第93話 異世界異端者 VS 御庭番衆 —君たちの行く先が終焉《デットエンド》だとしても—
お頭と小狼の横で慌ただしい足音が鳴り響く。
「お頭………っ!」
停戦協定をやぶる様に小馬鹿にするやり方。
人を馬鹿にしたように人形のような顔でほくそ笑み金髪の幼女が通り過ぎ、長身の細いオカマが自分に投げキッスを送ってくる。人形を両手に持った少年は舌を出してヘラヘラと嗤い、好きヘッドの男は殺意を向けてきた。
「殺すッ!」
「落ち着きな」
「わっぷ!」
全身の毛を逆なで怒りを表す少女の頭を手で押さえつける。お頭は通路の先を見やる。そこに浮かぶのは先程走り去っていったであろう人物たちの影がある。赤い絨毯の上に不気味に影が嗤う。
「シャオ、いくよ」
「お頭ッ!?」
狼少女の目に映った光景をお頭が見逃すはずない。人を舐め腐ったやり方。何を考えているか分からない狂人たちの一時のパレード。何を持って待ち構えているのかも分からぬ先に彼女は足を進める。
ココは狂気の館——
何を考えても奴らの思考になど辿り着けない。だから女は後ろに少女を引き連れて前に歩き出す。廊下が終わり、開けて見えるエントランス。
そこにさっきの連中が横に並んで待っていた。赤い外套からこぼれ出ている金の髪が下に落ちる。
「本日はお越しいただき感謝を申し上げますわ」
中世の貴族のように足を交差させて体を曲げて礼節を伝える仕草。それでも彼女は外套で顔を隠してままだ。
「次にお越しの際はぜひとも」
透き通るような魅惑の声を奏でる。
「お互いの命を煌めき散らすような………」
その声色に乗るのはイカレタ狂気。
「賛美ある
狂気に当てられ小狼が怒りで掻きまわされる。今すぐにでも始めてもこちらは構わないと拳と牙をむき出しにする。その姿を見てオカマが鞭をしならせて床に叩きつける。
「アナタ最高よー、いますぐ食べちゃいたい!」
恍惚の表情で獣人という獲物を見下ろす興奮の眼差し。
「あぁ……でも、ダメッ」
僅かな自制で小指を歯で噛みしめる。
「いまはダメね………もっとゆっくりできる場所でじゃないと」
興奮を殺しきれない表情がオカマの口下に新しい紅い化粧を咥えていく。今すぐにどうにかしたいという意識が威嚇を発する狼に向けられる。その威圧がオカマの身をビリビリと揺らす。
「そんな眼で睨まないでっ………ダメよ、ダメ!」
オカマの興奮が最大限に発せられる。その瞬間にベキッと音が鳴りいた。男が噛み砕いた爪が真っ二つに裂けて宙を舞う。呼吸が荒くなる変態を前に狼少女は威嚇を緩めない。
その視線が突き刺さる度に男の内側で鼓動が鳴り響く。
「殺したくなっちゃう………っっ」
「抑えろ、マダム」
スキンヘッドの男がオカマの殺害衝動を引き留める。
「………ソリッド」
これは殺し合いをするために来たのではない。これは客人へのもてなしのひとつに過ぎない。スキンヘッドの男はお頭の眼を見つめる。
「外の連中は全員くれてやる」
今回、外の連中は全員殺すと宣言された。それを踏まえてお土産にでも持って行けと言わんばかりだ。
だが、男の眼は眼光を増す。
「だから、二度と来るな」
後ろで少年が腹話術で二つの人形を使い「そうだ、そうだ!」と、
男の声色と女の声色で叫んでいる。
「それはお前ら次第だ」
「あら、私はいつでもお待ちしております事よ」
「また絶対会いましょうね!! 小狼ちゃん!!」
意思疎通がはかれていない狂人共。それにお頭は首を回して間を割る様に通り過ぎて行く。その後ろを狼少女が仕方なしに着いていく。狼少女が通り過ぎる横でうーんちゅっという気持ち悪い音をオカマが鳴らしてくる。
