TRACK 10;不調
狭い部屋にも関わらず、相手の数は19人。その内、3人は幸雄が相手してくれた。残りは16人。しかし、銃や凶器は持っていない。
「ぐわっ!」
「うぐっ!」
(…後1人…。)
だが…軽く済ませるはずだったのに、これで限界だ。幸雄がエスパーズを遠ざけてくれたものの、なかなかくしゃみが止まらない。集中力が欠け、良いパンチを何度も喰らってしまった。
「はぁ、はぁ…。」
「何て奴だ!仲間を全て倒しやがった。」
ヤクザが1人と…ゴールド社の社長が残った。
2人は電話を掛けようともしない。小田川組は、本来は高利貸しだ。金を貸した相手を脅す人相と体付きを持った連中は多いが、実際の武闘派はいない。援軍は来ない。
「全く、何の為にお前達を雇ったんだ!?精鋭じゃないのか!?」
「……申し訳御座いません。」
ゴールド社の社長がボスを気取る。取引先のヤクザを、手下だと勘違いしている。
怒鳴られたヤクザもヤクザだ。傲慢な態度を執る相手に平謝りをした。
…どうやらエスパーズは、本当に金の卵らしい。
(だが…集めた金の分だけ裏切りを知り、夢を諦める子供が増える…。)
「…エスパーズを解散させろ。マジシャンとして活動しても…充分だろ?少なくとも、グッズの販売は止めろ。」
「どうしてだ!?浅川だけでなく、何故お前達までもが商売の邪魔をする!?そもそも…お前達は誰なんだ!?」
「呼ばれて参上…。正義の味方だ。子供達の夢を守る為に…浅川に付いた。」
「!!おいっ!さっさとこいつをやっちまえ!」
俺は2人を苛立たせた。もう、こちらから向かう力が残っていない。
『ぐえっ!』
煽られて迫って来たヤクザのパンチを交わし、全ての体重を左の拳に乗せた。ヤクザは鈍い悲鳴を上げて倒れ…その上に俺も倒れ掛かった。
「どうして邪魔をする!?お陰でこっちは、えらい目に遭ったんだぞ!?工場だってそうだ!どれだけ頭を下げて回った事か…。」
「…グッズは諦めろ。あれは、世に出てはいけないものだ。」
「はっ!残念だな。エスパーズの人気は鰻登りだ!全ての取引先が、納期遅れを待ってくれるそうだ。」
「……。それは残念だ。だが…浅川君が写真を世間に公表すれば、お前達を止められる。」
「!!」
「正直、グッズを売る事は悪い事じゃない。人を騙そうとするのが悪いんだ。」
「?馬鹿を言うな。俺達が、いつ人を騙した!?」
「超能力も使えないのに、エスパーズを名乗ってるじゃないか?目覚めもしないのに、育成グッズを売ろうとしてるじゃないか?」
「!!お前まで浅川と同じ事を言うのか!?馬鹿な連中が揃いも揃って…!あれは、ただのおもちゃなんだよ!誰だって、超能力か身に着くなんて思ってないんだよ!」
「違う!子供達は信じてる!エスパーズを信じ、いつか同じ力に目覚めると、彼らは必死になってグッズにしがみ付く!無限大の可能性を秘めた子供達が…超能力を信じてるんだよ!」
「最初はそうかも知れない。だが、数週間もすれば呆れて遊ばなくなる。良いか?これは社会勉強だ。人はそうやって、大人になって行くんだよ。現実を教えてやるのが大人の役目だろ!?現実を知って、早く妄想から…夢から覚ましてやらんといかんだろ!?」
「夢を諦める事が、騙される事に慣れるって事が…大人になるって事なのか!?違うだろ!?」
「それが賢い大人になる道だ!そもそも、超能力なんて夢のまた夢だろ?現実逃避をさせていては、それこそ問題だ!」
「………。違う。」
「違うとは…何が違うんだ?」
「夢じゃない。…超能力は夢じゃない!」
「馬鹿も休み休み言え!お前らみたいな頭が悪い連中と、付き合ってる暇はないんだよ!さっさと写真を寄越せ!印刷フィルムもだ!」
「………。お前の上着…左脇の内ポケット…」
「???」
(しまった…。さっき、全て透視したと思ったのに…。)
やはりおかしい。依頼を受けた時から、俺は冷静さを失っている。
「…銃を、隠してるな?」
「!!?」
「これが…超能力だ。」
そこまでを言うと、首を持ち上げる力も抜けた。もう、悪人の面を見上げる力も残っていない。
(くそっ…。どうした?最近の俺は調子が悪い…。)
「はっはっはっ!どうやって見抜いたか知らんが…奥の手を先に言われたな?…さて、どうしたものか…?お前が歯向かって来るなら使うつもりでいた銃だが…立つ事もままならないようだな?先に…逃げた連中を追うか?古いリボルバーだ。弾は6発ある。お前の仲間と浅川…中井を殺ったとしても、1発残る計算だ。仲間の亡骸を拝ませてやった後、最後の1発をお前にくれてやる。」
「!?止めろ!それこそ、取り返しのつかない事になるぞ!?」
「引き返せないんだよ!ヤクザと手を組み、巨額の資金を調達した。エスパーズは、成功しなきゃならないんだ!その為には人の命ぐらい…。」
「……馬鹿野郎が…!」
(くそっ!もう、立つ事すら出来ない…。)
目の前の男を公正させるつもりでいたが…それも出来ないようだ。
仕方ない…。それ相当の、罰を受けてもらおう。
銃で、仲間の命が危険に曝されるとは思っていない。こいつを引き止めたのは、やり直すチャンスを与えたかったからだ。
(幸雄…。健二を助け出せ。後は任せた。)
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