「こんな乳首じゃ赤ちゃんにペッされちゃうわね!」と言われて泣く……。

 体力の回復を待つ間もなく、さっそく育児はスタートします。私が出産した病院では、自然分娩だった場合の入院はおよそ5日間。その間に、新生児を生存させる……えーと、育てるためのあれこれを覚えなければなりません。


授乳、調乳、沐浴、オムツ替え……。調乳指導は粉ミルクメーカーの女性が担当していた気がしますが、その他の指導は助産師さんや看護師さんの担当でした。


 そして、授乳指導で“痛恨の一撃”のような出来事が起こりました。なんとなく嫌な予感はしていたんですけどね。私の授乳指導の担当になったのは、いわゆるベテランの看護師さんでした。


正直、ちょっと苦手なタイプだったんですよね。肝っ玉母ちゃんタイプというか、なんでも力技でどうにかしようとするタイプというか……。ほら、仕事なんかでも「見て盗んで覚えろ。習うより慣れろ。根性で乗り切れ」みたいな人って必ずいるじゃないですか。まさにそういう感じの人だったんですよね。


 指導は授乳室の一角で行われたんですけどね。しかも、そのとき指導を受けるのは私一人だけで。今思い出しても、あれは辛かったなぁ。パジャマの前を思いきり開いた状態で、マッサージの仕方がどうとか指導を受けるわけなんですけど。説明の仕方が微妙なんですよ……。


「こうして、ああして、こう! ほら、やってみて!」って。ちっとも具体的な説明になっていなくて要領を得ないのです。それでもって、できないと叱られる……。どんな拷問だよ!というくらいみじめでしたよ。すぐ近くには、授乳しているママさんたちが普通にいるわけで。


なんだろうなぁ「女性同士なんだからいいでしょ」なんて割り切れる感じじゃなかったですね。他の人は授乳のために胸を少し出しているだけだけど、私は一人だけ、授乳をするでもないのに(指導の間、子どもは新生児室にいます)上半身半裸みたいになって、ネチネチ小言を言われているわけで……。


「あーあ。こんな乳首じゃ赤ちゃんにペッされちゃうわね!」


極めつけは、吐き捨てるように言われたこの台詞でしょうかね。


あーあ、ですよ……。私の予習が足りなかったんでしょうかね。でも、妊婦がやりすぎると逆にお腹が張ったりして危険だとも聞いていたから、むやみに熱心にはできなかったし。


 そうしてまた――夜な夜な一人、ベッドで悲しく泣いたのでした。このときはもう、かなりの不安定ぶりだったと思います(汗)夫に状況を涙ながらに訴えたりして。そうしたら、分娩を担当してくれた助産師さんが飛んできてくれたりして。


 今の自分だったら「ダメ乳首でサーセーンッ(すんませーん)」などと適当に流せたかもしれませんね(苦笑)。或いは「そりゃあ大した乳首じゃございませんけどね。でも、乳首へのダメ出しなんて、夫にもされたことなければ歴代彼氏にだってされたことないわいっ」と心の中で悪態のひとつもつけたかも(爆)。


 ただ、そのときの私には無理でしたよ。そうかといって「ヨシッ。悪気なんてなくて、良かれと思って教えてくれてるんだもん。いちいち気にしてくよくよしてちゃダメ。ママなんだから頑張らないとっ」などと前向きに考えることもできず……。


 結局、授乳指導については再度受けさせてもらいました(別の人が担当の回に)。だって、私の乳首はポンコツだという評価以外、何ひとつ教えてもらえなかったので(汗)。


ちなみに、他の看護師さんや助産師さんの指導の仕方はまったく違いましたよ。ずーっと胸ポローンのままとかじゃなかったし。配布テキストにそって具体的に、質疑応答をしながら丁寧に進められました。マッサージのことだけでなくて、搾乳や乳腺炎のことなんかの説明もあったし。


 乳首にダメ出しした看護師さんも(苦笑)、悪い人じゃないんだろうなと思いますよ。よくはわかりませんが、昔ながらのやり方ってのはああいうもんだったのかもしれませんし。でもなぁ、その一点張りでいいんですかねぇ。


もちろん、いろんなキャラクターの看護師さんや助産師さんがいらっしゃるのは当然で、それはいいことだと思うんです。ベテランにはベテランならではの知識と経験というのがあるのでしょうし。ただ、時代は変わるものですから。変わりゆく変化を敏感に捉える感受性や、それに対応する柔軟性は必要ではないかと思うのです。


そういえば、同室のママさんがその看護師さんに“有難いお説教”的なことをされていたようで……。「両親が近居しているなんて恵まれている」とか、「昔は哺乳瓶をいちいち煮沸消毒して大変だった」とか、「若いうちに産めたあなたは幸せだ」とか、いろいろ言われていたんですね。


で、極めつけの言葉が「まあねぇ、いろんなことを言う人がいるとは思うけど。自分をしっかり持って頑張って!」と……(汗)。


 妊娠・出産ってなぁ。医師と看護師と助産師、歯科衛生士と栄養士、保健師――専門家たちがそれぞれの立場でモノを言ったりもするから。皆さんそれぞれ言うことがまちまちで「誰の何を信じりゃいいの?」ということもありました(汗)。


 そうそう、看護師さんの中にこんな人がいたんです。質問をすると、ヒントはくれるけど絶対に答えはくれない人(笑)。「ま、お母さんが決めてください」と、最後は必ずこの言葉でしめるわけですよ(苦笑)。


 今思うと、厳しくてあったかい看護師さんですよね。だって、退院したらもう近くに頼れる人はいなくて、自力で解決しなきゃならないわけですから。自身で決めて行動する力とでもいいましょうか。育児におけるそれを学ばせてくれていたんだなぁと思います。

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