TRACK 11;御就寝中

 僕は今日も事務所で待機していた。

 橋本さんは現場に連れて行かれた。根岸組に顔が割れていないのは、彼女と藤井さんだけだったから……。

 橋本さんは、初めて現場を経験出来るって喜んでいた。……大丈夫かな?彼女は僕らの能力を知っているけど、僕らがどれだけ無茶で馬鹿な連中なのかを知らない。きっと現場で悲鳴を上げて、辞表を出す事を考えているだろう。


 橋本さんはいないけど、代わりに弘之と健二、幸雄が事務所にいる。皆、ぐっすり眠っている。


 昨日の晩、彼らはかなり無理をした。弘之は透視能力で組事務所の中を覗いて、地図を書いた。監禁されている昇君の姿も見たって言ってたけど、頑張って我慢したようだ。


『昇は3号だ。1日ぐらい頑張れる。今あいつを奪回しても、根本的な解決にならない。』


 弘之は、馬鹿な僕らの中でも、まだ冷静な男だ。


 健二と幸雄も弘之を手伝って、夜通しで力を使った。特に健二は大変だったはずだ。幸雄から送られたイメージを頼りに、見える範囲で事務所にある弾を全て抜き出した。それも、テレキネシスじゃなくてテレポートでだ。脳波に干渉を受けながらの作業だったから、溜まった疲労は人一倍だ。


…ところで、どうして『人一倍』って言うんだろう?一倍なら、何も変わらないじゃないか?




 昼を過ぎた頃に、千尋から連絡が入った。

 電話の呼び出し音で、弘之は目を覚ました。


「千尋達が、昇君を無事奪回したらしい。藤井さんは、誘拐と銃刀法違反の現場を確認してくれたよ。」

「そうか……。橋本は無事か?」

「電話の向こうで叫んでいたけど……大丈夫だと思う。」

「無事だったなら、何よりだ。」

「もう、こんな無茶はさせちゃいけないよ?弘之が言う正攻法も、ちょっと意味が違うからね。」

「………そうなのか?」

「……多分。……僕もよく知らないけど。とにかく昇君は、やっぱり谷川レンズの事を知らないそうだ。谷川と根岸を……どう繋げる?」

「それも、正攻法で攻める!」


(その作戦も、滅茶苦茶なんだろうな………。)


 昇君の奪回、皆の無事を確認した弘之は、幸雄を叩き起こして事務所を出ようとした。


「う……うう~ん……。ハンバーガーマン………!」


 ……幸雄が、また同じ寝言を言ってる。朝からこんな調子だ。


「さっさと起きろ!1.1号!」

「!!?呼んだか!?俺の事を!?」


 なかなか起きない幸雄が、弘之の声で目を覚ました。


(………。)


 幸雄の性格は治らない。僕は小学校から一緒だけど、こんな性格のせいで、いつも孤立していた。

 だけど正義感だけは人一倍……。いや、人十倍。そして……優しい。目が見えない僕を、ずっと助けてくれたのは彼だけだった。


「谷川レンズの荒川って奴のところへ行く。顔を教えてくれ。」

「おう!任せとけ!顔は覚えている!待っていろ悪人共!トゥ!」


 幸雄がソファーから勢い良く飛び出した。それと同時に毛布に足を取られ、側にあるテーブルで鼻を強打した。


(………………。)


 幸雄の性格は治らない。正義感と優しさは人十倍だけど、こんな性格のせいで、いつも孤立していた。

 彼も小学校の時には、僕しか頼る人がいなかった。


「それじゃ拓司、行って来る!無理すんじゃねえぞ!?」

「それはこっちの台詞だよ。幸雄こそ、無理しちゃいけないよ!?」


 2人は事務所を後にした。

 健二は多分、起きる事も出来ないだろう。目が覚めても頭痛が酷くて、足元が覚束ないはずだ。


 健二の頭の中には、女性の事と正義感しかない。他に考える頭がないから、行動を起こした時にはいつも無茶をする。真っ直ぐなんだか、不器用なんだか………。


「おっ!?2人はどうした?」


 健二が目を覚ました。


「谷川グループのビルに向った。今日はじっとしてなよ?無理すると危ない。」

「…しかし昇が……。」

「昇君なら、千尋達が上手く救出した。弘之が考える正攻法でね。」

「……そうか……。それじゃ、お言葉に甘えてもう少し休むか…?」


 昇君の安全を確認すると、健二はもう1度眠りに就いた。

 彼はいつも無茶をする。昨日だって無理をしたはずだ。

 僕だって、幸雄に頭を覗かれた事がある。小学校の時からずっとだけど、そんな僕でも、まだあの変な感覚に慣れない。

 健二は昨日、100に近い回数の頭痛を与えられたはずだ。それでも根を上げずに、銃の弾を取り除いた。

 だから事務所には、こんなに……。


「おい、拓司!」


 健二が突然起き上がって、僕に何かを尋ねた。


「?何?」

「ひょっとしてお前、俺の10年後の予知夢って見てないか?物凄く美人で若い姉ちゃんと、幸せに暮らしている夢……。」

「?どうしたんだい急に?僕の予知夢は、長くても1年先しか見れないよ。知ってるだろ?10年後って…想像もつかない。」

「……駅前で助けてやった中学生がいるんだがな……。美人で頭も良くて、性格も良いらしいんだ。」

「…………。」

「名刺を渡したんだが、連絡が来ねえ。照れてるだけかも知らねえが……。」

「……君は……中学生にも関心があるのかい?」

「馬鹿言うんじゃねえ!そんな訳ねえだろ?だから10年後の俺達が気になったんだ。」

「…………。もし夢でも何か見たら、教えてあげるよ。」

「そうか…。頼んだぞ!?」


 …あれ程辛い思いをして…今でも頭痛で立てないだろうに、女の人の話になるとこれだ。

 健二の頭には、正義感と女性の事しかない。でも、その比率はどうなっているんだろう……?ちょっと怖いけど、今度サイコメトリーしてみるか?


 いや、止めておこう。今の話を聞いただけでも悪夢を見てしまいそうだ。サイコメトリーなんかしてしまったら、何日も変な夢を見続けるかも…。


「ところで健二……。??健二!?健二!!」


(もう寝たのか……。)


 疲れているのは分かるけど……どうするんだろう、この弾の山……。


 事務所の隅には、昨日ヤクザの事務所から瞬間移動をさせた銃弾が、箱いっぱいに詰められていた。中には危険過ぎる、中型の銃も混じっている。


 疲れ過ぎたから、交番にテレポートさせられないって健二は言うけど……。

 もしお客さんが来たら、目が見えない僕はどう対処したら良いんだい?

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