第146話 抹殺指令遂行

 ――抹……殺?


 何の冗談だと櫻井は不思議そうに豊田を見ていたことがアダとなった。教室に届くゲートからの衝撃波の爆音と同時に首に圧力がかかる。機械仕掛けの腕が駆動音と共に放熱を開始。


「――ッタ!?」


 半機械人間ハンキカイニンゲンの手が首を絞めつけ、背中のロケットが噴射した時に櫻井は初めて気づいた。トヨタの眼の輝きがオカシイ。これは冗談などではない。何かの異常事態なのだと。


 ――なん……でッ!?


 教室の窓が揺れていることに気を取られていたクラスメート達も気づく。だが、すでに遅かった。豊田のバーニアが火を噴いて櫻井の体を体ごと教室の壁に打ち付けた。


 ――どっ、いぅ!!


 クラスメートの悲鳴が上がった時には教室の壁が一枚破壊され終わった。


「ぐぅぐっ――――」


 首を絞められていることで呻くことしかできない。圧力により思考までもが封殺されて働かない。隣の教室へと貫ぬき二人の体が現れるが勢いが止まることがなかった。


 コンクリートに叩きつけられ突進が止まる。


 しかし、豊田の殺意が止まることがないかのように背中についているバーニアがさらに加速を上げて櫻井を締め上げていく。


「ガ、ガっ―――ぁっ」

 

 首が問答無用で締め上げられていく。後ろの壁に亀裂が入り始める。豊田のバーニアの加速により壁が耐えきれずに圧で崩壊し、なおも櫻井をもろとも運んでいく。


 ――ころ……す……気、かっ。


 櫻井は苦し紛れに豊田の腕へ必死に手を伸ばしていく。だが、引きずられている状況下で首が閉まっていて力が入らない。意識が遠のきそうになりかけた。


 ――やべ……ぇ……ぞ……これ

  

 何が起きてるのか考えるよりも先に頭に死がよぎる。完全に想定などしていない事態に後手に回った。壁に当たるとわずかに止まるが、挟み合わせの間の方が首を締め上げられていく。


 ――なんっで……豊田が……オレを……っっ


 首を絞めてくる腕に櫻井の手が届かない。なすすべもなく体は壁を突き破りながらも運ばれていく。完全なる急襲だった。豊田と目を合わせながらもこんな事態を想定などしていなかった。


 クラスメートにいきなり襲われることに意識など向けるわけもなかった。


 校舎の最後の壁をぶち抜いて外へと二人の体が放り出される。櫻井の体に着実にダメージが蓄積されている。首を締め上げられ押し飛ばされながらも必死に呼びかけるが収まる気配は微塵もなかった。


「とォ、よ……たッ……っ」


 本来であればこの時代に存在しえない技術。進化の過程を飛ばしたように作られた未来的技術の結晶。半機械人間という科学で出来た人間。背中にある噴射口が最大火力を発揮する。その背中に機械仕掛けの翼が生えた。


「――――最大加速フルバーニアン


 機械仕掛けの冷徹な声。意識が半ば途切れかけの櫻井の首を絞めたまま、上空へと高く飛行していく半機械人間。抵抗するために伸ばしていた櫻井の手は下へと垂れ下がる。


「や、め……、ろ……っ」

 

 ――ダメだ……ちからが……入らねぇ、っ。


「何が起きたの!?」「櫻井と豊田が……えっ、え!?」「櫻井シャン!!」「二人を追いかけないと……」「なに、なに、喧嘩? この状況で??」


 何が起きたか分からない教室はパニックに陥った。生徒同士の喧嘩にしては度が行き過ぎている。皆の心に不安が生まれる。何かとんでもないことが起きているのではないかと。

 

 ――何が……起こってますのよ!?


 動揺するミカクロスフォードが豊田が壊していった壁の穴を見る。その視線の先に一人の男の背中が見えた。誰よりも早く異常事態に反応して飛び出していった男の姿が。


 ――普通の生徒だったら……コレで死んで終わり。


 混乱する教室でただ一人冷静に状況を見定める女。全てはこの女の計画。この混乱の元凶である六道花宮一人だけがこの状況を楽しむ。豊田の攻撃により死ねばただの生徒という結論に至る。


 ――生き残ったら、それなりの実力がある証明。まぁ、生き残ったらね……。


 この女にとってはその程度のことでしかなかった。


 櫻井が死ねば仕事が減って楽になるぐらいなものだった。櫻井が生き残ってもデータが戦闘データが採取できる。彼女にとってこれは絶好の機会でしかなかった。アビスコーリングによる衝撃波が生んだ混乱に任務の混乱を混ぜる、絶好機でしかない。

 

 豊田の翼が可変する。風の流体を捉えて静かに速度を落とすことなく方向を変えていく。完全なる殺意でしかなかった。その半機械人間に感情らしきものが見えない。文字通り抹殺しかなかった。


 花宮から受けた指示を遂行する機械でしかなかった。


 殺せと命じられたからには全力で殺す。その意思を抑揚のない機械の声に乗せた。


「――――急降下ダイブ


 急速に落下する二人の体。櫻井はもはやされるがままだった。酸素を吸入できない状態で意識が飛び飛びになっていく。手を上げる力も入らなかった。そんな状態の櫻井にも慈悲はなかった。


「――――爆撃ドロップ ボム


 背後のバーニアは殺意の爆裂音の鳴らして、


 地面へと真っ逆さまに櫻井の首を絞めたまま降下していく。 





「――――飛翔ジャンプ



 

 校舎の壁に振動が走る。二人の落下を邪魔するように声を上げた者がいた。急降下している二人にタイミング合わせたように校舎の壁を蹴り、落下に彼の武器を握る腕に力が入る。


「櫻井を―――ッ!!」


 割り込みをいれる。金属と金属が激しくぶつかる音が奏でられる。落下途中で機械人間の軌道を変えるように打たれる槍の横払い。鈍重な体から放たれるしなやかな一撃。


「離すでふよッッ!!」



《つづく》

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