第46話・女子会議とのこと



 最初の町の、裏山にある隠しダンジョンでのバカンスを楽しんだ翌日の土曜日。

 時刻は現在夕方六時を多少過ぎているところ。


 ◇セイエイさまからメッセージが届いてます。


 イベント前の大型メンテナンスが終了していたので、ログインしてみたら、セイエイからメッセージが届いてた。



『シャミセン、さっきログインして、ナツカのところのギルドにいるんだけど、なんかナツカやテンポウたちが怖い。(´;ω;`)

 わたしがログアウトしてからなんかあった?』



 という内容。まったく身に覚えがない。

 いちおうチルルがハウルで、ハウルがチルルでと、自分でも理解に苦しんだ状態だったことは起きているのだが。

 セイエイは精神年齢が幼いためか、周りからただよう負の感情を直接的に感じるんだろうな。(自分の事に関してはからっきしダメらしいが)

 子供って、そういうこところがあなどれない。

 セイエイからのメッセージを読んでから、フレンドリストを確認すると、ビコウ以外の、ケンレン、テンポウ、セイエイ、サクラさん、ナツカ、メイゲツ、セイフウ、白水さん、斑鳩、ハウル……と、登録しているフレンドメンバー全員がログインしてた。

 セイエイのメッセージ内容を確認するため、ナツカに、


『セイエイからメッセージで聞いたんだけど、なんかあったのか?』


 とメッセージを送ってみた。――意外にも、一分以内で返事が来た。


『もしかして、シャミセンも知らなかった? なんかこのゲームの情報掲示板に私たちのこと書かれてた。URL添付しておく』


 ……掲示板?

 オレはその掲示板に流すように読んでいくや、頭痛がした。

 そしてある人物にメッセージでここに来いと送っておいた。

 さいわいログインしていたようなので、すぐ来ました。



 睡蓮の洞窟にあるナツカのギルドハウス。

 ハウスの玄関からしばらく歩くと、二十人がゆうに座れるほどの大きな長い、貴族が出てくる映画とかで出てくるテーブルが置かれているのだが、現在はどこにそんなのがあったのか、裁判所のようなセットになっていた。


「ギルド内でおきた揉め事や閣議をする場合や、ゲーム内における違反や迷惑行為をしたプレイヤーにたいして質疑をかもすために臨時として設置されるんです」


 ギルドのサブマスターである白水さんが教えてくれた。

 あと雰囲気なんだとか。



 被告人席のところには斑鳩の姿があり、その両手首には手錠がハメられている。手錠には魔法効果が付加されており、物理とかステータス関係なしに、攻撃力STRを『0』にまで封じることができるそうだ。

 運営が、あまりにも身勝手なレッドネームを捕まえるために作ったやつだとサクラさんから教えてもらった。


「えっと、これはいったいどういうことなのでしょうか?」


 焦った表情の斑鳩。事態をまだ把握できていないようだ。

 裁判長のところにはナツカ。裁判員の席に白水さん、テンポウ、ケンレン、ハウルが坐っている。

 傍聴席にはセイエイ、サクラさん、メイゲツ、セイフウ……そしてオレといったところ。

 他にもナツカのギルドに所属しているプレイヤーが何人か、興味本位で裁判の状況をうかがっており、オレが座っている席のななめ前に、運営側の代表としてボースさんが座っていた。


「こ、これはいったいどういうことだろうか?」


 斑鳩がもういちど同じことを裁判長であるナツカに聞いている。


「判決を言い渡します。女子の水着姿を当ゲームの情報掲示板に、プレイヤーの許可なくアップした名誉毀損により、あなたを半日間のデスペナに処します。また所持金の2/3も運営に報告し、没収いたします」


