• 虫杭

  • 第22話 対御陵戦です!

第22話 対御陵戦です!

「はるばる来たぜ、郷土資料館」

 全ての発端になった場所。

 僕は斬の宮の郷土資料館のドアをくぐる。

 フロントには、フロント嬢がいる。

 名前は御陵(みささぎ)。陵を守る墓守か。

 そして、斬の宮生徒会執行部とつるんでいる。

「おねーさん。いつ首都からこっちに戻ってきたんだい?」

 僕はぐえぐえ、といつもの口調で言う。

「あら。戻ってきちゃダメだったかしら」

「政府は今、おまえらのものなんだろ」

「違うわ。この街、斬の宮から腐敗していくこの国を再石灰化するために、ここを守るのがわたしの役目よ」

「へぇ。笑える。ぐえぐえ」

「患部は切り取らねばならない」

「はん。西洋医学のつもりかよ」

 御陵の目が光る。

 そして、髪の毛が蛇みたくうねった。

「薄染家のお嬢ちゃん。あなたじゃ役不足よ。シザーハンズさんとコンタクトを取るならここだ、とあたりをつけて来たのは褒めるけど。『あっちの世界』と『こっちの世界』は、そう簡単に渡れない。渡ったところで……死ぬけどね!」

 髪の毛の一本一本が伸びて、僕の身体を貫こうと飛んでくる。

 僕はそれをかわすと、『怒鳴る・DE・ダック』を発動させる。

 建物に小麦粉と油をバラまき、たまごで溶かして熱する。

 灼熱地獄が生まれた。

「説話の時代! ああ、こうしてそれは神話となる!」

 業火に燃やされながら、御陵は悦に入る。

 燃えて木造部分が崩れ落ちてくる中、僕は呼ぶ。

「出てこい、強度歯科のシザーハンズさんよ。『自分の世界』に逃げてんじゃねーぞ」

 呼ぶと、建物が、にゅるん、と生き物のように波打った。

 波打つと、唾液が建物内にしたたり落ち、炎を消火した。

 唾液。


 大きな口の中に、僕はいた。

「口内、だと?」

「虫歯というと、ドリルを持った悪魔を想像するお子さんも多いだろう? 実際は、ドリルは虫歯を削るのに、我々が使うのだけれどね」

「てめぇ! なにしやがった! ここどこだ!」

 人物像が点を結んで実体化する。

 それは白衣を着た老人だった。

「デンタルなメンタルのクリニックの者だ。シザーハンズ、とも?」

 こいつがそうか……。僕は息を呑む。

「やっとお出ましか、行くぞ、怒鳴る……、ん? ぐはっ!」

 僕の口内から血が吹き出る。こいつ今、なにしやがった?

「ドリルを使うと言っただろう。この口内は君の口の中だよ。君は今、君の口の中にいる」

「合わせ鏡状態……いや、『チャイニーズ・ボックス』か?」

「ご明察」

 そしてドリルで口内の歯を削る、シザーハンズ。

「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ」

 ラッシーを助けなくちゃ。

 何度も頭の中で反芻する。

 ラッシーを助けなくちゃ。

 そのためには、目の前のこいつをどうにかしなくちゃならない。

 ドリルがうるさい音を立てて、回転していると、いきなりドリルがショートした。

 感電したシザーハンズは、咄嗟に手を離す。

 するとドリルはハチミツ漬けになった。

 ドリルは回路が侵食されて、使い物にならなくなった。

 僕は目線を動かし、僕を助けた人物の方を見る。

 深く猫耳フードをかぶったそいつは、片方の唇を上につりあげて、歪んだ笑みをこぼす。

「ふむー。物理攻撃には弱いのね、ぐえぐえは」

「うっせ」

 安心した。

 あの阿呆の一人のお出ましだ。

「金糸雀ネコミ、参上にゃ!」

「……おまえ、ついに語尾に『にゃ』と付けるようになったのか……」

「うーむ。ふむー。そうでもないかにゃー。道中、色々あったのさ。……さ、奴らのゲイテッド。コミュニティを『こっちの世界』に引きずり下ろすわよ」

「可能なのか」

 と、そこに高笑いが木霊する。

「大丈夫ですわ! バカ姉とぐえぐえ!」

 僕は頭を抱える。

「あー……、その声は。相変わらずだな」

「イヌルですわ! ラッシーお姉様が〈説記〉を終わらせるために成し遂げたかったこと、しますわよ

 口内に大きな手が突っ込まれて、僕の身体が引っ張り出される。

 引っ張り出された先は、焼け焦げた郷土資料館だった。

 巨大な手で引っ張り出されたと思ったのは、イヌルの術式かなんかだったようだ。とにかく、自分の口内から戻ったわけだ。そして、やっぱり、郷土資料館は燃えていた。唾液は幻覚だったのか。

 イヌル。

 そう、こいつもまた、ラッシーと同じく、虫杭の悪魔と接触した経験を持つ。

 この場合、「見た」か「見てない」かが重要なのだ。「見た」奴は、強い。

「助かったぜ……」


 ……鼻歌が聞こえる。

 鼻歌は、建物の中を、響かせる。


 僕、ネコミ、イヌルは焼け跡の自販機の方を見る。

 思わず、見てしまった。

 そこには。

 自販機で買ったのであろう抹茶アイスを、近くの焦げたベンチで食べている、一人の少女の姿があった。

 機嫌良く、鼻歌交じりの。

 建物も、座ってるベンチもボロボロなのに。


「抹茶アイス、うめぇ!」


 アイスを食べている少女がこちらを振り向く。

 僕と目が合った。

 いや。

 ネコミも、イヌルも、それぞれ「自分と目が合った」と主張するだろう。

「お姉様! ご無事で!」

 泣き顔のイヌルが走りより、少女に抱きついた。

 少女は笑って、イヌルの頭を撫でる。

 僕と、ネコミも駆け寄る。

 抹茶アイスを食べている少女こそが。

〈文豪ミニ〉の。

 朽葉ラッシーだった。

「ただいま。なのだー」



(つづく)

 

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