• 虫杭

  • 第11話 虫杭チュートリある

第11話 虫杭チュートリある

「ところでお姉ちゃん。ラッシーお姉様やあのグエグエだけでなく私たちも戦闘に参加させられてるんですが、一体これは……」

「ふむー。言うなれば人材不足」

「うっそ。うちの学園はマンモス校だよ?」

「数打ちゃ当たるわけでもないのよ、イヌル」

「お姉ちゃんが言うと空々しいです」

「いやいや、能力者って、集まるものなのさ。変な磁場があってね。だから、私たちは少ないけども、集まってる」

「……否定はできませんけども」

 と、しゃべっているところに、念じたものを具現化させたエネルギー波の拳がずぎゃーん、と振り落とされ、咄嗟の判断でネコミとイヌルの姉妹は左右に飛び退く。

「いつから異能力バトル展開にッ!」

 イヌルが目を丸くする。

「ふーむ。これ、最初からなんじゃない? 人間の世界って意外と異能力バトルマンガみたいなもんよ?」

 ネコミは得意げだ。

「この馬鹿姉は人生をそう捉えているのね。訊くんじゃなかった……」

 ふんぎゃー! と声を立て、ワームの化け物がうにうにと触手を広げている。

 この触手野郎は元々、イヌルのクラスメイトの男子、工藤君だったのだが、虫杭で街がどろどろに溶解され、歯槽膿漏(めるとだうん)化された影響で、見るも無惨な巨大ミミズとなってしまったのである。

 元が単細胞な工藤君は、性欲的なものがその行動原理になり、捕まったら最後、クールジャパンな目に遭わされるのは明白だった。

 ネコミは手のひらを天にかざし、自らの身体を「転写」する。

 グギバキグギ、と肩から二本目の右手が現れる。

 左手も同様に、二本目の左手が生える。

「ネコミちゃんは腕も人間の倍、持つのだー」

「いつ見てもお姉ちゃんのそれ、気持ち悪い……」

「猫がしっぽを複数持つ妖怪と同じ要領なのだー」

「この妖怪」

 イヌルがぼそりと呟く。

「ウォッチッッッ!」

 両手でカギ括弧をつくって照準を絞るネコミ。ネコミは残る二対の腕を鋼のように硬くして、合わせた照準___ワームの身体___を引き裂く。

 工藤君は、

「えっちもしないで死にたくないよー」

 と、正直な言葉を残し、絶命した。



***********



 工藤君を倒したところで、グエグエ騒ぐダックちゃんと、イヌルの『お姉様』ことラッシーの、二人と、イヌルとネコミは合流した。

 ネコミは不敵に笑うダックちゃんに蔑視の視線を送る。

「あんたの手の内も明かしなさいよ、グエグエ。戦いに参加する以上、手の内を互いに晒して計画を練るのが先決だと思うの。私らってみんな特殊技能を持ってるけど、これにはそれぞれ体系がある。技術別にカテゴライズして、まずは整理しましょうよ」

「その通りなんだけどねぇ」

 ダックちゃんは見下ろすような目でネコミを見返した。

「喧嘩腰はよくないよ、ネコミちゃん」

 ラッシーが心配そうにする。

「ネコミよぉ」

 ラッシーを押しのけてダックちゃんが突っかかるように応える。

「僕もそりゃ説明した方がいいとは思ってるんだぜ。でも、説明したら、戻れねぇ。生徒会執行部の肩を持つ理由なんてないんだ。それに虫杭との戦いは、そこにいる朽葉ラッシーの『個人的な戦い』なんだからよ。戻れるぜ、今なら」

「じゃあ、あなたはなに?」

「僕? 僕ら薄染家は朽葉家のバックアップが本来の仕事でね」

「ふーん」

「技術体系の話、しとくか。……気が進まねぇがよぉ」

 ダックちゃんは頭をぽりぽりかいてから、アヒル口で舌なめずりした。

「いいか。世の中にはいろんな魔術体系がある。流派がな。どの理論が正しいとかでなく、才能や努力で、どの流派だろうと術式は発動する。ここだけの話だが、世界ってのはエスタブリッシュメントと、いくつかの魔術結社が牛耳ってて、ものごとを動かしたり、時には争っている。だから、利害関係の問題になるが、そんな網の目の上で自らの技術をバラすってのは、ハイリスクすぎんだよ。持ち玉は隠せ。ある種、進化論じみた差別も横行する社会が魔術の世界であり、そこに生きるなら、したたかになるしかない。お前にできんのかよ、猫娘。ま、ラッシーがやろうとしてる『次元の扉を開く』鍵を持ったサイエンスでもあるんだがな、魔術は。化学どころか算数だって、算術っていう名前の魔術だったしよ」

「ちょっと待って、ダックちゃん」

 ラッシーが口を挟む。

「わたしの行使するのは魔術じゃないわ」

「ほら、この通り。用語すら統一されてねーのが、この世界だ。昔、人間が天まで届く塔をつくって失敗したときから、このコミュニケーションの不可能性は始まり、続いてんのさ」

 グエグエ笑う。

「で、『斬の宮学園記』ってのと、それを解説した『斬の宮学園記述義』のセットが、うちの学校の教義(ドグマ)だ。執行部の連中は、それでブレインウォッシュされてんだか、この思想で動く。教師は言うまでなく。スラム街の実践主義とは相容れないまま、戦いはついに虫杭を打たれて始まってしまったんだ」

 ラッシーは付け加える。

「でも、この虫杭を行使してる悪魔は誰なんだろ。郷土の強度をめちゃくちゃにして、虫歯化した世界は『ダウングレード』しちゃうの、平気なのかな」

「そりゃ遅せぇ。もう、歯槽膿漏化は始まってる」

 ここまで来たら引き返せない。

 なぜなら「知ってしまった」から。

 それは「選ばれてしまった」のか、「選ばれなかったから」なのか。

 とにかく、斬の宮の路上に立っているラッシー、ダック、ネコミ、イヌルは、立ち続けて、勝利しないとならなかった。

 敵は『虫杭の悪魔』。

 街は水面下で、異様な様相を呈してきている。


〈チュートリアル、終了〉

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