 たぶん裁判が始まる前から決めていたことなのだろう。

 裁判はものの二秒で終わった。


「ちょっとまてぇっ! なんでお前らにそんな権利がある?」


 いや、もしかしたらだが、ボースさんも掲示板を見たってことか。

 ボースさんがスッと立ち上がり、指を鳴らした。

 身丈六尺は優に超えている大柄な人なので、こっちは前が見えない。


「斑鳩さんでしたっけ? あなたのステータス画面を見てください」


「えっ?」


 斑鳩はボースさんに言われたとおり、自分のステータスを見るや、がくぜんとしていた。


「ちょっと待て、死んでもないのになんでデスペナ喰らってるんだ? ってか本当にお金減ってるじゃねぇか」


 どうやら、本当にデスペナ扱いされているようだ。運営、手回しが早いな。

 というか、ボースさんの一存ですよね? これって。…………


「まぁ、イベントには支障がない時間だからいいんじゃないか?」


 半日で赦してもらえただけいいと思う。お金の減り方が半端じゃないが。



「掲示板の画像はちゃんとあとから消してるじゃないか?」


「キミはバカなの? 死ぬの? 画像をアップなんてしたら、消したところで保存されてるに決まってるでしょ?」


 ナツカはギラリと目に角を立てるように斑鳩を見据えた。

 それはナツカだけではなく、ほかの、裁判官席に座っている四人も同様。ギルドハウスの中は明るいのだが、もし暗闇だったならば、十個の目の光がいっせいに斑鳩に向けられていたことであろう。

 オレのもオレで、画像がアップされていた(斑鳩の言うとおり、画像リンクは削除されており、見ることはできなかったが)掲示板を見たが、うん、この処置は以って然るべき処遇だとおもう。


「あんな穴があったら入りたいって言いたくなるくらいの写真まで載せなくてもいいじゃないですかぁ」


「しかもあんたなにヒントどころか答えまで言ってるのよ? 双子なんて妙な目で見られて怖いみたいなこと言ってたわよ」


 被害は、オレの想像以上だったようだ。


「というか、なに人が隠してほしいって言っていたことまで言ってるんですか? 魔獣演武やってましたよね? まだ変身魔法がユニークスキルなんですから、バラしたら意味ないですよね?」


 どうやら、ハウルは水着を撮られたというよりは、変身魔法を曝されたことに怒りを覚えていたようだ。



 実を言うと、オレも彼女たちの水着姿を映像として720ピクセルの画質で保存している。

 といっても、個人的な思い出として残してるんだけどね。

 自分の名誉のためにも言っておくが、ナツカやみんなには許可をもらっていて、ひまができればその映像を編集して、みんなに見せるつもりだった。

 ……つまり、斑鳩の場合は、無断で撮影していたということだ。

 たまに掲示板とかで如何わしい画像とかアップする阿呆がいるものだが、こういうのはあれだな。個人で楽しめ。


「斑鳩さん、これでも彼女たちの良心的な慈愛をもってのことだ。これだけの被害にあっていたのなら、最悪アカウント停止にしていたところだったよ」


 ボースさん、顔が笑ってますが、目が笑ってません。

 というか、あなたにはその権利ありますもんね?

 だって星天遊戯を運営しているゲーム会社の日本サーバーの製作チームリーダーですもの。


「ところでシャミセンさん。キミもその場にいたようですが、写真は撮っていないんですよね?」


 ボースさんがぐるりと首をオレの方に向ける。


「映像には撮りました。彼女たちからの許可はいただいています」


 正直に答えておく。


「そうですか……」


 ポンッと肩に手を置かれ、


「その映像をわたしにも見せてください。というか見せなさい。最近セイエイと一緒にお風呂に入れなくなったから、どんな成長をしてるのか気になっていたんですよ」


 なんだろうね。セイエイは歳相応に成長してるだけなのに、父親ってのはそれに気付いてやれないものなのかな?

 というかあなたもあなたで子離れしたらどうです?


「ムチンから中学生になったんだから、フチンとお風呂に入るのはやめなさいって言われてる」


 隣に座っていたセイエイがそう応えてくれました。

 たぶん言われなかったら一緒に入ってそうだなこの子。

 オレたちにですら、裸を見られることに対しての羞恥心がなかったようだし。



 それから全員解散。斑鳩は文句を言いながらも睡蓮の洞窟のキャラバンで買い物をするとのこと。

 一緒にというわけではないが、ハウルとチルルも一緒にギルドを出て行った。

 テンポウとケンレンはさらにレベルを上げるために、自分たちのレベルで入れるフィールドへと向かったようだ。


「よし、それじゃぁフチンはこれから仕事に戻る」


「うん、お仕事がんばってね」


 セイエイはそう言うや、そそくさとオレの方へとかけてきた。


「うぅ、なんか最近本当にフチンの扱いが雑になってるぞ。メッセージを送ってもわかったとかしか言わなくなってるし」


 よよよと泣き崩れるボースさん。

 見た目がでかいし怖いからよけいに情けなく見える。

 まぁ、実際もかなりでかいんだけどね。

 子煩悩と言うべきか、なんというべきか。娘の成長を暖かく見守ってあげてください。


「あ、シャミセンさん」


 さて、オレもそろそろどこかに行って、レベルあげでもしようかと、ギルドを出ようとしたのを、白水さんから呼び止められた。


「これ、バージョンアップできた[土毒蛾の指環]です」


 白水さんはアイテムストレージから指環をなおすくらいのサイズをした四角形のケースを取り出すや、オレに渡した。

 中を確認すると、前のデザインの中心にルビーが施されていて、なんか前より豪華になっている。



 [土毒蛾の指環+α2] A+40 L+10 ランク?

 土毒蛾の羽根を思わせる極彩色の宝石をこしらえた指環。

 合計LUK×50%秒のあいだ、身体を浮かすことができる。

 次の効果が発動されるまで一分のラグが必要。

 宝石部分は取り外すことができる。



 予想以上に成長してました。しかもタイムラグが短縮されてる。

 というかLUKがついてて、これには思わぬ誤算。

 たしか今の段階だとLUKは175だから、装備すれば185になる。

 浮揚時間はだいたい90秒前後といったところか。

 あれ? 水神の首飾りの付加はかわらず+8のままだから、それを加えて計算し直すと……96秒くらいか?


「それから宝石店で鑑定してもらったら、シャミセンさんが私に渡したルビーは最高ランクのものだったようです。なので加工で使わなかった部分もありますから、まだ宝石としての価値はあると思いますよ」


 そう言うや、白水さんは指環と一緒に宝石も返してくれた。

 宝石は、ちょうど五十円玉の半分くらい。


「良質なものだったら、それでもかなり高く売れる」


 セイエイがオレのそばへとやってきては、覗き込むように指輪を見ながらそう説明する。

 いくらくらいで? と聞こうと思ったが、それを察したのか、セイエイは首を横に振った。わからないといったところだろう。


「まぁ、また使うかもしれないし、売るより取っておいたほうがいいな」


 そう思い、倉庫の大切なものにしまっておくことにした。



「で、シャミセン。今日はどうする?」


 別にパーティーを組んでいるわけではないのに、セイエイが誘いに来た。

 そうだな。とりあえずセイエイが一緒だからってこともあるから、すこし試したいことがあった。


「前に言ってた[熊蜂ベアード・ビーの蜂蜜]だっけ? あれを採取しに行こうと思ってる。セイエイにはそこまでの道案内をお願いするよ」


「でも周りのモンスター、今のシャミセンで勝てるとは思えない……というか今のままだとまだムリ」


 と、すこし残念そうな表情でセイエイから忠告を受けた。


「どういうことでしょうか?」


 予想外な返答だったので、オレは近くにいた白水さんに目をやった。


「あぁ、セイエイちゃんが言っている[熊蜂ベアード・ビーの蜂蜜]が採取ドロップできるフィールドが、今のところレベル制限がされている場所でしか発見されていないんです。そこはプレイヤーのレベルが30以上じゃないと入れないようになってるフィールドですね」


 白水さんがそう説明してくれました。


「周囲にいるモンスターの平均レベルが20なら、それくらい成長させないとダメだってことか」


「セイエイちゃんも気長に待つしかないわね」


 セイエイはちいさくうなずいた。

 でも今のところはってことは、もしかしたらアップデートで別のところでも出没している可能性がある。

 蜂の巣がありそうな場所を手当たり次第探せばもしかしたら……。


「あ、熊蜂ベアード・ビーが発見された情報によると、最低でもレベル20はあるみたいですよ」


 白水さんが釘をさしてきた。

 大丈夫。こっちは[蜂の王]があるから。


「[○○の王]スキルは、自分よりレベルの低いモンスターにしか通じません。しかも高レベルのモンスターには極稀に[反逆者]があるようですよ」


 かけているメガネの端をクイッとあげるような仕草で白水さんは忠告する。あの、白水さんってエスパーですか?

 なんで人の考えていたことがすぐに分かるんですかね?


「レベルあげするしかないね」


 そんなやり取りをセイエイが苦笑をともとれる顔で肩をすくめていた。

 畜生。すこしはカッコイイところを見せてやろうと思ったら、裏目に出たよ。

 白水さんと、いつの間にかそばに来ていたサクラさんから哀れみの目で見られてる。

 うぅ、耐えられん。なんかもう自棄酒やけざけならぬ、自棄戦するしかないわ。


「そんなことしなくても、シャミセンはじゅうぶんカッコイイと思う」


 いつもの淡々とした口調だったためか、あまり気にはかけなかったが、その後のセイエイの態度を見るかぎり、自分でも恥ずかしいことを言ったのだろう。

 すこしばかり顔をうつむかせていた。


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