第60話・待ち惚けとのこと
ステータス画面を見ると、クエストの残り時間が[59:24]になっており、イベント開始から十二時間半を過ぎている。
そのためか、周りの雰囲気が夕闇になってきている。
ただ、現実世界では割って二十四だから、三十一分くらいしか経っていない。
「モンスターの出現率も上がってきましたね」
普段のフィールドでも、周りが暗くなっていくほどモンスターの出現率とレベルが上がってきている。
そのためか、少し離れた場所にいるズヌイシュアのレベルが、25と高めに設定されていた。
ふとセイフウに視線を向けると、ギリギリと弓を引いていた。
どうやら間合いがグリーンに入っているようだ。
「[一撃必中]っ……」
バッと矢を射る。
その矢がズヌイシュアに命中した。
が、一撃で倒せるほど相手のレベルは甘くない。
「こっちに気付いたみたいです」
「メイゲツとセイフウはそこから援護頼む」
オレはパッと前に出る。
「[フレア]」
チャージなし。炎がズヌイシュアに命中する。
弱点属性による大ダメージ。
それでもHPは二割くらいしか減らせていない。
しかもズヌイシュアの特性であるVIT増加。
それによる体当たり。
[刹那の見切り]で避けられた。
「[ジイモファ]・[ホォ]」
メイゲツがセイフウに対して、攻撃属性変更の魔法をかける。
「もう一回、[一撃必中]っ!」
セイフウの放った矢が炎をまとう。
ズヌイシュアに命中した。
弱点属性に加え、クリティカルの判定。
だが、まだズヌイシュアのHPがようやく半分を切ったところだった。
「[フレア]ッ!」
慌ててしまい、至近距離からの魔法詠唱をしてしまう。
その隙を狙って、ズヌイシュアが体当りしてきた。
「あ、くそっ!」
その攻撃が当たり、オレのHPがかなり削られてしまった。
油断というか、判断ミスをした自分が悪いのだけど。
「[
ジイモファの効果が続いていたのか、セイフウが放った三本の矢には炎がまとっており、連続してズヌイシュアに命中した。
クリティカルの判定はなし。それでも弱点属性だったこともあって、ズヌイシュアのHPは全壊した。
「特にドロップアイテムはなしっと」
「シャミセンさんが一緒だから、てっきりあると思ったんですけどね」
双子がオレに近寄りながらそう言う。
「もしかしてトドメを差した人のLUKによるとかじゃないですよね?」
さすがにそれはないんじゃない?
「さてと、そろそろどうにかしないと、真っ暗になったら危ないですよ」
それはわかってる。
でも、水晶宮の中は全部見て回ったし、フィールドもこうやって歩き回ってる。
もはや虱潰しもいいところだ。
「モニュメントが見つからねぇ」
フィールドマップを開いてみるが、全体的に埋まってはいたが、なにかポイント的なアイコンでもあればいいのだが。……
「表示されるのは、今現在私たちがいる場所だけ」
最初の、入り口のモニュメントのアイコンすらない。
「これだけ暗くなってくると、あまり長くは行動できませんね。どこかで身を隠せられる場所を見つけて、日が昇るのを待ったほうがいいかもしれません」
メイゲツの言うとおり、オレも日が昇ってから行動をしたほうがいいとは思っている。
だが、これだけフィールドを歩き回っても、小屋みたいなところはなかった。
水晶宮以外の建物はどこにもないと言ったほうがいいだろう。
「いっそのこと、水晶宮の周りをぐるりと一周するってのはどうですかね?」
セイフウの言葉に、オレは唸るしかしなかった。
そんなので見つけられたら苦労はしません。
「もしくは水晶宮の中になにかしらの隠し扉みたいなものがあったりとか」
ボス部屋以外の部屋も、ヘビとの戦闘に遭いながらも、部屋の隅から隅まで、それこそ重箱の隅をつつくかのように調べている。
セイフウが場を和ませようとしているのはわかっているのだけど、すこし黙ってほしい。
そう思いながら、オレはセイフウのほうへと視線を向けるや、
「わ、私……ちょっとそこら辺を見てくるね」
セイフウはオレの近くが居たたまれなくなったのか、そそくさと逃げるように水晶宮の方へと走っていった。
思っていたことが顔に出ていたようだ。
その時見せたセイフウの顔が――恐怖で引き攣っていた。
我ながら自己嫌悪。
子供に向けるような顔じゃない。
「メイゲツ、セイフウ一人じゃ危ないから……」
「わかりました」
メイゲツはうなずいてみせると、すぐにセイフウの後を追いかけていった。
オレが追いかけるよりは、いつも行動をともにしているメイゲツのほうが適役だろう。
さて、一人になったところですこし冷静になろう。
というか苛立ちが半端じゃない。
これだけ探しても出口が見つからないというのはどうかと思う。
周りを見渡してみると、何人かのプレイヤーがパーティーを組んで歩いているのが目に入る。
「あの、すみません」
オレはその中の一人に声をかけてみた。
「えっ? あ、僕たちですか?」
ギョッとした声で剣士系のプレイヤーが自分を指差す。
他のプレイヤーを見ると、法術士、弓師、斧を持った戦士といった四人パーティーを組んでいるようだ。
簡易ステータスは見えないため、彼らのレベルがどれくらいなのかはわからなかった。
「ええ、ちょっとお聞きしてもいいですか?」
「私たちで話せることでしたら」
法術士の女性プレイヤーがそう声を出した時だった。
「あれ? もしかして……シャミセンさんですか?」
えっ? オレ、キミとは初対面なんですが?
