#002-第4話「我は求め訴えたり!」

 尋常じゃない様子のイナバウアーさんに視線を飛ばしつつ、俺は少し思案する。そして、提案した。


「世界中のウサギさんに支援をうわけにはいかんのですかね」

『おいおい、それは無茶な相談だぜ。ウサギは元来争う動物じゃねぇ。草食だしな。食に関してはハムスターどものほうが獰猛だぜ』

「いや、食性の話ではなくて」

『食性舐めんな!』


 また立ち上がって前足をクロスし、前歯をむき出しにするイナバウアーさん。いや、怖いのでやめてください、その顔。


『それにな小僧。月とウサギってのは、この国では密接な関係があるのは知ってるな』

「月にはウサギがいる、とかいうアレですか?」

『そう、それな。俺は外国産の血統だから関係ねぇが、日本産の連中は、そんな事情もあってツクヨミには逆らえねぇ。まぁ、なんだな、ツクヨミの顕現のおかげで、それまで一枚岩だった俺らウサギの結束が真っ二つに割れちまったってわけだ、と、俺は考えている』

「でも、それだとツクヨミ派? は、ごく一部では? 日本産のウサギだけなんでしょ?」

『ウサギってのは基本的にビビリだ。ツクヨミとかいう強そうな名前を聞いたら、なんとなく右へならえしちまうもんなのさ。なんせ草食動物だからな』

「食性の話って関係ありますか?」

『食性舐めんなよ、小僧』


 また怒られた。


『まぁそういう事情でな、現在、世界のウサギネットワークのうち八十二パーセントまでが、ツクヨミ派に制圧されている状況だ』

「展開早ッ!」

『小僧、お前、なんとかしろ。俺としてもこの状況は好ましくねぇ。だが、一介のネザーランドドワーフに過ぎねぇ俺にはなんともしがたい。できるとすれば、アハシマの力を受け継いだお前くらいだ』

「は、はぁ。しかし、どうすればいいんです?」

ツクヨミに直接交渉してくれ』

「へ?」

『だから、ツクヨミを呼び出すんだよ』


 イナバウアーさん、今日は何だか生き生きしてません?


「ていうか満月の日にしか来ないって言ってましたけど」

『そうなのか。だが、試してみてくれ。あのあたりの神様どもは、かなり適当言うらしいからな』


 そうなの?


 うーん、とりあえずあのロリ神様を呼び出せばいいのか。呼び出した後は、イナバウアーさんに直接交渉してもらおう。


「……ええと」


 どんなのがいいんだっけ。祓魔ふつまにハマっていた頃にあれこれ調べた記憶を掘り起こす。


「エロイムエッサイム、我は求め訴えたり!」


 寝ている姉にしがみつかれた体勢のまま、そんな事を呟いてみる。これは召喚の呪文だったし、日本のものですらなかったが、俺にとってみればあの神様どもは悪魔みたいなものだ。


 これで出てくるなんてことはないだろうけどさ――。

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