#011-第4話「提案:膝枕」

 リオは頷きながら、しかめっ面をして言った。


「絵里ちゃんは、誰かに話を聞いてもらいたかっただけで。でも、頼ってくれないんだよね。そりゃ確かに、ご両親の事とか、私たちに何ができる問題でもないけれど」

「寂しがり屋さん、なのかな」

「そう。なのに、誰かと距離を縮めるのが下手」


 リオは憂いを秘めた表情で、俺を見た。そのあまりの整然とした美しさに、俺の心臓が激しく高鳴る。


「でも、私はだいぶ近付けたかな。少なくとも、本音を喋って本気で泣いていい相手だとは認識されたと思う」

「中林さん、嬉しかったと思うよ」

「だといいな」


 リオは教科書をめくりながら、呟くように言った。俺も教科書に視線を戻して、暫く無言でその文章を追う。そしてふと思い立って口を開いた。


「中林さんさ」

「うん?」

「お兄さんや妹さんとは仲悪いのかな」

「希薄だって言ってた。関係がね」

「ふぅん」


 となると、やっぱり家の中に彼女の居場所はないということか。俺はいつの間にか溜息をいていた。


「でも、絵里ちゃんは勉強は続けるって。医学部に入るって言ってた」


 医学部……両親と同じ、医者になるっていうのか。それはどういう感情なのか、考えなのか、俺にはまだ読み解く力がない。


「ご両親との問題は?」

「……それは、まったく見通しないけど」


 俺とリオの目が合う。リオは少し哀しげに眉根を寄せていた。俺も多分、似たような表情をしていただろうと思う。


「私たちのできることって」

「『中林さんがへこたれそうになった時に、いつでも話を聞いてあげる事』って言おうとした?」

「えっと……」


 リオが目を丸くする。


「どうしてわかったの?」

「わかるよそりゃ」


 俺はちょっとだけ笑った。リオは首を傾げている。


「リオならきっとそう言うだろうなって。俺の中のリオがそう言ってたから」


 俺の中のリオ。それは間違いなく恥ずかしい部類に属する台詞だったが、今、確かに、俺の中でリオがそう囁いたのだ。


「ハルくん、私のことよくわかってきたね」


 リオは笑った。俺の中のリオも笑っている。おお、シンクロ率高い。


「さて、いい時間。そろそろお姉さん帰ってくるかな」


 時計を見ればもう五時を過ぎていた。予定通りならあと三十分程度で姉が帰ってくる。俺は立ち上がると、居間のソファの方へと移動した。リオもついてきて、俺の隣に腰を下ろす。俺はテレビをつけて、夕方の情報番組にチャンネルを合わせた。そして画面を見る――ことはせずに、隣に座っているリオを見た。リオは満面の笑みを浮べると、自分のスカートを指差した。


「えっ?」

「ひざまくら、してあげる♡」


 燦然と輝くフトモモが、そこに!


 ていうか、さっきまでしていたシリアスな話はどこに行ったよ!?


「膝枕しながらお話ししようよ」


 リオはクスクスと笑いながら、そんな魅力的かつ大胆な提案をしてきたのだった。

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