#001-第2話「新ジャンル・凶カワ」

 弁当の話はさておき。


 ともかく「謎の声現象」については、現時点に至るまで、有効な解決方法は見つかっていない。着実に月日は過ぎ、十八歳になる日も確実に近付いてきている。十八歳になる前に何とかしたいのだが、姉の祓魔ふつまブームはもうとっくに過ぎ去っていってしまったし、俺自身には何一つ打つ手がない。


 挙句あげく、先日登場した新キャラである「和ロリな女神様」こと、ツクヨミノミコトによって、俺はなんだか死刑宣告を食らったような気分である。よりによって、(俺と姉にしか見えないとはいえ)新月の日以外は毎晩、ウサミミが生えてしまうようになったのだから。


 そして最大の問題は、今日のようなの日だ。


 俺と姉以外にも、すなわち、全ての人にウサミミが見えるようになるということなのだ。怖いので試していないが、そうと言うからにはそうなのだろう。そんなことでロリ神様が嘘を言わなければならない理由が、これといって見当たらない。


「ハルくんってさぁ」


 リオは目を細めて大袈裟な口調で言った。そして、


「嘘下手だよねー」


 と、右足の爪先で俺のテーピングされた右足首を突っついた。うん、あまり痛くない。


「ハルくん、今日はだよ、そういえば」

「うぶっ」


 不意を打たれて、ご飯が喉に詰まる。少し肺に入った……! いや、なんでもない。


「だいじょうぶ?」


 げふげふっと一通り咳をしてから、俺は天井を見上げた。


「お、おう。そ、そうかー、今日は満月かー。よく知ってたな」

「昨日の月が綺麗だったから。調べたら今日だって」

「なるほどね」


 と、言いながら、俺は取って付けたように鶏そぼろご飯をかきこんだ。姉の弁当は、相変わらず美味い。


「おい、そこの夫婦。アタシも一緒に食べていいかい」


 そこに襲来したのはクラス一小さくクラス一凶暴な女子、黒井さんだった。手には弁当箱と、リオから借りたとおぼしき漫画があった。座っていた男子を一人席から追い出して、その机を俺たちの横につけてくる。


「はいこれ、借りてたヤツ。おもしろかった」

「でしょー」


 リオは自分が誉められたかのような、満面の笑顔を浮べた。


「そうそう、愛ちゃんって本を綺麗に読むよねぇ」

「か、借りたものだし。綺麗に読むのは普通だし」


 不意に誉められて、露骨に照れる黒井さん。こういうのに弱いんだよな、黒井さん。なので、誉める天才であるリオには全く太刀打ちできないのだ。しかし、この落差ギャップのおかげで、クラスの男子からの黒井支持率はうなぎのぼりで上昇中である。凶暴とカワイイのコラボレーションである。「凶カワ」という新ジャンルを作ってしまいそうなくらいの勢いである。ヤック・デカルチャーである。


 このリオさん防壁バリアがあるおかげで、最近の黒井さんを怖いと感じたことはない。佐和山さんや中林さんとともに、俺にとっては仲の良い女子の一人である。


 ん、中林さんは「姉」目当てだからちょっと違うか。佐和山さんもリオとの腐女子トークがメイン……。


 あれ?


 俺自身の女友達のクラスメイトって、もしかして黒井さんだけ?


 ……という事実を前にしても、俺は悲観しない。


 俺のようなモブキャラに、超絶美少女の彼女と、(凶暴とはいえ)ロリータ黒井さんという友達がいる時点で、世界の法則が乱れていると言ってもいいのだ。


「巨人もあと二回で最終回かぁ」


 そう呟く黒井さんの弁当はサンドイッチだった。黒くてスタイリッシュな弁当箱に、几帳面に収まったサンドイッチたち。黒井さんは自分で弁当を作っているらしい。来年からは弟の分も作らなくちゃならないと言っていたなぁ。


 その弁当箱の中に、なんとなく我が家の事情が重なって見えた、気がした。


 それは本当に、ただの気のせいだったわけだが。黒井さんの家庭事情は、俺たちが思っているよりも、ずっとずっと複雑だったのだ。

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