TRACK 06;共通点

 橋本さんが僕らと合流した頃、僕は次の足取りを見つけ出した。


(結局、フィギュアは売ってなかったか……。でも、隣に座った小学生から有力な情報を手に入れた!この町にあるおもちゃ屋で限定フィギュアを見たとの事だ。田舎町だからあり得る話だ。老舗のおもちゃ屋なら、インターネット販売もしていない。レアな商品が、埃を被って俺を待ってるはずだ。ヒーローショーが目的だったけど……思わぬところで思わぬ展開!!)


 撤収されたヒーローショーの観客席を1つ1つ探っていると、幸雄の残留思念が読み取れた。


「次の目的地は、この町にあるおもちゃ屋だ。」

「思った通りの展開だ。橋本、昨日の調べはどうなってる?」

「おもちゃ屋なら、この町に4つあります。その内の1つはレアな商品が見つかると、マニアの間で有名だそうです。」

「その店が怪しいな。良し!急いでそこに向かおう。」




 弘之の推理が正しかった。僕らは百貨店を離れ、橋本さんが調べてくれたおもちゃ屋へと向かった。

 

 店で事情を聞くと、とある男性客がピンク色のフィギュアを探していたと言う。


「そのフィギュアは!?」

「探してたフィギュアじゃなかったんじゃが……これじゃよ。」

「拓司、頼む。」


 僕は店主からフィギュアを預かり、幸雄の思念を探ってみた。


(違う!エスパイラルピンクじゃない!これは、『怪盗少女ボンソワール』のフィギュアじゃないか!?戦隊でもヒーローでもない!一緒にショーを見てたのに……あのガキ!どうして区別がつかないんだ!?)


(幸雄……。つまり小学生の子供ですら、ショーを真面目に見てないんだよ……。)


 僕は心の中で幸雄にそう教えて、それからもう少し、残った思念を探ってみた。


(おっちゃん!他にフィギュア売ってる店知らない!?こうなったら、見つかるまで探してやる!)


「そのお客さんなら、違う場所にあるおもちゃ屋に向かったはずじゃよ。わしが教えてやったんじゃ。あんたらも行くなら、住所を教えてやろう……。」

「………えっ?」


 サイコメトリーが終わる前に、店主自らが幸雄の行き先を教えてくれた。

 確かにそうだ。サイコメトリーは必要なかった。店主に聞けば、全てが確認出来たんだ。


(この肩透かし感……。幸雄になった気分だ。)


 僕は読み取った思念をメンバーに伝えず、そのまま店を出て行った。




「あっ、あれ!?あれって…事務所の車じゃないですか!!?」


 次のおもちゃ屋へと移動している最中、橋本さんがそう叫んだ。僕らの相棒が、獣道のど真ん中に停められていると言う。

 それを聞いた健二は急いで車を止め、僕らは相棒の方へ歩いて行った。


 獣道は、膝の高さほどもある草でいっぱいだ。相棒は、そんな場所に停められていた。


「扉が開いたまま…当然、ロックも掛かっていない……。鍵は運転席に刺さったままだ。しかし…エンジンが点かない。ガス欠だ。」


 車に乗り込んだ健二がそう呟いた。

 …事態は深刻だ。


「つまり幸雄は、ここで誰かに襲われた。だから扉も開いたままで、ガス欠になってるのは…相棒は数日間、エンジンが点いたままだったんだ。」

「いや、それはおかしい。襲われたとしても、相棒がこんな獣道に置いてけぼりにされてるのが不自然だ。幸雄が、ここに来る理由があったとは思えないだろ?仮に幸雄を襲った誰かが、証拠隠滅として相棒をここまで持って来たとしたなら、扉を閉めて鍵も掛けるはずだ。」


 健二は相棒の状態を見てそう推理した。理に適った推理だと思った。

 だけど、弘之の判断は違っていた。


「僕が、状況を確認してみる!」


 弘之の推理はいつも凄いけれど、だけど……どれだけ頭を働かせても真実には叶わない。


(僕の指先は、その真実を導き出す!)


 幸雄がここで姿を暗ました事は分かった。もう時間がない。ひょっとしたら既に、誰かに捕まったかも知れない。


 僕は健二に手伝ってもらい、急いで相棒の運転席に座った。指先でハンドルに触れて、幸雄が残した最後の残留思念を探った。

 ここから幸雄が、誰かに担がれて連れ去られたのだとしたら……もう、この後に彼の思念は探れない。相棒に残った残留思念が彼の行き先を知る、最後のチャンスだった。




(…………!!こっ、これは!!?)


 ハンドルに触れた指先から、幸雄が残した最後の残留思念が伝わって来た。


(なんて事だ……。幸雄……君って奴は……。)


 僕は次の行き先を知った。



 …幸雄は昔から、ヒーローだけでなく、物珍しい物に興味があるマニアックな子供だった。




『ヘラクレス大カブト?』

『知らないのか?だったら俺が、イメージを送りつけてやる。』

『……遠慮するよ。この前もそれで、僕は頭痛が酷かったんだ。今でも少し頭が痛い。大体、ヒーロー映画丸々1本のイメージを送る事自体が無茶だったんだ。』


 僕が誰かの思念を読み取る場合、その情報は早くても数秒遅れて脳に届く。そして映像や画像で情報を読み取った場合、どうやら肉眼よりも鮮明ではない。

 だから幸雄は僕に何かを教える時、テレパシーでそれを伝えてくれた。


『お前が見れないからだろ!?お陰で良い映画を見れただろ?』

『……………。』

『何だよ、その反応!!カッコ良くなかったのかよ!?あの映画を見て、お前は感動しなかったのかよ!?』

『しないよ。僕は、ヒーローに興味なんてない。』

『!!!』


 僕らは、他人の気持ちを読み取る能力者同士だ。僕は幸雄に嘘をつかない。


『ヘラクレス大カブトの事は、何となく分かる。来週頃に君は、それを手に入れるだろ?予知夢で見たよ。確かに大きな昆虫だね。』

『へへっ!親父に頼んで注文してもらったんだ。それよりも、大きさじゃなくてカッコ良さだろ!?あれを見て、お前は感動しないのか!?』

『しないったら。』

『!!!』


 小学校最後の秋を過ごしている頃、幸雄が僕に、珍しいカブトムシの話をして来た。

 幸雄は昔から、物珍しい物に興味を持っていた。ヒーロー、銃、刀…そして、希少価値がある昆虫……。



『あっ!拓司、ちょっと待っててくれ!』

『?』


 いつもの公園でそんな会話を交わしていると、幸雄が焦ったように何処かに走って行った。

 もう1つの能力を解放したのだ。彼が去って行った後、砂埃と強風が僕の顔を直撃した。


 数分後、彼は僕の下に戻って来た。


『また、珍しい昆虫でも見つけたの?』

『いや!取り逃した!でも、まさかあの蝶がこの公園に現われるなんて……。』

『??そんなに珍しいの?』

『緑が多い場所にしか生息しないんだ。人がいる場所じゃ見つからないはずなのに……。お前に、見せてやりたかった……。』

『頭痛が治ったら、ヘラクレス大カブトのイメージと一緒に見せてくれよ。』

『見せるだけじゃ駄目だ!直接手で触らないと、実感が沸かないだろ?ヘラクレスは来週、俺の家で触らせてやる。』

『……楽しみにしてる。』


 その頃の僕にとって、幸雄が言う昆虫は珍しいものだった。食べ物や筆記用具、服や遊び道具は触れる事が出来た。犬や猫、鳥や魚も、ペットショップや友達が飼っているものを触って、それがどんなものなのかを知る事が出来た。

 でも、空を飛び回る、誰も飼った事がない昆虫は、予知夢や幸雄が送る映像で知る事が出来ても、肌で感じる事は難しかった。


 だから幸雄は珍しい昆虫を見つける度にそれを捕まえ、僕に触らせてくれた。

 彼はこの頃既に、2メートル程の高さまでジャンプ出来るようになっていた。




『それじゃ、そろそろ家に帰ろうか?』

『………………。』

『どうしたの、幸雄?』

『体が動かない。力を使い過ぎた。』

『!!?またかい?だからいつも、力は調整しなって言ってるじゃないか?』


 あの頃は若かったせいか、力を解放した幸雄はその場で直ぐ、筋肉痛に襲われていた。



『……動けるようになった?』

『………まだだ。もうちょっと。』

『寒いよ!まだ冬じゃないけど、それでも夜が来たら気温が低い!』


 幸雄が筋肉痛になる度に、僕はその場で待たされた。


 僕も幸雄も、自分達の能力を他言した事がない。親だって知らない。だから幸雄は、筋肉痛が治るまで家に帰る事が出来なかった。

 そもそも彼は、動く事すら出来ないのだ。



 文句が多い僕だけど、それでも変な幸せを感じた。

 能力の事は、2人だけの秘密だった。そしてお互い、よく似た能力を持っている。それが僕と幸雄に、とても強い親近感を与えてくれたんだ。

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