#007-第8話「……愛してくれますか?」

 やがて、俺の手が姉のパジャマの内側に滑り込み、姉の手も俺の背中を直接に触れた。気が付けば、俺はその滑らかな素肌の感触に夢中になっていた。


「ハルちゃん……キス、してくれる?」

「うん」

「でも、あたし、その」

「構うもんか」


 姉の言いたい事を悟ったその瞬間に、姉の唇に自分の唇を重ねていた。ほのかに開いていた唇に、舌を滑り込ませ、こじ開ける。その奥では姉の舌が待ち構えていて、やがて俺の舌と絡みあった。


 姉は泣きながら、俺に貪られるがままになっていた。唇を離すと、互いの唇の間に白い糸が張った。姉は一つ大きく息を吐くと、その場に崩れ落ちた。そして痙攣するように、慟哭する。


 俺は姉の前にしゃがみこみ、そして、姉の背をさすった。


 この時には、俺の中に湧き上がった衝動は、幾分落ち着いてきていた。


「ハルちゃん」


 姉は顔を伏せたままで俺を呼んだ。


「汚れたあたしでも、愛してくれますか?」

「あたりまえだよ」


 限界速度で、俺はそう反応した。そして早口で付け足した。


「それに姉ちゃん、汚れてなんかいないよ」


 それを汚れだなんて言うだろうか。俺にはそうは言えないし、そんなことは思わない。だって――。


「ハルちゃん……。あたしも、愛してます」


 大きく震える声で、姉はそう言った。姉の小さな背中、華奢な肩、それら全てが小刻みに震えていた。


「たぶん、今、ハルちゃんには言いたいことたくさんあると思う。でも、今日は」

「わかってる。姉ちゃん、いつも俺に、焦らないでいいって言ってくれてるじゃない」

「うん……」


 姉は涙を拭きながら立ち上がった。


「姉ちゃんもさ、焦らなくていいと思う」

「ハルちゃん……?」

「それに、その、姉ちゃんは自分の幸せを一番に考えれば良いと思う。その結果、俺が凹もうが傷付こうが、どうだっていいじゃない。俺が本当に姉ちゃんの事を愛してるって言えるなら、たとえその時は傷付いたとしたって、絶対に姉ちゃんを祝福できるはずなんだ」


 本当にそうだろうか?


 この疑問は解消できない。でも、そうあるべきなんだと俺は思った。それが正しいのだ、とも。


「ハルちゃん……」


 姉は言いながら、俺をベッドに誘った。俺は三度ほど深呼吸をして、電気を消した。


「ハルちゃん、手を握っていてくれる?」

「うん。一緒に、寝よっか」


 俺は姉の手を握って、眠ろうとした。


 しかし気が付けば、俺たちは強く抱き合って眠っていたのだった――朝まで。

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