#013-第7話「中林さんの兄」

 その日のリオ宅での勉強会もつつがなく終了し、また例によって晩御飯までご馳走になった。


 今日はいわゆる普通の家庭料理と言うヤツで、メニューは、ええと何だったかな。キャベツと豚バラ肉の重ね煮と、えのきの肉巻きみぞれ和え、あとは海草サラダに、生春巻……だったかな? どうしても姉基準になってしまうが、やはりリオ母は、姉よりも料理スキルは上だった。ちなみに我が母とは……いや、敢えて言うまい。


 食事を終えた俺と中林さんは、リオの部屋に一度引っ込んだ。


「実は私たちちょっと寝不足なんだよね」


 リオはお腹をさすりながら笑った。中林さんは「うふふ」と微笑んでいる。なんだこの意味深な展開は。百合ですか? 百合なんですか? 思わずあらぬ方向へ想像力が働きかける。


「鹿師村さんのおかげで、本当にスッキリした。私の悩み、全部聞いてもらえた気がする」

「そう? ならよかった」


 リオは中林さんの艶のある髪の毛(今日はいつものストレートヘアに戻っていた)を撫でている。中林さんは少し恥ずかしそうにして、リオに寄り添っていた。


 あれ? そこ、俺の指定席な気がするんですけど……。


「あ、一つきちんと言っておくが、私は鹿師村さんに手を出してはいないぞ?」

「そ、そうですか」


 苦笑してしまう。まぁ、そんな心配は少ししかしてませんでした。リオが嫌がらないなら、絵的にはアリだとも思うけど。ってイヤイヤ、俺は何を想像しているのだ。


 しかし、リオと中林さん、本当に(物理的にも)距離が縮まっている。ていうか、密着である。

 

「絵里ちゃんは小さい頃お兄ちゃんっ子だったんだって」

「小学生までだが、な」

「お兄ちゃん……」


 昨夜の姉の話を思い出す。


「そうそう、中林さんのお兄さんって、うちの姉ちゃんと同い年じゃない?」

「……六歳差?」


 中林さんの眼鏡の奥の視線が、すぅっと細められた。俺は何かイヤな予感を覚えつつも、頷いた。


「昨日、姉ちゃんに聞いたんだけど、同級生だったみたいなんだよね」

「……ない話ではないな」


 中林さんは何事か考え込んだ。リオは俺と中林さんを見て、少し心配そうな表情を浮べている。


「あの兄が一度」


 中林さんは優雅に腕を組んだ。


「両親と大喧嘩したのを見たことがある」

 

 ぽつりと言った。


「兄はとにかく親に従順でな。後にも先にも、親と殴り合いの喧嘩をしたのを見たのはその一回だけだ」


 まさかそれ――。


 俺は思わず固唾を飲んだ。

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