TRACK 04; 様々な想い、形

 僕を神社に連れ出した幸雄が、急いで家に帰った。ピンクを応援する為だ。


(再放送なんだろ?結果は分かってるのに、それでも応援するってのかい?)


 幸雄は…相変わらず子供のままだ。


(だから…金本君の気持ちも分からない。)




「あれっ?あなたは先日…。」

「その声は…金本君?偶然だね。」


 2週間後…。神社に向かい、偶然を装って金本君と会った。


「塩谷さんに頼まれて、僕の事を確認しに来たんですか?」

「はははっ。そんな訳ないじゃないか?僕は目が見えない。君がここにいるかどうかなんて、声を掛けてもらわなかったら分からなかったよ。」

「………。」

「僕も…たまに来るんだ。君達にはここは静かな場所だろうけど、僕にとっては心地良い五月蝿さがある場所なんだ。風の音や、それに靡く木々の声、小鳥の囀り、賽銭箱に投げ入れられるお賽銭の音や鐘を鳴らす音、手を合わせる音が…僕にとっては心地良い合奏なんだ。」

「………。そうですか。」

「ところで…詮索する訳じゃないけど、これからお祈りかい?」

「はい。いつもこの時間に、参拝に来ているんです。」

「………。毎日?」

「はい。そうでもしないと、ご利益が薄れそうで…。」

「1度の参拝でも、ご利益は充分あるよ。」

「だけど、僕がそう決めた事なので。それとも…毎日足を運んでいると、流石の神様も面倒臭がりますかね?」

「ははっ。それは分からないな。……良いんじゃないかな?君が思った通りにすれば。」

「………。それじゃ、僕は参拝に。」

「うん。」


 僕も彼の事が気になっていた。勿論、幸雄とは違う理由で…。


(付き合ったり、愛し合ったりするだけが恋じゃない。時として、見守るだけの恋もある。)


 僕にも経験がある事だ。江川さんもそうだった。…金本君には好感が持てる。




(一円玉を……投げ入れた。)


 彼が境内に向かった後、耳を澄ませて聞いていた。手と口を清め、砂利道の左側を歩き、お賽銭を投げ入れてから手を合わせるまでを聞いていた。

 素敵な合奏だったけど投げ入れられたお賽銭は、たったの1円だけだった。


(長谷川奈緒美……。なるほど。そう言う事か…。)


 それにしても、本当に根気が要る事だ。だけど覚悟がある。

 声を聞いて分かった。彼には迷いが一切ない。




「あれっ?まだいらしたんですか?」

「………。長かったけど、素敵な合奏だったよ。」

「??」

「静寂も…時として音楽になるんだ。」

「………。はぁ…。」


 ここは人気がない神社だ。金本君は、1時間近くもお祈りをした。この時間帯、この神社を選んだ理由が分かる。



「お1人で帰れますか?」

「?僕かい?僕なら心配ない。1人でも大丈夫だよ。気を遣ってくれてありがとう。」

「……。それじゃ、僕はこの辺で…。」


 お祈りを済ませた彼が、まだ神社にいた僕に驚き、そして帰路を気遣ってくれた。


「………。」


 本当は、1人では帰れない振りをして手を握ってもらうつもりだった。先日のサイコメトリーでは、余りにも入手した情報が少ない。

 でも止めた。お祈りした時間で分かる。思った通り、彼は見返りを望んで参拝している訳ではない。本当に心の底から、長谷川さんの事を心配しているのだ。




「おっ?拓司じゃねえか?」

「健二。君が来たのかい?」

「例の男が気になってな。」

「金本君かい?彼ならさっき、お祈りを済ませて出て行ったよ。」

「…………。本気なんだな。」

「……。どうやら君も、幸雄と同じ意見なんだね?」

「?俺の何処が幸雄と同じなんだ!?一緒にするな!」

「まだ意地の張り合いは続いてるんだね?相変わらずだよ、君達は。そもそも、喧嘩の原因は何だい?」

「………。忘れた。…って言うか、消えた。」

「???」

「長谷川の事は、どうやら金本に譲らなきゃならねえみてえだな。」

「………。」


(やっぱり君も、幸雄と同じだ。幼稚過ぎるぞ?)


 口にしたら怒るから言わないけど、健二も幸雄と同じく、起こした行動、想いに対して見返りや結果を期待している。

 だけど、それが全てではない。


(???譲る?)


「……長谷川さんを…狙ってたのかい?」

「何だ?悪いのかよ?」

「君には、ナンシーさんがいるじゃないか?」

「!!馬鹿野郎!俺がいつ、あいつの事を好きって言った!?」

「………。」


 ナンシーさんと出会って、健二も心変わりしたと思っていたけど…どうやらまだ本気にはなれないようだ。


(……本当かな?)


「健二、足が痺れた。立たせて欲しい。」

「!!騙されねえぞ!サイコメトリーするつもりだろ!?」

「されたところで、どうしたって言うのさ?ナンシーさんの事は好きでもないんだろ?だったら、僕と握手をする事も怖くないはずだ。」

「………。」


 そこまでを言うと健二は黙り込んだ。

 相も変わらず、僕の仲間は間抜けな人が多い。ここで黙り込んでは、自白をしたようなものだ。



 健二は、長谷川さんの事を諦めた。まぁ、頑張ったところで結果は見えているけど…。


(……。ひょっとするとナンシーさんの顔が浮かんで、罪悪感に苛まれたのかな?)


 彼は、ナンシーさんの努力を見守っている。この先2人がどうなるか分からないけど、これも恋愛の1つの形だ。


 そして金本君の想い…。それも恋愛の、1つの形なのだ。

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