第84話 異世界異端者 VS 御庭番衆
奥多摩の山奥に衝撃が響き渡る――
「リーダ……ちょっと、」
少女の人形が音の響きに体を震わせる。二つの人形を持っている少年の顔が歪む。窓から見える景色、森から鳥が避難するように空へと逃げ去っていく。大木が少年の前で横薙ぎに倒れていく。
「このお客さん………普通じゃない」
対侵入者用に張られた防護結界は、
いとも容易く破られ侵入を許している。
「
「いるわけないわよー、会ったことがあるのなんて異世界異端者か暗殺者か、はたまたは執行官ぐらいでしょうよ」
マリーとマダムは脅える少年を前に楽しそうに語る。
振動はゆっくりだが着実に洋館へと向かって進んできている。
その中で、包帯男の瞳が光る
「
動き出そうとした空手道着の白眼に制止をかける。外で起きている振動をほっとけということだ。まだ、自分たちが動くときではないとリーダーは視線で威圧を送る。
「っ…………」
白狼は静かに壁に寄りかかり腕を組んで精神を整える。
来たるべき戦いに備えて集中力を高めていく。
その中でスキンヘッドの男が包帯男に問いかける。
「リーダー……ミミ達が帰ってくるまで待つ気ですか?」
この状態で動かない理由を問いかけた。
それに包帯男はソファーに背中を預け腕を伸ばす。
それに金髪の赤い外套に身を包んだ金髪の少女は、
クスクスと嗤いを浮かべて二人の状況を見守る。
「アレは違う、もっと…………」
包帯男はただ静かに天井を見上げて呟いた。
「――――ヤバイ客が来るはずだ」
その相手を待つかのように、
異世界異端者の主力メンバーたちは洋館のリビングでリーダーの指示に従い、
ただ窓の外の破壊を眺める。
御庭番衆の先行隊がすでに、
山中に到着して、
「おぉおおおおい!」
「五月蠅いコバエに
辺りの景色を変えていく――。
「どうしたぁああああああ!」
二メートル近い巨漢が唸り声を上げる。顎から長く伸びる剛毛な髭が湿って色濃くなっている。江戸時代の囚人のようなボロボロの服も同じように染められ色を変えている。
だが、一番赤く染まったもの他でもない。
「もっと、ヤロウゼェエエエエエエエエエエ!!」
彼が手にしている数珠。
本来は煩悩の数を表す百八で構成される数珠。
だが、彼の数珠は個数が百八には届かない。彼の巨漢に合わせた様にそのサイズも大きさが狂っているからだ。彼の数珠の総数は八。だがソレ一つ一つが鉄球のようにデカく相手を叩きつぶす武器となる。
「大丈夫だ…………救いはあるんだ」
禿げた巨漢が感極まって涙を流し、
嗤いながら近づていく。
「死が救いだろォ……」
異世界異端者たちの構成員が抵抗を見しているが御庭番衆のサイを前に地獄を見る。男には攻撃が通らない。取り囲んでどれだけの異能をぶつけようともビクともしない。
「狂ったお前たちでも、御仏の救いはある――」
サイはその抵抗の虚しさを説くように涙を流し嗤う。
彼らを救うべく清らかな心でただ数珠を持った手を合わせる。
「オレが……浄土に送ってやるからなぁっ………」
銃弾が来ようとも剣で斬りつけられようとも、
槍で突かれようとも、弓で射られようとも、
サイはその姿勢を崩さない。
あまりに防御力が強すぎるが為に攻撃は無と帰している。
「死ねェエエエエエエエエエ!!」
野太い声が山全体にこだまする。
数珠を地面に叩きつけると衝撃が霧散する。森全体を震わすが如く山が嘆く。その囚人が抱く葛藤を。殺しこそが彼の唯一の救いの道。殺すことでしか弔うことが出来ない哀れな狂人の一撃が死を浄土へと誘う。
「救われたか………」
原形をとどめない死の形を前に彼は血に染まった大地に涙を流す。
「キャシャァア、狂ってるのテメェだ、サイッ!!」
血の竜巻が山に立ち昇る。
その中心で、肥大した眼球が蠢く。蛇のように長い舌を伸ばし、
「ソコッッ――――」
殺意の視線を隅に向ける。
「キャァアアナアアアアアアアアッッ!」
獲物がある。男の鉤づめが遠くへと伸びていく。
どこに隠れようともその鋼鉄の伸びる爪が刺し貫く。
「アヒャヒャ――」
肉の感触がソウに興奮を抱かせる。木々ごと刺し貫いた。
五指ある命を刈り取る爪を、
ゆっくりと動かし相手の腸を楽しみながらかき回す。
「キモヒャヒャィイイイイイイ」
狂った甲高い声が山に響き敵たちへ恐怖を植え付ける。
背中が曲がり地と並行になった上背。
地についても、なお余りある不気味な黒髪。
妖怪のような男が、
肥大した片目をギラギラと光らせて笑顔を浮かべる。
「狂るぅるるぅうるい――――」
命の感触を弄ぶサイの手に力が込められていく。
「裂きィイイイイイイイイイイイイ!」
サイの腕が上空へと力強く振るわれる。
それが深紅のカーテンを森に雨となって落とす。
命が一つ一つ奥多摩の山中で消えていく——。
狂っている者と狂っていた者達の死線上と化す。
「サイ、ソウ、遊びすぎだよ――」
二人の視線が一人の女に向いた。
血の雨が降る中を似つかしくない者が歩いて来る。
白く神々しい聖なる聖道服を纏い黒髪の女が近づいて来る。
サイとソウは嗤って主を迎える。
「オカシララァアアアアアアアアアア!」
サイの声にソウの声はかき消され、
お頭の横にいた狼少女は耳を押さえてうずくまる。
「サイ、随分と遊んだみたいだな…………」
「おぉう?」
御庭番衆のお頭は山にある死体を見比べる様にサイへと話しかけるがピーンと来ていない様子、巨漢は首を傾げる。細切れになっている臓物をぶちまけた死体。これはおそらくソウがやったのであろう。
貫き、さらに裂くのが妖怪男のやり方だ。
それに比べて、
サイの死体には救いがない。
どの仏にも顔というモノが存在しない。
あるのは下半身か、頭部が削られなくなった上半身、
もしくは、血の跡にある潰れた肉塊だけだ。
「まぁいい…………ここは任せる」
「オオォオウウウ!!」
「いくよ、
「うん!」
それを見ても誰一人として動揺がない。
ソレが御庭番衆という組織だ。
殺しを禁じられることも無く、
殺し方を問われることもない。
あるのは――結果を持ち帰ることだけだ。
《つづく》
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