TRACK 05; 幸雄の暴走
金本に出会ってから、1ヶ月が過ぎた。受験シーズンも終わり、卒業のシーズンに突入した。
「ああ!やっぱり黙ってられねえ!」
訓練は再開された。だけど成果は上がらない。念波障害のせいだ。金本は未だ、毎日欠かさず神社でお祈りをしている。
「健二!金本と奈緒美ちゃんを知り合いにするぞ!」
「あ?どうした急に?」
「もう、イライラして仕方がねえ!数日もすりゃ、奈緒美ちゃんはアメリカに行っちゃうんだぞ!?そしたら金本は、2度とあの子に会えねえんだぞ!?」
給料は少なかった。でも金は返した。弱みを握られる毎日は我慢出来ない。玩具を我慢して返した。これで健二に借りはない。
「良いんじゃねえのか?このまま放って置いても…。どうせ、アタックしたって実る恋でもねえ。」
「そうじゃねえ!せめて、知った顔同士にでもしてやらならなきゃ可哀想だろ!?」
「………。そうか?」
「!!もう良い!お前には頼まねえ!」
(やっぱり、納得いかねえよ…!)
それなのに力を貸してくれない健二に腹を立てた俺は訓練を投げ出し、そのまま家に帰った。だけどエスパイラルの再放送は終わった。今月は、玩具やフィギュアを買えなかった。…イライラを誤魔化せない。
「くそっ!このまま放って置けるか!!」
「…と言う訳だ。頼む!この役、買ってくれねえか?」
3日後、早起きして事務所に向かった俺は弘之と千尋に頭を下げた。
「珍しく昼前に来たと思ったら…。」
「幸雄、金本君の事は放っておきなよ?彼は…」
「拓司は黙ってろ!もう、チャンスは今日しかねぇんだ!」
2日前、金本が通う大学に向かい奈緒美ちゃんを探した。
あの子は今日、明日に控える卒業式の為に、街に出て買い物をする予定だ。どの電車を使い、どの出口で降りるのかも読み取った。
そして…卒業した次の日にアメリカに向かう事も知った。
「頼む!この通りだ!」
「…………。余り気が乗らないが…俺のやり方で良いんなら協力する。」
「!ありがてえ!」
どうにか2人を説得した俺は相棒に乗り込み、急いで神社に向かった。
「金本!大変だ!」
「あれっ?塩谷さん?お久し振りです。どうしたんですか?」
「奈緒美ちゃんが、悪い連中に囲まれてる!」
「えっ!?」
そして神社に来る金本を待ち、嘘をついて相棒に乗せた。
「ところで塩谷さんは、長谷川さんを知ってるんですか?」
「今はそれどころじゃねえ。あの調子じゃ、奈緒美ちゃんは連れ去られるぞ!」
「!?急いで下さい!」
「言われなくてもそうしてらぁ!」
アクセル全開で駅に向かった。奈緒美ちゃんが電車に乗る前に到着しなければならない。
「長谷川さんは…何処ですか!?」
(良かった…。まだ来てねえ。)
到着するや否や、金本は相棒から降りて辺りを見回した。だけど奈緒美ちゃんの姿は見えない。でも、駅前に弘之達の姿が見える。つまりあの子は、まだ買い物の途中だ。
「ひょっとして、もう連れ去られた!?」
「落ち着け!まだ大丈夫だ。」
「だって、何処にも長谷川さんの姿が見えな…」
「来た!金本、隠れろ!」
「えっ?」
慌てる金本を落ち着かせている内に、遠くの方から奈緒美ちゃんが現れた。
急いで金本を相棒に戻し、駅に向かう奈緒美ちゃんを見届ける。
「あっ!長谷川さん。……?無事みたいですけど…?」
「これから襲われるんだ。」
「…はいっ?」
「それを今から、お前が助ける。」
「………はいっ??」
芝居を組んだ。弘之と千尋が輩になって、奈緒美ちゃんを駅裏へと連れ出す。
「あっ!あの2人組!!」
「ほらっ!襲われただろ?」
「塩谷さん、予知能力でもあるんですか?」
「俺にはない。…って、そんな事はどうでも良い!急がねえとあの子が危ねえぞ!?」
「!!」
不思議そうな顔をしていた金本が我に返り、急いで相棒から飛び出した。
俺はゆっくりと金本を追い、後は弘之に任せる事にした。
俺が立てた芝居はこうだ。奈緒美ちゃんを連れ出した2人が、金本と口論になる。金本の事だ。何が何でも奈緒美ちゃんを守り通そうとするだろう。あいつは体格が良い。力士みたいなラガーマンだ。弘之達には、少々の暴力も構わないと伝えた。そうでもしなければ現実味がない。だけど途中で2人は逃げ出す。律儀な奈緒美ちゃんの事だ。金本にお礼の一言でも言うだろう。
(後は…お前次第だ。せめて顔ぐらい覚えてもらえ。)
それにしても金本の足は速い。確かに、力士ではなくラガーマンのようだ。いつの間にか2人に追い着き、駅裏へと消えて行った。
(あっ!)
焦る金本に乗せられ、相棒のキーを抜き忘れた。Uターンして相棒に戻り、身の安全までを確認した後、皆の下に向かった。
(これ以上切符を切られたら、免許も没収だ。紫苑ちゃんにも怒られる。)
「えっ!?」
(こりゃ…どうなってんだ?)
遅れて駅裏の物陰に到着した俺は、予定とは違う光景に驚いた。
(弘之!何本気出してんだ!?)
そこには、本気で金本に手を出す弘之がいた。
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