントデータがリンクしているってことでいい?」
確認するように聞いてみると、ジンリンはうなずいてみせた。
「そう思われて相違はありません」
「オッケイ、それじゃぁなんでオレと漣が関係あるって思ったの?」
「先程も言いましたが、漣さんのデータはあくまでテストプレイヤー時のアカウントデータのみしかありません。テストプレイヤーには完成品を送るようにはしていましたが、中には住所変更された方もいらっしゃいますし、理由があってプレイをしなかったり、家族にギアをプレゼントされるかたもいらっしゃいますからね」
それこそ本当に真鈴と花愛みたいな人もいるってことか。
「いちおう漣のところにもギアをプレゼントしたでいいんだよな」
「はい。送られたギアの型番もこちらで管理しています。それを使用されているプレイヤーもいらっしゃいます」
はて? あいつの家族でゲームするような人っていただろうか。
「シャミセンさまは、その型番でプレイされている方と星天遊戯でお会いされているんです」
「はっ? どういうこと? オレがそれと関係あるってことか?」
「名前を出してもいいですが、あまりおどろかないでください。これは星天遊戯の中での話ですし、あまり長い時間オフレコ状態にしますと、他のプレイ監視をしているスタッフに疑われてしまいますので」
「わかった。オレもそれはわきまえてるからな。胸のうちにでもひそめておくさ」
「わかりました」
スッと目を閉じ、なにか覚悟を決めたようにゆっくりと瞳を開きながら、ジンリンはオレを見据えた。
「[
それを聞くや、オレは耳を疑った。
「ローロさんが? っていうか朗さんが?」
オレはローロさんがリアルでの知り合いだったことではなく、朗さんがプレイヤーだったことが信じられずにいた。
「あ、あの人、将来は医者になるって、熱心に勉強していたから、ほとんどゲームするような人じゃなかったぞ? 漣から気分転換にってすこしはゲームをしていたけど、オレがそれこそちいさい時のことだから、引っ越した後のことは知らないけど」
「ですが漣さんの個人情報として登録されている住所と、ローロさんの住所は一致していますから、お二人がご家族なのは間違いありません」
「間違ってはいないだろうさ。兄妹なんだから……」
頭がこんがらがってきた。
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