1話『アルカディア』

 探求期百二十数六巡月十二番日二十三の刻。

 こんな夜遅くでも、メインストリートは活気に満ち溢れていた。


 迷宮攻略都市であるこの町は、そのダンジョンの名前、《不通の楽園ダンジョン・アルカディア》からアルカディアと呼ばれている。

 冒険者に昼も夜もないため、この町はいつでも明るい。今日も多くの店で魔光石が輝き、辺りを照らしている。


 そんな店々の活気に溢れたメインストリートの一角で青年--リビ・トーワスは今にもこぼれ落ちそうな程の食料を両手に抱えて歩いていた。


 --重い


 そう思いながらも俺は足を動かし、一つ目の目的地にたどり着く。

 色とりどりの魔光石で輝くその店は、店内の喧騒とともに美味しそうな匂いで満ち溢れていた。

 中に入るとよりいっそう俺の腹を誘惑する香りが辺り一面に充満していた。


「リビ!こっちこっち!」


 俺を呼ぶ声に振り替えると、やつ--ライル・クワンチェは呑気に食事をしていた。

 《魔怪鳥の丸焼きダークローストチキン》と呼ばれるダンジョン十二階層に存在する魔怪鳥カラフを丸焼きにした下手物料理を美味しそうに食べているようだ。


 --なんだよダークって。


 とりあえずライルの正面の席に座る。


「よくそんな気持ち悪いもの食べれるな」


「下手物下手物ってみんな言うけど、案外こういうものは食べてみると美味しいんだよ」


 ライルは金髪、蒼眼で貴公子みたいな出で立ちなのに少し変わった所があった。

 今も断末魔を上げた様な苦渋の表情を浮かべている魔怪鳥カラフの赤い目を食べている。


「いくらするんだ?それ?」


「ちょっと高いけど、三千Rリスクだよ」


「げっ三千Rリスクかよ。まぁ絶対食わないけどな」


「今日から三日間はリビが買ったものしか食べれないからね、少しは良いものを食べておかないと」


 そう言いながら、ライルは《魔怪鳥の丸焼きダークローストチキン》を完食する。


「お前が三日分の食べ物は用意してねって言ったんだろうが、当然俺の金じゃあそんなに良いものは買えん」


 その証拠に俺が抱えている食料は干し芋や、カルラの木の実、漬け肉などの安くて保存がきく物のみであった。


「まぁ、いっぱいおまけして貰ったけどな」


「そのくらいで協力してあげるんだから安いものだと思ってよ」


「そうだな、お前には感謝してるよ」


「ま、腐れ縁だからね。そろそろ行こうか」


 そう言ったライルはナフキンで手を拭き席を立つ。

 俺もそれに続き、ライルが食事代を払い終わるのを待ってから店の外に出る。


「今回の定員は十名らしいよ」


 次の目的地に進んでいると、不意にライルが話し掛けてきた。

 情報通のライルは何でも知っていて、今回のイベントが三日後に開催されると教えてくれたのも彼だ。


「十名か、前回より半分くらい少ないな。前回の時は失敗したから、今回は必ず勝ち取ってやるよ」


「まぁ僕も頑張るよ。なんとなくリビに借りを作っておけば良いことありそうだし」


 そんな会話をしていると俺たちはいつの間にか、目的の場所にたどり着いていた。

 《鉄壁の要塞ギルド》第四ゲートから、五百メール程離れた位置でその日を待つ。


 三日後の《銅の券ブロンズ・チケット》配布会に向けて俺達は準備を始めた。

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