#001-第5話「弟はかわいいに決まってる」

 思わずのけぞった俺たちに、黒井さんは(ない)胸を張って言った。


「弟たちはアタシが育てたようなもんさ。かわいいに決まってんだろ。弟どもに彼女なんてできたら、ずはひっぱたいてやらぁ」

「あわわ」


 なぜかリオが慌てている。


「ハルくんのお姉さんが、愛ちゃんじゃなくてよかったぁ」

「命拾いしたな、鹿師村かしむら


 にやりと笑う黒井さん。だが、そのドスの聞いた声を聞いても、リオはニコニコしていた。その時、黒井さんは時計を見て、やや慌てて立ち上がった。


「やっべ、こんな時間だ。ちょっと職員室に行ってくらぁ。先公に呼び出されてんだ」

「あ、いってらっしゃい」


 俺とリオが同時に言った。黒井さんは顔をしかめる。


「ハモらすな、気持ち悪いな」

「ごめんごめん」


 また、俺とリオが同時に言った。黒井さんは渋面のまま、額に手を当てて首を振った。そして右目だけ開けて俺を見た。


「大鷹、さっきの件、頼んだ。明日までに回答聞けると助かる。お母さんにはそれから話すから」

「了解した。今日中に訊いてみるよ」


 姉ちゃん、今夜は何時に帰ってくるかなぁ……と思いつつ、俺はその仕事を請け負った。黒井さんは略式の敬礼のようなポーズをとると、そのまま教室を出て行った。


「愛ちゃん、五人姉弟だなんてすごいねー」


 リオが伸びをしながら言った。伸びをした瞬間に、ブラウスの内側にあるブラが透けて見えた。薄い水色――そんなちょっとしたことにでさえ、俺はドキッとする。


 リオには自分が美少女であり、周囲の男子から常に注目されているのだという自覚を、もう少し持っていただきたい。体育の時間の男子どもの目の、やらしいことといったらないのである。リオたちを見ながら交わされるひそひそ話や、無遠慮な視線を認識するたびに、俺の心はささくれ立つのだ。


 体育をなぜ男女別にやっているのかがよくわかる――は少なからずあるはずなのだ。性欲という意味では中高生男子はデンジャラスに過ぎるわけであって云々……。


「ハルくん? 聞いてる? ……聞いてた?」

「あ、うん」


 俺はリオの胸元から視線を外して頷いた。


「黒井さんがああいう突き抜けた性格な理由も、わかった気がするね」

「それ言っちゃうんだ」


 リオはケラケラと笑った。鈴が鳴るような声とはこの事である。リオは立ち上がりつつ、俺に顔を近づけて囁いた。


「お姉ちゃんって弟思いになるものなのかなぁ」

「リオさん、それここで言う?」


 思わず苦笑が漏れた。リオはニコニコと笑っていた。

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