脱出クエストⅢ ――ネット上の友人にオフでご対面した感じ?
お産は進みは、のらりくらり……。途中ヒヤッとする場面もありつつ、それでも結局は帝王切開にはなりませんでした。でも、やっぱり大変なものは大変でしたよ。
最後の最後なんて、まさに時代劇の「出合え出合え~」ってな調子で、私の周りは「何事か!?」っつうくらいの人だかりになりまして……(汗)下から吸引するドクターと、上から腹押しで押し出そうとする人がいて、私は酸素マスクをつけられて。夫は……何してた?(謎)立ち会えるのは夫のみなので、まどかちゃんは外で待っていてくれました。
状況はけっこうなバタバタぶり。出産の体験談なんかでは「いきみたいのに、いきみを逃すのが大変だった」という話を見たことがありましたが、そういうのはまったくありませんでしたね。「とにかく時間がない。早くださなきゃ」みたいな。そういうひっ迫した空気が充満していました。
それでも、私はわりと冷静だった気がします。あまねぇ、こういう言い方はお叱りを受けてしまうかもしれませんが「私が産まなきゃ!」みたいな気概を持つことを、完全に放棄していましたしね(汗)「先生や助産師さんのご指示に従います!」みたいな。そんな心持でした。
私が出産した病院ではラマーズ法(ヒ・ヒ・フー)ではなく、腹式呼吸を推奨していました。なぜかというと、助産師さん曰く「ラマーズ法は極めればすごいけど難しい。すべての妊婦さんが熱心に練習してくるわけではないので……」と。その点、腹式呼吸はラマーズ法に比べれば平易といえばそうですもんね。
自分でいうのもあれですけど、私はかなり腹式呼吸の練習を重ねてきました。だってね、助産師さんが母親学級のときに「はっきり言って、さぼってきた人はわかりますよ。違いが出ますからね」って。そんな怖いこと言うんですもん(汗)。
でもね、練習って本当に大切だと思いましたよ。大げさにいうと、努力は人を裏切らないと思ったくらい。分娩の終盤、お腹に酸素を送ってあげるというのがけっこう重要だったようですが、助産師さんの指示に焦るようなことはありませんでした。実際、あとから「落ち着いて深い呼吸ができていてよかったです」と言葉をかけていただきましたし。もっとも――「練習したのは腹式呼吸だけで、あとのことはあんまり……」という話もあるのですけどね(汗)。
そんなこんなでしたが、中の人はどうにか脱出してきました。新生児担当の看護師さんが「男の子さんですよー」と見せに来てくれたとき、私が最初に発した言葉は――「やっと会えたね」でした。でも、勘違いしてはいけません(苦笑)「会いたくて会いたくて仕方がなかった待望の赤ちゃんにやっと会えた♪」みたいな、ふんわりキラキラなニュアンスとは少々違うのです。
なんだろうなぁ、ずっとオンライン上だけで交流していた友達とオフで対面した、みたいな? 「ああ、君が……」ってな感じですかね。池袋のふくろう前あたりで待ち合わせをしていて――。
「あ、ひょっとして……“妖精さん”ですか?」
「ちさとさん、ですか???」
「どうも。“はじめまして”でいいんですかね(苦笑)」
「ずっと知り合いではありましたけどね(苦笑)」
なんだかうまく言えないんですか、こういう不思議なぎこちなさを感じました(苦笑)。
カンガルーケアはどうにかできましたが、“中にいた人”はやや呼吸が弱かったので保育器へ。看護師さんは「“箱入り息子”になりますけど心配ないですよー」と笑っていました。夫は……夢中になって写真を撮っていたかな?(うろ覚え)。
まどかちゃんも「少しだけなら」と中へ入れてもらえたんですけどね。「おめでとう」と「お疲れ様」とともに彼女の口から出た言葉は――「ずっと静かだったから。いきなり赤ちゃんの泣き声がしてびっくりしたよ!」でした。
そうなのですよ……。私、叫ぶことなく出産を終えたんです。これね、決してカッコつけてたとかじゃないんですよ。だって、「想像を絶する痛さ」というのは話で聞かされてはいましたが、実際の度合いなんてわららないじゃないですか。
だから「痛い」と思っても、「いやいや、これはまだ序の口に違いない」と我慢して。さらにまた「痛い」と思っても、やっぱり「まあ待て、餅つけ(落ち着け)。これからもっとすごいビッグウェーブが来るに違いない」と我慢して。その結果、いつの間にか終了していたというわけです……。
そんな私の状況はというと――けっこうな深手を負って出血多量……。え? ステータス表示のカラーですか? それやあもちろんオレンジ(瀕死)ですよ……。クエストクリアのために、なりふり構わずでしたから……ゴホゴホッ、グフッ。
そして、貧血とは無縁の人生を歩んできた私でしたが初めてそれを体験し、車いすで病室へと運ばれたのでした。
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