#002-第6話「アニマル・ネットワーク」

 凄まれた俺は、いそいそと通訳を行った。


「イナバウアーさんによると、『面倒なので適当に削除した』と先ほど仰っていた関連情報の方が重要らしいです」

「ほほ、イナバウアーとは、そこにいるウサ吉のことか」


 ロリ神様はケージを一瞥する。


「イナバウアーさんです。ウサ吉ではありません」

な名前じゃの。まぁよい。関連情報……か。そうじゃのう、日本書紀関連については我々にとっては不都合な真実てんこもりなので、削除させてもらったわ。そもそもウサギが知っておる必要のない情報じゃ」


 確かに。ウサギが日本の成り立ちを知ってどうするんだという思いはある。


「うーん」


 姉が唸った。


「ところで、ウサギのネットワークって何? 他の動物にもあるの?」


 姉ちゃん、そこ? 今、それ訊くところ?


 動揺する俺だったが、ロリ神様は「そうじゃのぅ」などと言いつつ天井灯をぼんやりと眺め上げた。


「ウサギほどのネットワークは他にはないのぅ。犬のネットワークはデマばっかりじゃし、猫のネットワークは滅多に更新されぬ。最終更新は……ええと、百六十年ほど前の長崎の魚屋の情報じゃ」

「え、江戸時代……!?」


 さすがの姉も絶句する。


「動物のネットワークは古くからあったからのぅ。ああ、そうそう。イルカ・クジラ共用ネットワークなんかは航路情報しか載っておらんぞ、ちなみに」


 さ、さいですか……。


「人間のいんたーねっつにしても、元は愚兄の能力発現者、つまりケモミミが裏から手を回して設計させたものなのじゃ」


 冗談にしか聞こえないが、俺にウサミミがあり、謎の声(つまりアハシマ)が存在し、ツクヨミが厳然とここにいる事実を踏まえると、さらっと笑い飛ばす事もできない。


「ってことは」


 姉が顎に手を当てて呟く。


「ケモミミって、他にも多数いるってことですか?」

「うーむ、それは難しい問いでな」


 ロリ神様も姉と同じポーズをする。


「おることはおるのじゃ。というだけなら世界中におる。冬美さん、お主にだってほーんのわずかではあるが因子はある。じゃが、ハルくんのような発現者は、あと一人、つまりハルくんの子作りパートナーしか、現在はおらぬ。愚兄は封印されている身で、受肉の準備に全精力を注ぎ込んだからの。多数の発現者を故意に生み出す事は出来んかったという次第らしいのじゃ」

「うーん、よくわからないのがそこなのよ」


 姉は首を傾げつつ、強烈な眼光をロリ神様に向けている。


「謎の声……もとい、あなたの兄が直接関与しなくても、ケモミミは生まれ得るってこと?」

「肯定なのじゃ。所詮は血の力と月の力のバランスで発現する力じゃからの。いわば偶然の産物なのじゃが、どの時代にも一人や二人、あるいはもっと多数の発現者はおったのじゃ。だいたいは歴史の影にいたのじゃがな」

「じゃぁ」


 姉は俺の方をちらっと見て、またロリ神様に向き直る。


「別にハルちゃんじゃなくても、その偶然の……」

「いやいや、冬美さんよ。さっき話したじゃろう、現在の発現者はハルくんと、子作りのパートナーだけじゃと。愚兄はそこに、そしてこの時代のこのタイミングに賭けたのじゃ」


 なにやら力説するロリ神様。だが、いまいち俺には響いてこない。ただの巻き込まれ事故ではないか、これでは。いや、巻き込まれ事故であることは、最初からわかってたんだけどさ。


「そうそう、イナバウアーさんからの依頼で呼び出したんだった。んで、ウサギネットワークの侵食をやめてくれないかってことなんですけど」


 何だか会話の不毛性を感じ取った俺は、話題を強引に初期目的に振り戻した。

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