第191話 どうする、悟空?
【スサノオさん……これは】
三嶋隆弘の成長に目を奪われていたその時に
【タケミカヅチ、オマエ。いい所を見逃してるぜ】
事態はすでに動き出していた。火神の勝利に酔いしれた者達が全員ではなかった。横で叫ぶ人間とただ黙ってその場を見つめていた者達。
【ヤバくないですか……っ】
栃木の戦闘も同じく最終局面を迎えていた。
――これは……マズった。
衣服が残り少ない状態で失敗したと涼宮強が立って眺めていた。
「どうにも……困った事態でござるな」
強の横で九条豪鬼も同じところに視線を上げていた。
戦場に起きた異変。
引き起こしてしまったのは涼宮強という特異点に他ならない。
田島ミチルが頭を抱えて画面に映る、
「なんてことをしてくれたんだ……っ」
涼宮強を睨みつける。不死川もハハハと狂った笑いを漏らす。
「終わりだよ……終わりだ……」
戦闘は佳境に入ってしまった。一足先に終えた京都と同じく決着間近の雰囲気が流れていた。だが、白き炎の迦楼羅のように希望ではなく絶望が広がっていた。戦場に黒服たちもただ見上げていた。
「ゲェエエエエ!!」「ゲェエエエエ!!」「ゲェえェ゛ェえ゛―――!!」
マウスヘッダー特有の気味の悪い声が重なり怒りを叫ぶ。
涼宮強は困り果てていた。
――アレは……どうしたんもんかな……。
ブチ切れて殺すことに専念していたことが、最悪の事態を齎した。
――どこかに運ぶこともままならねぇだろうな……。
敵が巨体であるが故に遠方へと捨てることもできない。
――コロコロしてるし、おもいクソッ遠くにぶっ飛ばすのも無理だ。
おまけに打撃に強い性質もあり、
転がりはするがその場から遠ざけるほどには届かない。
――どうしろってんだよ……
おまけに戦場であるのが栃木であるが故に困り果てていた。
「まさかこんなことになるなんてな、侍のおっさん」
――この状態はもうすでに……最悪でござろうな。
同じく豪鬼も考えていた。
「コレはやっちまったな、俺たち」
自然な流れで罪をおっかぶさろうとする強の言葉に豪鬼は反応示す。
「……たち?」
そういうやつである。危なくなったら人のせいにする性質を持ち合わせている。
学園対抗戦の田中を押しやって乱入させたときのように。
「あまり攻撃したら、ダメな
「…………」
――さらりと流してくるわ……この子……。
しかも、指摘しても平然とした態度で腕を組んで堂々と敵を見つめている。
「どれぐらい被害が出るか……わからんな、おっさん」
――すごい……晴夫さんっぽい!?
真剣に考えているようで責任逃れを企む高校生に遠き日のリーダーの姿が重なる。どう考えても涼宮強が原因の全てであった。それでも負けじと巻き込んでくる姿勢に驚愕を禁じ得ない。
「何かいい手はないか……黒服のおっさん?」
スゴク仲間っぽく話しかけているが、
これがまともに話したことがない二人の会話だ。
「いい手を長く考えてる時間はなさそうでござる……」
ただそんなことを突っ込んでる猶予すらもない事態に発展していた。ピーっとヤカンから蒸気が出るような音が鳴り響く。無数の口から怒りと共に湯気が上がっている。
何よりも、マウスヘッダーの王の体が当初とは比べ物にならない。
黒い体がこれでも赤く怒りの色を発する。体全部の口が怒り叫び、蒸気を上げている。ただ一つの巨大な眼球が赤く血走って涼宮強と九条豪鬼を睨みつけている。ただ一番変わっているところはそのどれでもない。
一番変わってしまったのは――
「ゲェえェ゛ェえ゛―――!!」
その巨大だった体躯がさらに膨れ上がっていることだった。
怒り狂った風船がパンパンに膨らんだような体。そこから迸る白い蒸気。赤く燃え上がるような体はエネルギーの塊であることを伝えてくる。涼宮強が王を追い詰め過ぎたが故に起こった事故。
「オレ、この手ドラゴンボールで見たことがある」
もはや、自爆寸前の異界の王。
「瞬間移動の持ち主はいないか、ブラックユーモラスに?」
「残念ながらいないでござるよ」
だからこそ、二人は困り果てていた。
「おまけに界王様も界王星もござらん……」
――この返し……意外とできるな。この渋い侍。
涼宮強の怒りも収まり冷静にならざる得なかった。どうみても暴発する状態。自分は生き残れたとしても、その後の被害はどうなると考えて途方に暮れる。
爆発するなら――海に持っていくのが定石。
であるが、異界の王を簡単に運べるわけもなかった。
実力の差により、一方的に大人しく茨城まで運ぶことなど不可能。
「どうする、悟空……」
――晴夫さんもドラゴンボール好きだったな……。
《続く》
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