第198話 雷鳴轟く、終焉《シュウエン》の物語
【時は残酷にも動きだした】
涼宮強という存在が齎す混乱。神々も人間も否応なく巻き込まれていく。誰もがその存在の意味を正しく捉えることが出来ない。その力の意味を知る者は誰もいない。
栃木の戦場を支配したデットエンド。
秘書が総理の器を試すように楽しそうに問いかける。国立研究所のモニターに映されている画面が総理官邸の二人だけの部屋にも流されている。
「総理、栃木の件どうなさるおつもりですか?」
秘書である彼女が、総理が彼を目立たせたいと言ったことを忘れてなどいない。
「彼を、涼宮強を――」
これは絶好の機会ではないのですかと問いかけていてる。
六体神獣クラスの災害に現れた年末の最たる英雄。
「どう利用なさるおつもりなんですか……ふふ」
世界改変の全てを知る鈴木政玄に問いかける。
【君はこの
全てを知ろうとも全てを操ることなど出来ない。それが歴代最高の総理であろうと、神々の力を持ってしても。誰も不確定な未来を決める術など持たない。だからこそ、楽しいとヘルメスと秘書は嗤う。
世界に知られてはいけない存在、世界を変えた元凶。
そのすべての罪を背負う一人の少年。
誰よりも異常で、誰よりも特質であり、神に愛されし人の子。
「困ったねぇ……」
止まっている時の砂時計を見ながら、鈴木政玄もその取扱いに迷いを見せる。
涼宮強という存在が彼にとって重要であることは間違いない。
『まぁ強には手を出さないだろう。あいつらにとって重要な存在だからな』
ソレを涼宮晴夫は分かっている。
涼宮強がこの狂った世界を紐解くひとつのカギとなることを。
「まだ早すぎる……」
嘘で歪められ、積み上げられた歴史。
その全ての真実に近づく鍵となる、
一人の少年――涼宮強という存在。
その存在の開示のタイミングを鈴木政玄は半分進んだ時の砂時計を持ち上げ、見つめながら、その奥に画面に映る涼宮強を見る。コレは鈴木政玄の計画とは大きく違う。
異世界が生み出した狂人たちによって、狂わされた歯車。
「リーダーは涼宮強をどう考えているの?」
「マリー、アイツがこの世界のカギであることは間違いない、だけどな……」
なんとなく起きた出来事のタイミング、その異質な存在に思考が持っていかれる違和感。存在自体が特別であることは間違いないと思いながらも、どうにも胸につっかえる。
「何かがオカシイって……感じちまう……」
包帯男は世界の秘密を求める、この世界のエゴを解き明かすために。
「大事な何かを見落としてる気がする……嚙み合ってねぇんだよ」
胸につっかえる謎の違和感、その答えが何なのかを男は探し求める。
【いいね、いいよ! 君たちはスゴクいい!!】
ヘルメスが興奮を示す。時が過ぎるのを待ちわびているのは人間だけではない。
【
複雑に絡み合う思惑と人間模様。
【だからこそ、
そして、ソレを僅かに操る神々。
【終わらせるのも、
時の砂が完全に落ち終焉が起きる時に全てが終わる。その砂が進むという事はヘルメスたちにとっての終わりでもある。そして、人類の終わりでもある。
永遠の命に終わりを待ち望む神たちが願う終わりの物語。
【ククク…………アハハハ】
その物語が凡庸であるはずがないだろと、ヘルメスが感激に震える。世界や異世界を救う
【コレは
その最後の物語の語り部であるヘルメスは、果てしなき天を仰ぎ見る。
【
終わりというモノを願うが故に、その価値を知る。
終わりなき物語の退屈を知る。
【止まらずに駆け抜けてくれ、終わりまで……どうか】
だが、同時に
【君がその中心であることは間違いない】
ヘルメスの視線が涼宮強を捉える。獣の如き形相で拳を溜めて待ち構えている。
上空へと蹴り上げた異界の王を追い越し、先に到達地点で。
「
その拳が異界の王の体をこれでもかと叩きつけた。空気の層を纏う拳にも圧力がかかる。ソレを力づくで押し込むように最大の力を発揮する。反動で涼宮強の体が上空にさらに浮く。
――なんて一撃だ……けど、まだ……
どこまでも高く上がって行く少年の行方を神々も人々も見守る。
――終わって……いないッ!?
ここから先の混沌に備えるように。
上空にある雲に包まれる獣の姿、そして、
「――
獣の声が夜に染まる暗雲を渡る。
呼応するように黒い雲が光を放つ。激しく脈打つように広がる雷鳴。バチバチと自然ではあり得ない音を鳴らし始めている。局所的に雷鳴が集まり過ぎている。
上空から落ちていく異界の王の一つ目に黄色の閃光が見えた。
誰もがソレを目撃する。
「――
《続く》
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