第22話・仮想忌憚とのこと
ゲームを始めて、さて幾何日が過ぎようとしていたのか、色々と思い出す。
ゲームを始めた翌日にビコウたちと出会い、彼女たちの助言から[チャージ]を覚える。
その晩、モンスターから[火の法衣]と[女王蜂のイヤリング]を手に入れて、簡単に蜂蜜が手に入るようになった。
そのおかげで[蜂の王]というスキルも手に入れて、これ以上蜂に襲われることはない。
その二日後、初のイベント参加。そこでセイエイとサクラさん、そしてナツカと出会った。
イベント終了後、セイエイには色々と世話になった。
そこでオレは彼女の厚意で[玉兎の法衣]を手に入れ、さらに[アクアラング]の魔法を覚えた。
しかしその日、オレは初めてのデスペナルティを喰らう。
その日、緊急メンテナンスがはいり、その翌日の夕方まで続いた。
そしてメンテナンス明け、セイエイにムリヤリ運営スタッフであるボースさんの屋敷に連れて行かれ、今回の事件について色々と聞いた。
その後、はじまりの町の裏山にある滝壺で[アクアラング]をテストしようとしたら、水の中でデンキナマズに襲われ、命からから裏山の隠しダンジョンに入る。
そこでセイエイたちに遭遇し、[ヒャクガンマクン]というオオムカデを討伐。
したかと思えば、今度はマミマミというコンバーターと戦闘。
……で、今にいたる。
「よく考えたら本当に一週間もプレイしてなかったのな」
なんか内容があまりに濃すぎて、すでに一ヶ月以上プレイしている気がしてならない。
といっても、日付をまたげば一週間くらいプレイしたことになる。
「さぁて、どうするかなぁ」
もし、あれがゲームのイベントだったとしても度が過ぎている。
「脳が死んでいなければ、プレイヤーとしての意識はある……か」
オレはあの洞窟でビコウが言ったことを頭の中で再生していた。
それはまだログアウトする前の事だった。
「おい、ビコウッ! これってどういうことだよ?」
オレはジッと立ち尽くしているビコウに詰め寄った。
戦闘も終え、麻痺状態が解除されたからだ。
聞きたいことが山ほどあった。
「お待ちくださいシャミセンさん。ここは私に説明をさせてください」
そう言うと、サクラさんはオレの手を掴んだ。
「セイエイは? あいつは負けたのか?」
「いえ負けてはいません。ただ兄にお願いして強制ログアウトをしてもらいました。これ以上あの子につらい思いはさせられませんから」
――兄?
「兄って、もしかして孫丑仁さんのことか?」
そうたずねると、ビコウはすこしばかり目を見開き、おどろいた表情を見せた。
「ご存知だったんですね……」
「この前の事件での調査でな。それよりお前のことも教えてくれ。お前はプレイヤーなのか? それともNPCなのか」
その問いかけに、ビコウは、
「わたしははどちらでもありません。マミマミと同様、このゲームに取り残された思念体って思えば他意はないかと」
と答えた。
「思念体?」
「シャミセンさんは聞いたことがありませんか? 夢と現実は二分化されていて、夢を見ている状態の人間は現世に魂がないということを」
そういうのを、なんかで読んだことがあるな。
「うーんっと、ようするに意識がゲームに持って行かれているってことか?」
「意識というより、魂がですけどね」
ビコウは苦笑を見せる。
「わたしの本当の身体は、今も病院のベッドの上で今も目が覚めるかどうかもわからない状態なんです。ずっと……このゲームが始まるβ版の時から」
ビコウはそう言うと、自分のステータス画面を見せた。
そこにはログイン時間が表示されており、99:99。すでにカンストしていた。
「おまえのデタラメなステータスは?」
「あれは実力です。目が冷めなくても能の意識は生きていますから、ただなにをするにも暇だったので、モンスターを倒していたらこうなってしまったとしか言えません」
なんともあっけらかんとした答えだった。
「別のサーバーに避難されていたのは、ビコウのデータが消えないようにってことか」
その問いかけにビコウはうなずいてくれた。
「データが消えないというよりも、私としての人格が消えないようにってところかな」
「人格が?」
