#013-第3話「俺たちにできること」

「そっか」


 なんとなく釈然としないものを残しつつも、俺は頷いた。そしてベッドに横になり、天井を見た。そして数分、俺たちは言葉を探してじっと彷徨さまよった。


「ハルちゃん」


 姉が立ち上がり、ベッドの端に移動してきた。ベッドの中の俺からは、姉の背中とうなじが見えている、そんな位置関係だ。


「絵里ちゃん、あれで良かったのかもしれないよ」

「え?」

「見放された……というと辛いかもしれないけど、あの家の呪縛みたいなものから解放されたような感じじゃない? そうじゃなかったら、凛凰ちゃんのところにお泊りなんて絶対に……いえ、同級生との勉強会すら許されなかったと思う」


 そういう考えもできるのか……。


「あの家、本当に、言ってしまえば尋常じゃないくらいの学力偏重だから、お兄さん、直樹って言うんだけどね、苦労してた。毎日辛そうだったよ。放課後はほとんど毎日家庭教師が高校まで迎えに来てたから、寄り道もできなかったし、土日もびっちり勉強させられてて、外出もままならなかったみたい」

「そんなに……」

「絵里ちゃんは、そんなお兄さんの姿を見てたから、逃げ出したんだと思う。それはすごく勇気あることだと思う」


 姉もベッドに倒れこんできた。俺と並んで、天井を見る。


「でも姉ちゃん。中林さん、大学行かせてもらえないって。高校卒業したら就職するんだって」

「……そうなんだ」


 姉は少しだけ驚いた様子を見せた。少しだけ、だ。俺は姉の横顔を見ながら呟いた。


「もったいないよね」

「そうね」


 姉は視線だけを俺に向ける。


「でも、それは本人が決める事だよ。イヤなら抵抗する。そうでもないなら受け容れる。それだけ」

「なんか――ドライだね」

「あの子は、自分が思っている以上に強い子よ。あの家族に抵抗したんだから。そして今、凛凰ちゃんやハルちゃんに、必死でしがみついているのがよく分かった。それはあの子自身の意思でしょ。流されるだけじゃない、確固たる意志がそこにあるわけでしょ」


 姉の言葉は確信に満ちていた。


「少なくとも、あたしがかつて好きだった直樹よりも、強い意志を持っているってこと。だったら、この先の進路なんて些細な問題よ。絶対にどうにかなる。どうにかする。あなたたちに求められているのは、今みたいに辛くて迷っている時に、そっと手を貸してあげることくらいよ」

「……そっか」


 俺はなんとなく姉の頭に触れようと、手を伸ばした。

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