そんな怪訝な顔をしていたのだろう、
「す、すみません。掲示板でいつも話題になっていたので……マリカといいます」
そう言うと、マリカという法術士はちいさく頭を下げる。
「そうですか。……はて?」
オレが顔バレするようなことって、あの時のチーム戦くらいだよな?
「あ、あのですな。実はシャミセンさんと他の女性プレイヤーが一緒に水着で泳がれている写真が掲示板に載っておりまして」
もう一人の戦士系のプレイヤーがそう補足する。
「あぁ、なるほどね」
なんか納得した。
別にオレ自身は見られて困るようなことはしていないので気にしないでおく。
「あ、あの……どうやって[土毒蛾の指環]を手に入れたんですか? 私あの指環すごくほしいんですけど」
マリカが詰め寄るようにたずねてきた。
あれ? それってあまり人前で使った記憶がないのだけど。
と思ったら、それもスクショで偶然撮られていたようだ。
なんかそっちのほうが恥ずかしい。
あの時は双子を探すことで必死だったから、すごい無様な顔を見せていただろう。
「すみません。実はさきほど彼女穴に落ちてしまって。かなり深かったみたいなんですよ」
それはなんとも災難なことで。
「一人が死んでしまうと連帯責任でパーティー全員がスタートのところまで戻されるんですよ。彼女の回復魔法に頼っていたところもあったのでおどろきました」
剣士系のプレイヤーが苦笑を見せた。
さて情報交換だが、やはり白水さんのことを考えると条件が生じてしまう。
「[土毒蛾の指環]はオレが知っていることでよろしければ教えてあげてもいいですけど、こちらもすこしお聞きしたいことがあるんです」
「ええ。ただで情報をもらおうとはこちらも思っていません」
マリカがそう言い返す。
「ならこちらからの用件から先に。実はこのステージのクエストボスを倒したんですけど、出口用のモニュメントがいまだに見つからないんですよ」
オレがそう言うと、
「すみません。実は私たちもそれを探している最中なんです」
とマリカが申し訳ないといったように頭を下げる。
いえいえ、あまり期待はしていませんでしたから。
さて、有力な情報とは言えなかったが、お返しくらいはしないと相手の角が立つ。
オレも[土毒蛾の指環]について情報を教えることとしよう。
「えっ? そんな方法で手に入れたんですか?」
マリカが目を点にしてる。
そりゃぁそうだ。夜光虫の手に入れる方法が、川の中に入ってそっと手で包み込むように捕まえることなのだから。
「でも製作者については、すみませんが相手の気持ちを汲んで教えることができないんです。ですが掲示板に書いてあるとおりでしたよ」
「いえ、私もそちらに関しては心あたりがあるんです。でもアクアラングがないと無理そうですね」
いちおう水中でも行動はできるのだけど、人間が水中で長時間行動できるはずもなく、やはりアクアラングを使ってやったほうがいいだろう。
「ありがとうございます。イベントが終わったらためしに探してみます」
マリカはオレに向かって頭を下げた。
「それからもうひとつ。このフィールドにまだいるかどうかわかりませんが、クレマシオンとラプシンというプレイヤーキラーがメダルを狙っている可能性もあります」
「わかっています。実を言いますとオレたちのフレンドもこのイベントに参加しているんですが、他のプレイヤーに襲われたそうなんです」
戦士系のプレイヤーがそう告げる。
お互いに、プレイヤーキラーには気をつけましょうという事になり、彼らとは別れることとなった。
それにしても落とし穴か……。
マリカたちと別れてから五分ほど経ち、双子が離れてからだと十分くらいは経っている。
そのあいだ、双子が戻って来ていないことが気になっていた。
オレは双子が向かった水晶宮へと足を向けた。
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