「データ化された私の意識が、いずれ元の器に戻ることをフチンは願って、わたしをこのゲームに参加させました。だからわたしはみんなを見守る以外のことはできなかった。でもそれじゃぁつまらないでしょ?」
まぁたしかに、いばら姫だって参加したいわなぁ。
植物人間でも脳が生きていれば……意識があるということになる。
手足、口や顔の表情すべての指令をつかさどるのは脳だ。
実際、(B・M・I)というシステムをもちいれば、意思疎通ができるという実験は昔からある。
理論的に脳が死んでいないのだから、VRゲームに参加できなくもない。
「まぁ、ビコウとセイエイがつながっていたってことはなんとなくわかった」
そりゃぁそうだよなぁ。セイエイの父親がボースさんだった。
そしてボースさんの妹がビコウだった。
リアルに知り合いじゃなかった。家族なのだ。
「家族三人とも廃人かよ」
オレはドッと疲れ、その場に座り込んだ。
「わたしたち三人だけじゃない。サクラだっていわば家族ですよ」
ビコウはサクラさんに視線を向ける。
「畏れ多くもそのようなこと。私はお嬢様の無事を思い、一緒に付いているだけにございます」
サクラさんが平伏すように頭を下げる。
「えっと、それってようするに、セイエイって素でお嬢様だったってこと?」
オレはキョトンとした表情で二人にたずねた。
「想像できないでしょ?」
ビコウがからかうような声で言う。
まったく思いませんでした。世間知らずとは思ったけど。
ビコウの話では、次に行われる大型アップデートにおいて開催される討伐イベントのテストをするため、彼女はイベント専用サーバーでクエストのレベル調整をしていたらしい。
そのイベントも二週間後の日曜日。ゲーム内の時間を加速し、三日間を生き残るゲームだそうだ。
レベルは最低でも20はないとクリアは難しいとのこと。
それまでにオレはどうしてもレベル20までに成長しないといけないことを言い渡された。
「気を引き締めるか」
現在のレベルは15だ。残りあとレベル5上げないといけない。
近くのモンスターでは経験値不足で上がらないかもしれないから、すこし行動範囲を広げるか。
それにポイントをすべてLUKに振り分けることに変わりはない。
だから装備とか魔法スキルなどで弱点を補っていくしかなった。
明日大学から戻ったら、早速はじまりの町にあるスキル屋で色々と見てみよう。
「器用貧乏になりそうだな」
すこしばかり苦笑を浮かべていると、パソコンにメールの受信があった。
「っと、運営からだ」
オレはメールを開いた。
『シャミセンさま。
スタッフのボースです。今回の件はご迷惑をお掛けいたしました。
事件の調査にご協力をいただいたことと、巻き込んでしまったことに対しての恩恵としてクリスタルを一式プレゼントすることが決まりましたことをお知らせします。
またご連絡をいただきましたら、次の土曜日。そちらのご予定に余裕がございましたら、昼一時に東京駅までお越しください。』
という内容だった。
「ボースさん個人のメールってわけでもあるんだな」
そういえばアカウント作成の時、二重アカウント作成防止のために、スマホの電話番号の登録もしなければいけなかった。ついでに住所も。
「まぁ、今後のキャンペーンでプレゼントとかなんてのもあったから、ためしに書いといたわけだが」
デタラメに書いてたらどうするつもりだったんだろうか。
「まぁ、オレも聞きたいことがいくつかあるし、こうなったらとことんこのクエストに付き合おうじゃないか」
オレはメールの返信に、『その日は大丈夫です。それから目印として【Real】というスペルが書かれた帽子をかぶってきます』と返信した。
まだログインできるのだが、リアルでも疲れてしまい、オレは大学のレポートもそこそこに、ベッドの上で
翌日の夕方六時。大学から帰ると、着替えも忘れて[星天遊戯]にログインした。あの後のことが気になっていたからだ。
[運営からメッセージが届いています]
[プレゼントボックスにアイテムが届いています]
[サクラさまからメッセージが届いています]
[ナツカさまからメッセージが届いています]
[ケンレンさまからメッセージが届いています]
[テンポウさまからメッセージが届いています]
[ボースさまからメッセージが届いています]
どうやら昨日の夜中から届いていたようだ。