御庭番衆のトップである女は去り際、
「次に私を見たら」
扉を通過した後で、ふざけた連中へと最後の言葉を送る。
「――――オマエらが死ぬ時と思え」
その聖道服を纏った背中から本気の意志が流れ出る。
その声色に一切の嘘は無く虚も無い。これが最後の通告なのだと気配で語る。
「楽しみですこと――」
それに外套の女はほくそ笑み扉が自然と閉ざされる。
【ソレでいい】
その一時の邂逅を見て神たちはほくそ笑む。
【世界を疑え、自分の存在を見失うな】
これはこれから始まる物語の序曲。
【神が助けるわけがない、神は面白がっているだけだ】
多くの者たちが入り乱れ翻弄されていく様を、
ただ楽しく傍観するだけ。
【君たちの行く先が
これは終わりに向かう時代の物語。
【神々は何もしやしない】
人類が滅びる為に生きているのだとしても神は力を貸さない。
【君たちがどれだけ苦しもうとも、どれだけ死ぬことになろうとも】
見ることが神の娯楽だ。それに手を加えることなどない。
【————楽しく見ているだけだ】
神々が見放した世界で狂った人間たちが踊る世界。それがいま目の前にあるものに他ならない。エゴで出来上がっただけの世界に訪れる終わりを待ち望むだけだ。
【さぁ、踊り狂え少女よ】
「ミミには時間がないの……どくか、死ぬかだけ」
「偉い威勢がいいのー、何か隠し持っているのか?」
少女の殺気が森全体を埋め尽くす。
「見せてあげるから死んで…………」
ソレはオロチと対戦した時と同じだった。
少女が腕を横に伸ばし気配を変える。
強大なプレッシャーがサイとソウの身を打ち付ける。
「チッ、メンドクセェことにならなきゃいいがな」
「そう急くな、ソウ」
神の瞳が一人の少女に向く。
【君もまた時代に産み落とされた異質で異常な存在】
「おいで――――」
【狂気に愛されし姫君よ】
ミミの呼びかけに応じる様に空から何かが急激な速度で迫ってくる。それは突然に起きる。上空で何かが風を切り裂くように槍のように振ってくる。それがミミ達のいる戦場に突き刺さる。
「ナンダァアアアアアアアアア!」
「エ―――!?」
二つの声が粉塵の中で響いた。突如として起こった爆風に驚く声が二つ。
そして、砂埃の中から一人の男が姿を現す。
「ココは…………?」
男は不思議そうにあたりを見渡し足元にある感触に違和感を覚える。
何かを踏んでいる。踏んづけている。
——およ?
サイとミミの視線がその一人に降り注ぐ。
「う………む」
足下にある男に不思議な視線を向けると、空から降った男は「魔物だな」と言葉を漏らした。それにサイとミミはビックリする。突然に空から変な奴が降ってきたのだ。
「おい、おっさん」
「…………なんじゃ!」
ソレが少女の最終兵器。
だと、思っている破戒僧は驚いた。一撃でソウを沈めた挙句に声をかけて来たのだ。おまけに空から突如として呼ばれると瞬時に振ってきた。殺意などといった気配が感じられなかった。
——ナニモノッ!!
——涼宮くん!?
ミミも同じくビックリした。
突如として現れた終わりを告げる者。
デットエンドの登場である。
「栃木って、どっち?」
「たぶん……アッチじゃ」
「アッチか、ふむふむ」
破戒僧の言葉と指さされた方角を確認し、涼宮強は足に力を込める。
「魔物が出るみたいだから避難しとけよ!」
その瞬間に山が大きく揺れる。男が目指しているのは栃木。
魔物が発生する場所。
そうして、涼宮強は一瞬のうちに戦場から姿を消した。
《つづく》
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