TRACK 08;藤井
全く…。数年振りに電話を寄越して来たと思ったら……あの悪ガキ共、また危ないヤマに顔を突っ込んどるな?
そんな事件は最初から、ワシらみたいな刑事に任しておれば良いんじゃ。
何があったか知らんが、今日は朝からあいつらに呼ばれておる。
久し振りに、顔を拝みに足を運んでみるか…?
事務所の前まで来ると、相も変わらないボロいその造りが懐かしくなった。
耐震はしっかりしとるんか?デカいのが一発来たら、それで終わりじゃぞ?このビル……。
「久し振りじゃな!元気にしとったか?悪ガキ共!」
「げっ!藤井!弘之!何でこいつが事務所に来るんだよ!?」
「おお、健二!懐かしいな!」
「うるせえ!馴れ馴れしくするんじゃねえよ!」
「ぎゃははははははっ!その尖り方も久し振りだ!」
「!!」
事務所に入ると、懐かしい顔が5つ。そして……初めて見る顔が1つ……。
弘之と健二は、こいつらが高校生の時からよく面倒を見てやった。弘之は健二の巻き添えを食らっただけじゃったが、それでも2人をよく補導したもんじゃ。
「健二!お前には、返しても返し切れん貸しがあるんじゃぞ!?それも忘れたか!?」
「昔の話を引っ張り出すんじゃねえ!それにあの頃だって、俺は悪い事なんてしちゃいねえ!相手が全部悪かったんだろ!?」
「それでも、手を出したら負けじゃ。ワシは警察じゃ。お前を捕まえん訳にも行かんじゃったろ!?」
健二は高校の時分から、近所の悪ガキ共と喧嘩をしておった。
人の筋から見りゃ…健二は悪くない。じゃが今は、時代も変わった。先に手を出した方が負けになる、嫌な世の中になったもんじゃ…。
それでも健二は……あの頃から何も変わっておらん。
「今回の事件には、親父の力が必要だ。俺達だけで解決しては、切りがないだろう。正攻法で谷川と根岸組を負かさなければ、同じ事の繰り返しだ。」
「?正攻法って、警察に任せるって事だったんですか?」
初めて見る顔の若い女が、弘之に尋ねる。
…この女は知っとるのか?
「昇を超能力で奪回するのは簡単だ。でもそれじゃ、事件は明るみに出ない。谷川と根岸が2度と手を出せないようにするには、これしか方法がないんだ。」
「!!?所長!超能力の事を!!」
若い女が、ワシの方を見て驚いとる。
……どうやらこの女も、知っておるようじゃな。
「安心しろ。お前以外にもう1人、俺達の能力を知ってる人物がいる。……目の前にいる、藤井って刑事さんだ。挨拶しろ。」
「………えっ?あっ………。はっ、初めまして………。」
ワシは新顔に軽く挨拶し、席に着いて弘之の話を聞く事にした。
「…で?ワシに何をして欲しいんじゃ?今聞いた話じゃと、相手さんの会社と事務所は、ワシの管轄外じゃぞ?」
話は全て理解した。やはり危ないヤマに顔を突っ込んでおる。
じゃが………。
警察と探偵はテレビドラマでも見られるように、付かず離れずの関係を保っておる。警察に出来ない事、探偵に出来ない事がお互いにあり、それを補い合いながら関係を維持しておるんじゃ。ワシら警察が使う情報屋って奴も、所謂探偵の一種じゃ。
弘之達は、自分達の力だけで事件を解決出来る。じゃが、それだけじゃどうしようもならん部分で、御上の力を借りたいんじゃろ。
「親父は側にいてくれるだけで良い。奴らの言った事やった事に、保証をして欲しいんだ。」
「………それだけじゃつまらん。ワシにも暴れさせろ。」
「ご老体に無理はさせられない。相手は鉄砲を持ってるヤクザだ。」
「!ワシをからかう気か!?若造が、舐めんなよ!?」
「全て、俺達の力で対応出来る。誰も無理はする必要はない。」
「………。」
弘之はそう言って、明日決行される作戦を説明した。普通の人間が聞くと馬鹿らしい話に聞こえるんじゃが、こいつらの力を考えれば…それが出来てしまうから不思議なもんじゃ。
「橋本…。お前にも無理をさせるが……やってもらえるか?」
「勿論です!超能力関係なく、悪い人達には天罰を与えたいです!……でも……本当に信じて良いんですよね?」
「ある程度はな。」
「えっ!!?」
どうやら新米も、今回の作戦に参加するようじゃ。
超能力もないのに、本当に大丈夫か?
「根岸組の数人は、俺達の顔を知っている。開錠の常連さんだ。だからお前の助けが必要なんだ。宜しく頼む。」
「………分かりました!任せて下さい!」
「よし!それじゃ明日…昇を奪回する。親父も宜しく頼む!」
弘之は作戦内容の全てを伝えた後、皆に号令を掛けた。
……こいつらといると、老いを忘れる。駆け出しだった頃の、無鉄砲だった自分を思い出すのう。
「親父!酒奢ってくれよ!作戦前夜の、宴と行こうや!?」
「お前は今の話を聞いておらんかったんか!?飲みたかったら明日にせい。祝杯なら奢ってやる。」
会議が終わった後、健二がワシに酒を強請ってきた。全く、可愛い奴じゃ。
……愛情表現も昔のまま…何も変わっちゃいない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます