#004-第2話「ハルくん一本釣り」

 俺の決死の告白に、リオは「そうなんだぁ」と言いながら少し思案した。


 そして「よいしょ」と言いながらカバンから、スマホを取り出した。何故かちょっと鼻歌らしいものが出ていたりもする。


「ハルくん、うちに帰っても誰もいないんだよね?」

「うん」


 肯きつつ、情報を補う。


「姉ちゃん、今日は卒論の中間発表だって言ってた」

「大変だね、大学四年生って」

「そうは見えないんだけどね」


 家では忙しさをあまり見せない姉である。思えば、勉強だってものすごくしていたはずなのに、俺の記憶には「勉強している姉の姿」がほとんど残っていない。ゆえに、姉はひっそりと努力するタイプなのだろうと思っている。


「おっ。お母さん、ハルくんのお昼ご飯も作ってくれるって」


 なにやらLINEでやりとりしていたらしい。電話すればいいのに、と一瞬思ったが、そういえば俺もあんまり電話はしないかも。一般的に、そんなもんなのかもしれない。


「じゃ、じゃぁ、寄らせてもらおうかな……」


 正直に言おう。そりゃ下心だってある。ありますよ、そりゃ。この状況で「ない」なんて言うヤツを信用しちゃいけませんよ。


 互いの家くらいでしか、キスすらできないわけでしてね。


 一応声を大にして言わせてもらうけども、俺たちはまだ高校生ですから、お付き合いをしているのです。


 ……不健全なお付き合いは、妄想の中だけで我慢しているとも言う。よく頑張っている、俺。俺の理性防衛隊は実に良い仕事(なのか?)をする。


 心の中でそんな具合に弁解をしている俺の右肘に腕を絡めながら、リオは明るい声で言った。


「おっけー。ハルくん釣れた~」

「釣れたって」


 俺は笑いながら、リオと共に自習室を出た。


「おっ、大鷹夫妻!」


 廊下を走ってきたのは佐和山さんだった。他にも数名のジャージ姿の女子がいる。


「試験終わったその日に、夫婦で二人っきりの自習室?」

「変な言い方やめてよ、晶乃ちゃん」


 もじもじするのもやめてください、リオさん。


「試験の答え合わせしてたんだよ」

「お、旦那によるとってつけたような言い訳!」

「いや、ほんとだから」


 ニヤニヤする佐和山さんと、困惑する俺の図。リオは状況を楽しんでいるかのような微笑みを浮かべていた。俺には時々、リオさんが悪魔に見えます。


「佐和山、先行くよ」


 女子部員たちがそう言い残して走り去る。バレーボール部の準備運動の校内ランニング中なのだろう。佐和山さんは少し声を潜めて訊いてきた。


「絵里、どうだった?」

「どうって?」

「あの子、自己表現が下手じゃない? 大丈夫だった?」

「大丈夫も何も」


 俺はリオを見た。リオは頷く。


「絵里ちゃんのおかげで今回のテストはばっちりだんだよ」

「そうなんだ。いいなぁ」


 佐和山さんの結果は、訊くまでもない。また例のアクロバティックな超低空飛行を華麗に成し遂げたに違いない。


「絵里、家庭環境も複雑だからね。プライベートの事はなかなか話してくれなくてさ」

「晶乃ちゃん、仲良さそうなのに」

「うわべだけ、じゃないかな」


 佐和山さんは少し寂しそうに笑った。


「絵里は私を隠れみのにしてるだけだと思うよ。はやく必要なくなれば良いんだけどね」


 その目はどこか遠くを見ているようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます