第209話 五分持たない
「ゲェッッ、ゲェエエッ、ゲェエエエエエエ!!」
暴れまわる触手が涼宮強を追い回す。残像が至るところに見えようともその全てを叩き潰すが如く、暴れ狂う。強は逃げの姿勢だけを守り通す。相手に捕まらず、意識をこちらに向けさせ、ひたすらに逃げ続ける。
――やべ……っっ。
攻撃が出来ないことが辛い。回避だけに集中することを念頭においての戦闘は徐々に強の体を蝕んでいた。相手の怒りを増長させ続けると増えていく触手の数。
――持たねぇ……っっ。
戦闘に於いてキツイと感じることは、ほとんどなかった。
――このままじゃ……やべぇっっ。
だが、徐々に徐々に状況は悪化していく一方だった。
「アッ!?」
涼宮強が驚きの声を上げた。避けたまではよかった。その避けたことで起きたことが問題だった。乱暴に振るわれる触手が大地を弾き飛ばす。その先に強の瞳が見るのは、眼を閉じている剣豪の姿。
――おっさん!?
削り飛ばされた岩石が豪鬼の方へと向かっていく。
不慮の事故だ。戦闘というフィールドに残っているが故に起きざるえなかった。
――どうするッ?!
動かない豪鬼を助けに行くことも出来た。それでも、
――おっさんの存在が……バレると
異界の王の視界にこの状況を悟られることを嫌う思考が働く。
――俺よりおっさんを狙ってくる可能性がある。
瞬時の判断が求められる。この場でどう動くべきなのか。
遊びの基本だった。自由であるからこそ、戦略や思想が入り混じる。
「どうした……当たってねぇぞ??」
――俺だけに意識を向け!!
「下手糞がッッ!!」
――おっさんに気づくなッ!!
涼宮強は王の瞳にわざと近づき挑発する。先ほどの一瞬動揺した姿は見ていた。
それでも、視界にデカく映る
――オマエハ、コロスゥウウウウウウウウウウウウウウウ!!
冷静さなど何もなくなっていた。目に映るその存在だけは叩き潰してやると王は触手を使って涼宮強を追って移動を始める。空中をバックステップして強は徐々に豪鬼の姿を異界の王の背中側へと持っていく。
――頼むぜ……おっさん。
ひやっとしていた。気づかれればどうにもならなくなる。戦闘に参加させないだけではなく相手にその存在を気づかせるわけにはいかない。いまの九条豪鬼を邪魔することが作戦の失敗に繋がるからである。
――なるたけ……早く頼む!
全方位から幾重にも襲い掛かる触手を空中ステップで躱しながらも、
涼宮強は願っていた。いくらでも持たせるといったが、
これ以上は危険だと悟る。
――ズボンが……持たねぇッッ!!
短パンが弾け飛びそうになっているのを肌で感じているからこそ、限界を感じる。速度を上げて動くほどに繊維が破けていく感覚が身を襲う。このままいけば、フルチンでの戦闘状態へと移行することになる。
――マジ、頼むよッ!!
涼宮強が強く願う。それでも剣豪はただ静かに上を見上げ、瞳を閉じている。
その姿に天照大神が反応を示す。
【どうなってるの……】
九条豪鬼の状態をなんと捉えればいいのか分からない。岩石は当たらなかったが、豪鬼のすぐ横を豪快な速度で通り過ぎていっていた。それでも、九条豪鬼はずっとそのままなのが不思議でしょうがない。
【スサノオ、アンタ何か知ってるんでしょ?】
溜まらずに知ってそうな弟へと声をかける。
【ねぇちゃんもかよ……】
説明したくないと言わんばかりにスサノオが顔を歪める。
【つまんねぇんだよ、アイツは。生まれつきのつまらねぇ奴だ】
スサノオの気性と九条豪鬼の性質が合わないことは、なんとなく天照大神もタケミカヅチとて分かっている。派手好きで豪快なモノが好きな荒ぶる神に侍は合わないのだと。
他の神々も、同じく段々と九条豪鬼の状態を気にかけ始めていた。
ただただ静かに天を見るように顔を上げて、瞳を閉じているだけ。
この戦闘の終盤でまるで動きや溜めが見えない。
数人の神がなるほどと頷きを見せた。アマテラスは不思議そうに他の神様たちを見ていた。頷く者達の特徴は何かと。何か共通点がないのかと探しながら首を回して、見てからスサノオの方に向き直る。
【教えなさい】
結局、答えはアマテラスには分からなかった。
ならば、弟に聞くのが早い。
【かぁ~~っ……アイツの、アレはだな……】
タケミカヅチとアマテラスは嫌がるスサノオの言葉に注目する。
何かそんなに言いづらいのかと思量をいれるが何一つ思いつかない。
よほど特別な何かなのかと、考える。
【
アタマをぶっきらぼうに搔きながら嫌そうに答えたスサノオの言葉に
アマテラスとタケミカヅチは首をひねった。
≪続く≫
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