TRACK 07;橋本の謎

 不思議な事が起こり続けている。研究所の爆発、失踪事件、ヴァンパイアかゾンビみたいな男に……悪魔。


(白江君…。本当に悪魔を呼び出したの?)


 古い友達が、この事件の張本人として動いている。


(高校の頃から危険な人だと思ってたけど…度を越し過ぎだ。)



 そして私にも2つ、不思議な現象が起こった。1つ目は、遂に超能力に目覚めたと言う事だ。千尋さんのように人を操れる。しかも、その力は千尋さんより強力みたい。


(少し怖い…。道は、絶対に踏み外しちゃいけない。)


 喜ばしい事なのに、今の状況を別にして複雑な気持ちになる。

 私はまだ、能力者としての自覚が足りない。あの力は、扱い方を間違えると大変だ。

 …緊張感が私を襲う。


 そしてもう1つは…力丸さんの説明によれば、経験がない女性は血を吸われた時点でヴァンパイアになってしまうと言う事だ。

 私には、そう言った経験がない。留学していた頃にボーイフレンドはいたけれど、深い関係にまでは至らなかった。この歳で、経験がないのは恥かしい。聞かれもしないから黙っていたけど、力丸さんにはばれているはずだ。

 だけど私は、ヴァンパイアにならなかった。これが2つ目の不思議だ。


(……。違うな…。)


 やっぱり、白江君はヴァンパイアではなく悪魔になったんだ。それなら説明がつく。


(???これも違うな…?)


 だとしたら彼に噛まれた人達が、ヴァンパイアやゾンビみたいになった事に矛盾が起こる。


「!!?ひょっとして、潜伏期間!?」


 つい大声を出してしまった。1人になるのは怖かったけど、個室に入って正解だ。この事を知られると、メンバーの人達や力丸さんに殺されてしまう。


 1つの仮説を立てた。つまり白江君はヴァンパイアのように、血を吸った人を化け物に変える事が出来る。彼が私を噛む前に5人の人を襲ったのだとしたら、蒸発事件と絡めて辻褄が合う。

 だけど人が化け物に変わるのには、時間が掛かるのだ。


(どうしよう!?時間が迫ってる!)


 白江君が悪魔に憑りつかれたのは、爆発事件と同じ時期…。そこから5人を噛んで、翌日の晩に私が噛まれた。私が化け物に変わるのは時間の問題…


(…あれっ?時制が合わないぞ?)


 先に噛まれた人達は、既に化け物に変わっている。失踪事件が起こり始めたのは、数日前の話だ。最後に私が噛まれたのなら、時差は最大でたった1日しかない。だったら私は、数日前には化け物になっているはずだ。


(個人差が…あるのかな?)


 …全く分からない。白江君と出会ってから、何1つ消化出来るものがない。




「あ~~~!もう!」


 ひょっとしたら、今晩にでも化け物になるかも知れない。それを考えると、いてもたってもいられない。


(前向きに考えよう!それしかない!)


 だけど、悩んでばかりでは先に進まない。

 実は、唯一の希望がある。それは、白江君に噛まれた痕だ。全く残っていない。強く噛まれた記憶は残っている。全身の血が逆流した感覚も……残っている。


(いや、それは噛まれて焦った私の勘違いだ。身の毛がよだっただけなんだ。)


 つまり私は、血を吸われていない。……多分だけど…。



 かなり不安要素を抱えたままだけど、前向きになるしかない。大切な事を忘れてはならない。私は遂に、超能力を身に着けたのだ!



「千尋さん、今、お時間空いてますか?訓練の相手をお願いし…」

「橋本か?こっちは取り込んでる。作戦会議中だ。」


 隣の部屋にいるメンバーに連絡を入れた。偶然なのか操ったのか、話したい相手が受話器を取った。


「作戦会議?」

「ああ。あの化け物を倒す方法を模索中だ。」

「……………。」

「??どうした?用があるなら早く話せ。」

『ツー、ツー、ツー。』


(…………。)


 一番大切な事を忘れていた。白江君が化け物になった事も、失踪事件が起こった事も…ヴァンパイアが存在したり、私が能力に目覚めたりした事も二の次だ。


(力丸さんは、白江君を殺そうとしている。メンバーの人達もそのつもりだ。)


 大切な友達を、1人失ってしまう。身近にいる人達が、白江君を殺そうとしている。


 力丸さんは、既に人間として死んだと言うけど…そうではなく悪魔に憑依されているだけなら、白江君は操られているのだ。彼を殺すのではなく、悪魔を追い払えば解決するのだ。


(!あっ!)


 ひょっとしたら、悪魔は白江君自身で追い出せるのかも知れない。彼は『まだ自分をコントロール出来ない』って言っていた。憑りつかれたのではなく悪魔を憑依させようとしているのなら、拒む事も出来るはずだ。


(……。でも、白江君がそうするとは思えない。学生の頃から、闇の力を呼び起こそうと必死だった。井上君の説得でも応じないだろうな…。)


 超能力や妖精の存在は信じるけど、悪魔や黒魔術、呪いには関心がなかった。

 こんな事なら、もっと白江君と仲良くするべきだった。修学旅行のバスで隣同士になった時、黒魔術や悪魔に関する話をベラベラと話していたけど、聞く耳を持たなかった。ひょっとしたらあの時、憑依された時の対処法を話していたかも知れない。


 このままでは、井上君に合わせる顔がない。『白江君は悪魔に憑りつかれた。だから仕方なく、私達の手で葬った…』なんて事、言えるはずがない。きっと今でも、2人は友達のままだ。井上君を悲しませたくないし、恨まれたくもない。

 だからと言って、白江君を放って置く事も出来ない。罪もない人達が、次々と犠牲になっていく。


「もう!どうしたら良いのよ!!?」


 前向きに考えようとしたけど、開花した力を喜びたいけど、そんな気持ちになれない。

 私はベッドに飛び込み、何も考えないように努めた。作戦会議は、メンバーの人達に任せておけば良い。




 ………。

 ……………。

 ………………?


(!作戦会議!?)


 不味い!今はそれどころではない。白江君の命より、私の命が危ない。急いで隣の部屋に行き、会議に参加しなければ!


(きっとまた、囮にされちゃう!!)

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