第154話 もしも、学園対抗戦が殺し合いであるならば
学園対抗戦で選ばれたものが学園の上位三人に当たる。しかし、ここにはある限定的条件が付与される。あくまで個人能力戦、それもルールの縛りがあるフィールドでの戦い。
「もっと……深くいかなきゃ」
豊田の首が傾いてる様に視線を取られている二人は気づいていなかった。その声が誰のもので、なぜ豊田の首が横に曲がっているのかも、その首筋に残る切られた痕が一人の暗殺者によって行われたことも。
ギルド長とは、その所属するギルドの戦闘の最上位。
それすらも凌駕する者がいた。
――あ~れ~……ハナちゃん、まずったか?
花宮が視線を送った先にいる少女はただ気配を消している。足音もなく、口から出す呼吸に音はなくただゆっくりと豊田に向かって歩いていく。本来であれば気づかれないことなどない。
――厄介な子を起こしちゃったかな……。
気配に気づけない理由はいくつかある。殺すことが日常であったが為にあまりに自然に溶け込むような空気を纏えること。呪詛の武器により体重が限りなくゼロとなること。何よりも殺意が他のものと違うこと。
ただ、自然に息をするように殺すことを意識する。
殺意という感情が他のモノとは同じであること。平常の心に殺意があるために見抜ける術がない。呪詛により精神が安定している状態。心の乱れもなくただ息をするように人を殺すことが出来る逸材。ナイフをゆっくりと自然に喉元へと斬りつける。
そこへ洗練された暗殺技術が身についてる。
――
ゆっくりと歩いている姿に技術が凝縮されている。服がすれる音も立てずに人の視界の端を意識して風景の一部のようにゆっくりと歩幅を変えて歩く。一つとして同じ歩幅はなく静かに体を揺らす。傍から見れば気づけるものでもない微細な変化。
故に僅かな狂いが催眠効果を生み、動くものへの本能の働きを鈍らせ、
ターゲットに気づかせることもなく近づく暗殺者となる。
――その年で……クロちゃんやり手過ぎでしょー。
それには御庭番である花宮も驚嘆を覚える。
もしも、学園対抗戦がルール無用の殺し合いであるのなら、
選出されていたのは間違いなく――
殺し屋としての突出した才能。勇者たちでは会得出来ない感覚。日常を殺しの中に身を置こうとも後天的では育たぬ才。殺意との共生が生み落とした自然体。殺すことへの躊躇いや硬直もなく、手に二本の短剣を持とうとも不自然さを感じさせない極致。
半機械人間であるが故に人間的構造を有する脳が飲み込まれていく。
大杉とアルフォンスの横を抜けていくクロミスコロナという殺意に誰もが目を向けられなかった。豊田の自己修復機能により首が元に戻っていく光景に大杉とアルフォンスが眼光を強めて警戒していく。
彼女の動きを捉えているのに見えていない。
――ダメージ……攻撃方向後方、攻撃方法不明、攻撃者不明、解析困難
分析を始めるが未だに気づけない。
――こりゃ……ハナちゃんの出番きたかも。
豊田の別名RP2だけでは、荷が重いと野次馬の中から花宮が抜け出して歩いていく。希少な暗殺技術、オルトロスによる精神安定と体重極減。田中を失ったが故に彼女は戻った。約束も何もなく昔のようにただ殺す日常へと。
《つづく》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます