TRACK 02;召喚術でもなく、降臨術でもなく

 鈍行電車に乗り、白江君が働く研究所に向かった。

 特急に乗りたかったけど…お金がない。事務所がまた、いつもの調子に戻った。



(それにしても…相変わらずね。)


 高校の修学旅行を思い出す。あの時も彼は無茶を働いた。お陰で私達は無事、ホテルに戻れた訳だけど…。

 懐かしいと言う気持ちより、やっぱり彼の本性に気が引ける。前の会社を首になって反省したと思っていたけど、まだ魔法薬の研究は続けていたみたい。


 そして…爆発事故を起こした。私の予感は、見事に的中したのだ。ニュースは爆発の原因が不明と言うけど、私には分かる。



 彼が働く研究所は、思った以上に遠い場所にある。到着した頃には、日も暮れている頃だ。また、ネットカフェで寝泊りをしなければならない。




「済みません。ちょっとお聞きしたいんですけど…。」

「?誰かな?」

「行方不明になった白江聡の、古い友人です。彼の事が気になって来ました。」


 夜になる前に、どうにか研究所に到着した。事故現場は既に落ち着いていて、マスコミの姿もまばらだ。でも警察が監視していて、中に入る事は出来なかった。


「どうやら…遺体も残らなかったようだ。これだけの爆発事故が起こったんだ。かなり近くで巻き込まれたんだろう。」

「えっ!?」


 近く…と言うよりも、爆発は間近で起こったはずだ。


(って言うか、冗談じゃない!)


 無事だと思っていた。だからここまで来た。

 だけど現場の状況を見ると、警察が言った事は正解だ。


(そんな………。)


 友達を…1人失った。早過ぎる死だ。魔法の薬を作ろうと試みて、爆発に巻き込まれた。

 複雑な気持ちだ。彼の、過ぎた性格に呆れもするし、友達を失った事も悲しい。特に…彼は井上君と仲が良かった。3人で共有した思い出も多い。何か…胸にポッカリと穴が空いた気持ちになる。




「…………。」


 夜が来ても、現場の側から離れなかった。救助隊は、今でも捜索活動を続けている。最後の望みに掛け、この場から動けなかった。



「捜索は打ち切りだ。」

「!?待って下さい!」


 でも8時を過ぎた頃、警察と会議を終えた救助隊が打ち切りを宣言した。


「?誰だ、君は?」

「白江聡の友人です。打ち切りって、どう言う事ですか?」

「そうか…。研究所の隅々を調べた。もうこれ以上、捜索する場所がない。残念だが…」

「……そんな…!」


 崩壊した建物の、撤去作業は昼の内に完了した。救助隊は逃げた動物を捕まえ、死んでしまった動物の数まで把握したと言う。白江君以外は、生死の確認が出来たと言うのだ。


 私はその場に腰を落とし、虚無感に襲われた。彼が死んでしまった事も悲しいけど…


(井上君に、何て報告すれば良いんだろう?いつか彼と再会出来た時、空いてしまった穴は、どう誤魔化し合えば良いんだろう?)




「…………。」


 結局、ネットカフェには足を運ばず、10時を過ぎても現場から離れる事が出来なかった。悲しさよりも、虚しさが先立っていた。



「……?あれっ?お前は…橋本?」

「???」


 俯いていた私に、誰かが声を掛けた。聞き覚えがある声だ。


「!?嘘っ!白江君!?」


 顔を上げて声の主を見ると…そこには、見覚えもある姿があった。


「どうしてお前がここに?」

「どうしても何も、心配して来たんじゃない!無事だったの!?良かった~~!」


 奇跡だ!白江君は生きていた。救助隊の捜索も、頼りにならないものだ。


「しっー!大きな声を出すな!せっかく救助隊が立ち去るまで身を潜めていたのに…。俺が生きてる事がばれる!」


 嬉しさの余り大きな声を出した私に、白江君が人差し指を立てる。


「また変な実験したんでしょ!?それで前の会社、首になったのに…。全く懲りないんだから!しかも今回は、こんな大事故まで起こして!」

「しっー!だから大声を出すなって!」

「逃げる気!?駄目よ!やっちゃった事は反省して、自首しなきゃ!」


 白江君の性格は変わらない。それどころか、輪を掛けて酷くなっている。こんな大事故を起こしたのに、反省の色を全く見せない。


「自首なんかするか!実験は成功したんだ。大成功だ!その為なら研究所の1つや2つ、失っても構わない。そもそもここの爆発は…」

「!!何言ってんのよ!どんな実験に成功したか知らないけど、迷惑掛けたんだから自首して刑務所行って、そこで何十年も暮らしなさい!私と井上君で、たまには面会に出向いてあげるから!」


 呆れて、ものも言えないくらいだ。


「五月蝿い!指図するな!俺は実験で、凄い存在になったんだぞ!?お前なんか、相手にならないんだからな!」

「訳分かんない事言わないで!凄い存在って何よ!?犯罪者じゃない!そんな人が友達だなんて、恥かしい限りだわ!井上君も悲しむわよ!?何処かの誰かさん達みたいに、全く以って子供ね?いえ、子供以下だわ!見てみなさいよ!この研究所!酷い有様じゃない?白江君のせいなんだよ!?」

「だからこの爆発は…」

「反省しなさいよ!自首して刑務所行って、首を吊られて死になさいよ!」


 …全く、呆れてものも言えない。


「………。」

「?どうしたの?少しは反省した?」

「………大きな声を…出すなって言っただろ!!」

「……!」


 言い過ぎたとは思っていない。白江君には、死刑にされても仕方ないくらい反省の色がない。

 それなのに彼は逆上して、大きな声を出す私よりも大きな声で怒鳴った。


(………?目が…赤くなった…?)


 見間違いかな?怒鳴る白江君の目が、一瞬だけ赤く光った気がした。


「うっ…ううっ…。」

「?白江君!?」


 腰が抜けるくらい大声で怒鳴った彼が、今度は頭を下げて蹲った。


「駄目だ。まだ自分を…コントロール出来ない。」


 そして全身を震わせ始めた彼の体が、少しずつ変わり始めた。背中が膨らみ、両方のこめかみも膨らみ始めた。皮膚もどす黒い色に変化し、爪が伸び、目の色は完全に真っ赤になった。

 まるで…映画や漫画に出て来る悪魔みたいな姿になった。


「橋本…。済まないが血を頂く!」


 立ち上がった彼の背も、2メートルを遥かに越えていた。

 その彼が、血が欲しいと襲い掛かって来た。


「!!?きゃ~~~!!」

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