• 虫杭

  • 第6話 ええ振りでい!渦中者!!

第6話 ええ振りでい!渦中者!!

 大人になれ、とよく言われてきた。「もう子供じゃないんだぞ」と。でもそいつが、そいつらが言う「大人」は、そいつらひとりひとりが各々に決めた大人像を指しているわけであって、別に「大人」と呼ばれるものはあいまいな概念でしかないし、わたしにはその「大人」とかいう存在を、確証を持って特定できなくて。あわわ、なんて言えばいいのかな。

 ……当たり前といえば当たり前で、これは抽象的な言葉を振り回してるだけ。で、そうすると自分自身が大人像を考え抱きつくってそれに合わせていく必要があって、それが一般的にはポピュラーなんだと思う。

 でね、わたしには大人ってのが、年齢とか役職とか資産とか横のつながりとか? あ、あわわぁぁ。あ、あわ、えっと、なんかそういうやつが大人っていうのの本質だと思っていて、うん、大人って言った場合、誰も「人間の内面」を指してなんかいないんじゃないか、と考えているのだ。そんなわたしに「もう子供じゃないんだぞ。大人になれや」ってのが腹立つし、そもそも女の子のわたしに「大人になれ」と男性が言ってきたらセクハラにしか思えず……。うー、あわわぁ。

「あ、あのー、イヌルちゃん?」

「あ、あわわ、泡のように台詞が弾けちゃいましたか? 弾けて意味わかんなかったです?」

「そーじゃなくて」

……。

…………。

………………。

 一人称は変わり、……っと。

 わたしは大人の定義に関するイヌルちゃんの長くなりそうな自分語りを遮る。ダダ漏れだ。確かに、泡のように弾けて、あわあわ言ってる。でも、意味は掴めない。

 冬真っ盛り。公園のベンチ。わたし、ラッシーはイヌルちゃんの語りを遮ってから、アイスクリームを一口食べた。

 手袋をつけないで、木製スプーンを操る。アイスも冷たかったし、「そーじゃなくって、って、じゃあ、なんなんですかぁ」と口を尖らせるイヌルちゃんの視線も冷たかった。

 しばらく口を尖らせていたイヌルちゃんだったが、突然、

「はっ! はぅぅ。あわわ、お姉様、わたしの話、ご理解戴けなかったということは、あわわ、それが、わたしが『大人じゃない』ってことなんですよね、はわぁ……。恥ずかしくて弾けちゃいますぅ」

 と、自己完結した言葉を紡ぐ。

「って、イヌルちゃん、小学三年生だよね。全然大人じゃないよ。大人だったら逆におかしいよ?」

「あわわ、わたし、設定上は小学三年生ですよぉ……」

「なにそれ」

「な、なんでもなぃです、ぁ、あ、泡のよぅに消し飛びますから、忘れちゃってくださぃ」

「ふーん」

 公園のベンチでわたしたちがなにをしているかというと、わたしの親友のひとり、ネコミちゃんが焼き芋をつくるから集まれ、と突如招集をかけたのだ。

 だから今、わたしとイヌルちゃんは公園でしゃべっている。

 イヌルちゃんとネコミちゃんは姉妹なのになぜ別行動でイヌルちゃんが先に公園まで来たのか。

 そんなことより、私有地で公園という、全然パブリックじゃない空間だから大丈夫だとはいえ、なぜ焼き芋をここでつくることになったのか。

 わからない。

 たぶん、有り体にいうと、ネコミちゃんがいつものように行き当たりばったりで考え出して巻き込んでるだけなのだが、それは今更言わない方が良さそうだ。

「冬なのに焼き芋ですよぉ。秋に焼き芋がわたしのお好みですよぉ。わたしのお姉ちゃん、一体なに考えてるんでしょ、……って、あわわ、こんなことぐらいでかんしゃく起こしちゃ、わたし、悪い子なんでしょうか。わたし悪い子ですかぁ、ねぇ、お姉様ぁ」

 イヌルちゃんが手をばたばた振りながらわたしになにか訴えかけてこようとしたその時、

「じょわああああああああッッッッッッッッッ」

 という、いきなりイルカが地上に飛び出て発したかのような奇声が冬の空気を引き裂く。

 わたしが奇声の方角を向くと、もの凄いジャンプをして飛び込むネコミちゃんの姿があった。

 奇声の主はネコミちゃんで、奇声を発しながら跳び蹴りが突っ込んできたのにわたしとイヌルちゃんは即座に反応、ベンチから飛び退いた。

「冬だけに空中浮遊(ふゆ・う)!!」

「ジャンプしてるだけでしょお姉ちゃんッ! 空中浮遊なんて不可能です!」

 ぐっしゃーん、と木材が割れる音。わたしとイヌルちゃんが数秒前まで座っていたベンチは破壊された。

 わたしはベンチから飛び退くとき、アイスのカップを放棄し、事なきを得たことになる。

 しかし、まさか跳び蹴りでベンチを破壊するとは。

「愛してる、イヌル……、愛してるから……。そして、ねぇ、イヌル。お前と一緒にいるこの牝は……死ぬ、のだー」

「のだー」と復唱しながらわたしはネコミちゃんから逃げる。なんかヤバそうだから。

「のだー」

 ネコミちゃんが言う。

「のだー」

 わたしもやまびこのように返す。

「の、だぁ」

 肩を揺らし身体を慣らすネコミちゃん。

「どーもこんにちわ。お集まりのみなさまが……」

 「たっ!」と言う言葉尻と同時に今度は地上からの回し蹴りが飛んで来たが、わたしは転がりながらそれを回避する。

「しぶといのだー」

「の、のだー」

 わたしの額を汗が伝う。

「猫耳装備で蹴り技の応酬とは、ネコミちゃんはキャラブレも気にせずなにを主張したいのかね?」

 社長風イメージの口調でわたしは質問してみる。

 ネコミちゃんはふふふ、という前置きの後、続けた。

「さぁ! 持ってきたわ、人数分の熊手を!」

 ネコミちゃんが指さす先は公園の芝生の中。そこには熊手という、枯れ葉を集める時に使う竹細工の箒みたいな代物が四本、立てかけてあった。

「これで枯れ葉を集め、芋を枯れ葉で焼くの。ふむー、最近役場がうるさいけどここはうちの私有地。文句は言わせない。ふーむ、言わせないのだー」

「は? はぁ……?」

「その昔、どーげんとかいうおっさんが『全ては禅である』と主張し、庭掃除も禅そのものだと言ったそうなのだ。飯を食うときすらそれも禅そのものなのだからっつってマナーにうるさかったとか」

「禅?」

 わたしは首を傾げる。

「お姉様、ぜんの研究ということはきっと京都学派」

「思い切りちゃうわっ! いや、知らないけど!」

 と、いうやりとりの後、何事もなかったかのようにわたしたちの落ち葉集めが始まる。

 なんで熊手が四本あったかというと、ダックちゃんも呼ばれていたからで。

 あとで現れたダックちゃんが燃やした葉っぱに手を突っ込んで、

「火中の栗を拾う! いままさに拾ってる!」

 と、捨て身で叫んでなにかしようとしていたのでわたしは全力で止めたのでした。

 が、それはもう過ぎ去った話なので、今日の物語はここらへんで。

                      おわり

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