先にインフォメーションメッセージを開いてみる。
『アップデートのお知らせ。いよいよ星と獣が入り乱れる。
あなたが育てた[魔獣演武]のキャラクターが[星天遊戯]の舞台で大暴れ。[魔獣演武]のデータアカウントをお持ちの方は、PCサイトの特別ページにてアカウントIDとパスワードを入力し、[星天遊戯]へのコンバートを選んでください。さらにそれに合わせて大規模イベント[四龍討伐]を開催。東西南北の神竜がプレイヤーの挑戦を待ち受けている』
という内容だった。コンバートにおけるデバッグが完了したということだろう。
プレゼントボックスは、さきほどボースさんからのメールに書いてあったとおり、クリスタルシリーズ一式だった。あとログインボーナスで初級HP回復薬ふたつ。
別になにかがほしいと思ってやったつもりではないし、なりゆきで巻き込まれたのだから、気にせず、MP回復アイテムだけを取り出し、アイテム欄にしまいこんだ。
アイテムの所持数をザラッと見ていたら、ほとんどが二十個だった。鞄の中がパンパンである。
「そろそろ整理しないとキツいな」
ちょっとしたHPの回復くらいなら[玉兎の法衣]の効果で間に合っているし、運よく避けることだって可能だ。
さてと、次はフレンドからのメッセージを確認していく。
一人目。サクラさんから。
『昨夜はご迷惑をお掛けいたしました。お嬢様もリアルでは落ち着いておりますが、ゲームに関しては現在デスペナルティを喰らっており、二日ほどの謹慎がかせられているようです。またボースさんからメッセージとメールを受け取られていると思いますが、こちらも改めてお話がございます。それからできるかぎり、おどろきになられませんようお願いします』
という内容。どうやら[凶神状態]はデスペナ扱いになるようだ。
「あの時はビコウが止めてくれたとはいえ、プレイヤーを殺しかねない状態だったからな」
ということは、あのまま誰も止めなかったらセイエイはレッドネームになっていたということか。
あとで読んだボースさんのメッセージも似たようなものだった。
「って、なにに対しておどろくんだ?」
オレはすこし首をかしげる。もしかして家がデカいとか?
二人目、ナツカからのメッセージ。
『サクラさんからセイエイのことは聞いた。それで、ちょっと会えない? キミだったらこの場所は行ったことがあるんじゃないかと思って、転移アイテムもトレードでそっちに送っといたから、夕方七時くらいに来て。場所は[睡蓮の洞窟]』
たしか町から西に三キロほど離れた場所にあるセーフティスポットだったはず。プレゼントボックスを改めて確認すると、ナツカからのプレゼントとして転移アイテムが届いていた。
オレはこれから行くとメッセージを送った。
さて三人目。ケンレンから、
『ビコウから色々と聞いているキミだから教えるけど、ネクロマンサーが今度のアップデートで正式な職業に決まって、こっちは一安心。運営はテストプレイの期間として設けてくれていたの。それで元の職業への転職を無料でしてくれるみたいだけど、まぁビコウやテンポウと合わせてキャラ設定してたから、死霊使いほど沙悟浄にあう職業もないんじゃないかな。』
テンポウのメッセージも確認しておこう。
『レベル上げに持って来いの場所がありましたよ。最近蜂のモンスターが大量に出てきて困っている村があるそうです。ギルド会館の受付でクエスト受理ができますから、興味がありましたら行ってみてください。レベルも上がるし、シャミセンさんのスキルだったら蜂モンスターに襲われることはないでしょうから』
という内容だった。すこし興味があるので準備ができ次第、行ってみることにする。イベントまではまだ日付もあるみたいだし、問題はこの妙に上がらないレベルだ。
「さて、テンポウからのやつは後に回して、ナツカの用事をすませるか」
オレは武器と装備を確認する。と言ってもほとんど変わらないから省略する。
時刻は夕方七時になろうとしている。ちょうど頃合いだった。
アイテム欄から転移アイテムを取り出し、場所を選択する。
「転移っ! [睡蓮の洞窟]」
そう念じるや、オレの身体は粒子となって散った。
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