TRACK 01;エスパーズ

「今夜のゲストは……何と!ご存知、エスパーズの皆さんです!!」

『ワッー、ワッー!』


 今日も、お客さんが来ない事務所を後にして家に帰った。

 夕飯の準備をしながらテレビを点けると、特別番組が放送されていた。もう、夏休みも終わる頃だ。


(………。)


 夏が終わりに近付いたと言うのに、テレビは今日も馬鹿な連中を呼び出した。


 エスパーズ…。ここ数ヶ月の間、世間を騒がせている超能力集団………らしい。

 実は詐欺集団だ。彼らが扱っているものは手品だ。留学していた頃に見た、最先端の手品と同じものを自慢気に披露している。


(名前だって適当だ。エスパーズだなんて…。和製英語じゃん?)


 アメリカでは超能力者を、サイキッカーなどの名前で呼ぶ。そもそも、ESPにERなんて付けない。



「ところで皆さんは、いつ頃超能力に目覚めたんですか?」


 司会者も、嘘だと知りながら詐欺集団を褒め、タネや仕掛け有りの手品に驚く。


「目覚めたのではありません。アメリカの秘密結社、スーパーナチュラルパワーズに所属していたのです。そこはエスパー養成所で…」

「……………。」


 エスパーズは6人組だ。5人の能力者と、1人の付き人で構成されている。面白い事に能力者…いや、手品師は全て女性で、付き人は男性だ。私達とは逆の構成だ。


 その付き人が、司会者の質問にそう答えた。彼らを疑って止まない私は返事を聞いて,

尚更の事……呆れた。



 アメリカで霊能力の研究に没頭していた頃、とある噂話を耳にした。


『スーパーナチュラルパワーズと言う秘密結社が…ここ、アメリカには存在する。』


 同じく超能力に関心を持っていた、当時のクラスメートから聞いた話だ。結社は特訓や肉体改造に因って、普通の人を能力者に変える研究を行っていると言う。


 超能力は、いつか科学で解析される。霊能力だって同じだ。そう信じる私は、噂話に深く耳を傾けた。

 だけども色々と調べた結果、噂は噂に過ぎないと言う結論に達した。どれだけ尻尾を掴もうとしても、抜け落ちた毛すら見当たらない。

 若しくは肩書きの通り、誰にも知られていない集団であるかのどちらかだ。



(………。やっぱりこの連中は、似非能力者だ。)


 結社の名前を聞いた私は、よくよく考える事もなく結論に達した。

 スーパーナチュラルパワーズは虚無の存在か…徹底した秘密結社だ。前者ならエスパーズは嘘をついている事になるし、後者の立場の人間なら、その名前を簡単には口にしない。

 何よりも、テレビで披露しているものは全て手品だ。



 事務所の人達は能力を披露しない。世間が混乱し、危ない立場に立たされる事を知っている。

 残念だけど、今の世の中で力を披露する人間は全て、嘘つきと言う事になるのだ。




(それにしても…懐かしいな…。)


 ふと、あの頃を思い出す。アメリカにいた頃は、超能力を身に着けようと無我夢中だった。

 今は……半分、諦めモードに入っている。本当に能力を持つ人達が側にいると、圧倒的な差を見せ付けられて終わりなのだ。ずっと一緒にいるけど、私が能力に目覚める事もない。


(やっぱり私には、才能ないのかなぁ…?)


「はぁ……。気持ち分かるわ…。浅川君…。」


 私は思わず、テレビに映る付き人に呟いた。


 深川誠…。私に、スーパーナチュラルパワーズの存在を教えてくれた人物だ。


『誰にも言っちゃ駄目だよ?口にするだけで、命を狙われるかも知れない。』


 そう言っていた彼がいとも簡単に、全国放送でその名前を口にした。


(命、狙われるよ?)


 心の中で突っ込みを入れたけど…彼はどうやら、スーパーナチュラルパワーズは架空の存在だと結論付けたようだ。



(……。寂しいな…。)


 彼も、『信じる人』だと思っていた。私や白江君…そして、井上君みたいな人だと思っていた。

 一緒に夢を追い駆けたのは、ほんの数年前の話だ。これまでの彼に、一体、何があったのだろう?




「おはようございます!」

「ああ、おはよう。」


 次の日、出勤して間もなく拓司さんも出勤した。他の人達は数時間後の出勤だ。


「この前は、本当に済みませんでした。」

「………いっ、良いさ。気にしないでよ…。」

「??」


 早速、この前、1人で帰った事を謝った。

 すると拓司さんは口を閉じて……怒る訳でもなく、何故か、私を怖がるように顔を逸らした。




『カラン、カランッ!』


 朝の掃除を済ませ、一息着こうと冷蔵庫を開けたと同時に事務所の扉が開いた。


(??誰だろう?)


 他の人が出勤するには、まだ早い時間だ。お客さんが来るはずもない。


「済みませ~ん!」

「!!?」


 意外だ。お客さんだった。

 私は慌てて冷蔵庫を閉め、玄関まで急ぎ足で向かった。


「お待たせしました!」

「相談したい事があり………えっ!?」

「!!ええっ!??」


 玄関に出るとお客さんは、誰かいないかと辺りを見回していた。

 その後ろ姿を見た私は声を掛けた。

 お客さんはこちらを振り向き…私の顔を見て驚いた。


 私も驚いた。お客さんは…昨日、テレビの向こうにいた浅川君だったのだ。


「エスパーズって!一体、どんなセンスしてんのよ!?」


 とりあえず私は、どうしても入れたかった突っ込みを入れた。

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