#008-第4話「絶妙な距離感」

 その数秒後、LINE通話のダイアログが出現した。


 俺はビックリしながらもすぐに接続して、スマホを耳に当てた。ちなみに今、俺の「人間の耳」は消滅していて、代わりに頭の上に「ウサミミ」が出現している。だが、スマホを当てたのはウサミミのほうではなくて、人間の耳があるべき位置だった。高性能な集音能力を有するウサミミのおかげで、別にスマホを持ち上げないでもリオの声は拾えるのだ。耳(のあるべき位置)にスマホを当てるのは、人間としての習慣行動に過ぎない。


『ハルくん、こんばんは』

「こ、こんばんは」


 いきなりの挨拶に、いきなりペースを崩される俺。


『お姉さん、だいじょうぶ?』

「え?」

『さっき、冴羅も言ってたの。やっぱり先生変だって。昨日の話なんだけどね』

「うん……」

『ハルくん、何か思い当たる所あるんじゃない?』


 俺は迷った。しかし……。


『私、お姉さんにLINEしたんだけど、返事来なくて。こんな事も今までなくて』


 ということは、姉はリオに話すか否か、迷っているということになる……のか。


『お姉さんが他人から見てわかるくらいおかしいって、それ、ハルくん関係くらいしか思い浮かばないんだけど』


 半分当たっている。俺は言葉を飲み込んだ。リオも少し言葉を止めて、俺の反応をうかがっていた。


『……言いにくい?』

「うん」


 短く答えた。それでリオは色々と悟ってくれたのかもしれない。

 

『そっか』


 リオは呟く。そして息を吐いてから、また言った。


『ハルくんもこの一週間、ちょっと様子が変だった。でも、冴羅に聞けば、先生はもっとおかしかった。だから、多分、先生に何かあったんだろうなって』

「すごい観察力だよね、リオは」


 そう答えてリオの推測を肯定する。

 

「でもちょっと待って。説明するには、まだ、俺の中での整理が足りないんだ」

『そっか』


 リオは少し声のトーンを落とした。


『そんだけ深刻な事が起きたってことだね。わかった。つっこまない』

「ありがとう、リオ」


 リオの気遣いに感謝する。この絶妙な距離の取り方が、俺にとっては心地良い。


 リオは俺の望まない所には、絶対に踏み入ってこない。その距離を、リオは正確に把握していた。それは、俺にはない器用さだった。


 しかし――。


『でも一個だけ言わせて』


 リオは静かな口調で言った。

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