#010-第12話「守りたいのは、距離感?」

 怖い――?


 その言葉に、俺は間違いなく狼狽うろたえた。


「お主は正妻候補の娘との、今の距離感を維持したいだけじゃろ」

「距離感を維持?」


 俺は意識して眉根を寄せた。


「どういうことですか」

「近くもならず、遠くもならず」


 ロリ神様は一種静謐せいひつな表情で、俺を見つめ返してくる。


「姉とあの娘との間で彷徨う自分の位置を、固定しておきたいのじゃろ?」


 それは……図星だ。


 俺は表情を消してツクヨミを見る。


「近くなるか、遠くなるかは、わらわにもわからぬ。されど」

「俺はリオに余計な心配をさせたくないだけです」


 俺は語気強く、ツクヨミの言葉を遮った。


「謎の声とかウサミミとか、意味がわからなすぎるし、あなたの存在もそうだし。それに、見知らぬ女との間で子作りを迫られてるとか、俺だって言いたくない」


 俺は腕を組みなおす。ロリ神様はベッドから立ち上がると、ゆるゆると首を振った。


「わかったのじゃ。お主のその正妻候補の娘への想いは、イヤと言うほどわかったのじゃ。無理にとは言わぬ――何事も」


 ロリ神様は低いトーンで、語尾をフェイドアウトさせる。


 そして暫く間を置いてから、視線を俺にじっと固定した。


「されど、時間はあまりないのじゃ。アハシマ兄上とて、今回の機会を人間への同情というようなもので、みすみす棒に振るとは到底思えぬ。その時に至っては、妾も、アマテラス姉上すらも、お主らをどうこうすることはできぬじゃろう」


 俺はスマホをいじりながらそれを聞く。


 今頃リオは、中林さんと何かのやりとりをしている頃だろうか。


「妾は可能な限り、お主に力を貸してやろう」

「ロリ神様……?」

「か、勘違いするでないぞ。べ、別にお主の愛が眩しすぎたから手伝ってやろうって気になったわけじゃないのじゃからなっ」


 ツンデレ?


「た、単に我ら神が一方的に都合を押し付けるのも気が引けてきたと、それだけの理由じゃからな。勘違いするでないぞ」


 ツンデレだ――しかもステレオタイプの。


「う、うるさいのじゃ」


 ロリ神様はそう言うと、すぅっと消え始めた。


「あ、そうやって消えるんだ?」

「窓から出て行くより目立たなくて良いじゃろう。気分的に」

「ま、そうですね」


 そう言っている間に、ロリ神様は姿を消した。部屋が一気に静寂に落ちる。階下で、父か母が帰ってきたような物音がした。


 俺はロリ神様が立っていた場所から視線を外せないまま、ぼけっと立ち尽くしている。


 ウサミミが、俺の耳に取って代わる……。


 俺は自分の本来の耳に触れながら、考える。


 それがいつなのかはわからない。だが、遠い話ではないようにも思えた。十八歳――それを過ぎたらいつなってもおかしくない。あの謎の声が「君は十八歳になったその日に、新たなる力を授かるだろう! 」と明言しているからだ。


 とにかく十八歳――高校三年生――になったら何かが起きるのだ。


 この一連の出来事は、傍目はためにはシュールなギャグに思えるかもしれないが、当人である俺にとっては大問題だ。呑気に「ウサミミかわいい♡」とか言っていられる事態でもない。


 第一、男のウサミミのどこに需要があるというのか。こんな俺が世間に出回れば、俺はたちまち変態のレッテルを貼られてしまうことだろう。


 まさかあの小学四年生の頃、ウサギに噛まれた事がきっかけでこんな事になろうとは。いや、そもそも満月の日に生まれたO型の道産子の因果か。


 俺は参考書をカバンから取り出しながら、「俺は一体何をうらめばいいのか」と、誰にともなしに尋ねていた。

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