#007-第3話「掛け違えたボタン」

 話は昨夜に遡る。


 午後十一時頃、俺はたまたま歯磨きのために居間の方にいた。ちょうどうがいをした頃に、姉が帰ってきたという形だ。姉は少し酔っているようで、なんだか不機嫌そうだった。


 そこに来て、父と母が姉に「こんな時間まで」とか「また酔っ払ってるの」とか説教を始め、姉はますます不機嫌になった。俺はそんな姉の横をすり抜けるようにして、自分の部屋へと引っ込んだのだ。


 それから一時間ばかりが経過し、そろそろ寝ようかとPCを閉じた時、少し乱暴なノックの音と共にドアが開けられた。


「寝てるぅ?」

「そろそろ寝るところ」


 俺は半眼になっている姉を半眼で見つ返しながら、そう答えた。姉はシャワーを浴びてきた後のようで、髪の毛が少し濡れていた。ピンクのパジャマがどこかだらしなく着られている……と、思ったら、ボタンが一段掛け違えられていた。


「姉ちゃん、ボタンずれてるよ、それ」

「そんなわけ……ほんとだぁ、あっはっは」


 こりゃ、相当酔っ払ってますな。この時点で、長い夜になる事を覚悟した。


 しかしあろうことか、姉は俺のベッドに座り込むと、その場でボタンを外し始めた。あまりの予想外の行動に、俺の理性防衛隊の展開が追いつかない。


 パジャマの下に、ブラの姿は見えなかった――見えなかったのだ! 大きな二つの膨らみが惜しげもなく露出され、危うくその全体像が見えそうになるくらいのギリギリのラインでパジャマが邪魔を……いや、いい仕事をした。


「ハルちゃん、見すぎだよ♡」


 姉はボタンを留めながら笑う。確かに凝視してました。俺の記憶の中に、三回くらいしました。


「ところで、どうしたの? こんな時間に」

「こんな時間?」


 姉はそう言って、俺の部屋の壁掛け時計を見上げた。


「あ、明日も学校かぁ。ごめん、曜日間違えてた、あははっ」

「けっこう酔っ払ってる?」

「うーん、飲みすぎたかも」


 姉はそう言ってごろんとベッドに横になった。その拍子に、ちらりと横腹が見えた。やばいこれ、このままそこで寝ちゃうフラグだ。


「姉ちゃん、そこ、俺のベッド」

「けちぃ」

「ケチじゃなくて。ところで何かあったでしょ」

「へ?」

「へ? じゃなくて」


 ベッドの上をゴロゴロと転がっている姉を見ながら、俺は息を吐く。


「姉ちゃんがそういう酔っ払い方してる時って、大抵何かあった時じゃないか」

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