9ー学園対抗戦ー.デットエンドのそれはわかりやすく明確に行われた。その時会場は静まり返る。

第25話 六種類の校長たち

 私は兄の出る学園対抗戦応援へと向かうために玉藻おねいちゃんと学校に向かいました。いつも通りの通学路でしたが兄がいないと不思議な感じです。


 いつも後ろを気だるそうに着いてくるだけなのに、いないと何か不思議な感じがある。


「強ちゃんは……」


 そして、玉藻おねいちゃんもどこか拗ねた様に唇を尖らしていた。


「無能なのに」


 無能?


 横並びに歩くおねいちゃんがさらっとヒドイことを言いました。いくらなんでも、兄が『無能』というのは真実ですが言葉に出してはいかがなものかと。


 本当のことでも、言ってはいけないことってあると思います。


 しかしです、


 一応、妹としてフォローしておかなきゃ!


 おねいちゃんがいないとあのお荷物の面倒が見切れないから!!


「大丈夫ですよ! お兄ちゃんはやる時はやる人ですから!!」

「そうかな……怪我しないかな……」


 玉藻おねいちゃんは心配性です。


「心配だな……」


 兄のことになると過保護です。


 私には兄が負ける想像がつきません。


 兄が本気出さないのはいつものことですが、本気出したら一溜りもないことは知っています。


 むしろ、対戦相手の生死の方が心配です。


 さらに言えば、夏休みの時の様に……


 駒沢にクレーターが出来ないか心配です………。


「それにしても、なんで強ちゃんが……」


 ぼやくおねいちゃんの横で私は『はは』と苦笑いした。何でも何も強いからという理由でしかない。けど、おねいちゃんはあんなに近くにいるのに未だに兄が強いってことを知らない。


 二人の鈍感具合は病気に近いようなもの。


 そうこう過ごしていたら学校に着いた。


 全校生徒が集まっていました。そこには普段は見ない三年生たちの姿もありました今まで実地研修により各職種を体験してきたので少し大人びて見えました。


 学園対抗戦だけなぜと思うかもしれませんが、対抗戦は学園あげての一大行事であることは間違いありません。学園の威信とか私は良くわかりませんが夏の甲子園的な扱いに近いものです。


 だからこそ、全校生徒で応援に向かうのです。


「じゃあ、美咲ちゃん後でね」

「はーい」


 おねいちゃんと別れ自分のクラスの集合場所に向かうと、


「美咲~おはよう。今日は師匠の晴れ舞台だね!!」


 寒さに負けない元気な昴ちゃんが私を見つけて走って駆け寄ってきました。


「気合いが入るよ。弟子として!!」

「昴ちゃん、弟子扱いされてないと思うよ……」


 兄はを苗字か名前で呼びます。それ以外の人は何かに例えたりして、苗字すら呼びません。


 人間不信がたたりあんな風になってしまったのは……


「はぁ~」


 言うまでもありません。

 しょうがないことですけど、今さら。


「それではバスに順番に移動を開始します」


 全校生徒が乗れるバスがグラウンドに到着し、各学年ごとに決められた座席につきました。


 二階建ての大型バスです。


 フカフカの座席に座ると背中が沈む。普通のバスとは違う。やっぱりエリート校はこうでなくてはです。といっても、私達の学校から開催場所は近いのであまり長い時間を過ごすこともありませんが、極楽です。


 どうやら、二階は三年生たち用のスペースのようです。


 上はもっと豪華なのかな? 


「鈴木さん、コッチに来なよ!」

「うん、今行くねー」


 おねいちゃんの声がします。二年生は一年と同じ階にいるみたいです。


 ということは……、

 

 そういえば……せん――。


「美咲、さっきから何キョロキョロしてるの?」

「べ、別に……ちょっとバスの内装を見てるだけだよ」

「ふふん。わかってるよ」

「な……なにを?」

 

 バカの癖に何がわかるというのか。


 しかし、昴ちゃんは得意げにチッチッチと指を振って言いました。


「櫻井、セ・ン・パ・イだね♪」


 その答えに思わず私は席を立ちあがった。


「な、なにを言ってるのだあぁああ!!」

「そこ少し静かに!」


 昴ちゃんが変なことを言うから先生に注意されました。


 私は優等生なので怒られ慣れていないからシュンとして席に着く。


 なんで先輩が……というか、別に……席を見渡してただけだし。


 それはちょっとは探したかもしれないけど、

 

 お兄ちゃんの友達だから応援とか来るのかなと思っただけだし。


 友達がいない兄が寂しがるかもしれないという気遣いからだと……


 思うし。


 先程、見渡した限り櫻井先輩はなぜかバスに乗っていませんでした。


 兄と同じで少しサボり癖がありそうなので、


 こういう行事にいないとも思うのですが……


 今日はいないのかもしれない。


「先輩……いないんだ……」


 どこか寂しさを感じながら私がマフラーで口を隠し考え込んでいると、


 なにやら視線を感じる。


 ――なんだろう……!?


 その痛い視線に目を向けると昴ちゃんが猫のような目をして、


「美咲は純情だね~」


 私をニヤニヤみつめている!?


「昴ちゃん!!」

 

 このッ!!


「いたた♪」


 思わず私は軽く昴ちゃんを両手でポコポコ叩きました。


 そんな中バスは会場に向けて出発をしました。







 二十分ほど乗って会場の駐車場につくとそこには全国各地から色んな制服を着た学校の生徒が違うバスから降りてきます。代表する六種類の制服が駐車場を埋め尽くす。


「血が、血がたぎるよ、美咲!!」


 隣で昴ちゃんがバスから降りて伸びをして、


「熱くなってきたぁああああ!!」


 いらない気合いを見せ始めました……。


「昴ちゃん、静かに。先生にまた怒られるよ……」

「来年は私がここに!!」


 昴ちゃんの熱血スイッチが入っちゃったみたいです。


 けど、気持ちもなんとなくわかります。


 会場の熱気はどこか凄くみなお祭り気分でした。それにあてられるのは無理もないことです。一般の方や報道関係者も詰め掛け外ではところせましと屋台などが出ています。


 年末の学園対抗戦は紅白歌合戦と並ぶイベントに近いものなので。


 年末のチャンネル戦争の火種になるようなものなので。


 テレビで流れていたものが生で見られるなんてちょっとだけかく言う私もソワソワしないわけではない。テレビに映っちゃったらどうしようとか。


 私自身まさか自分がマカダミアに入れるとは思いもしてなかったので、


 その参加者になってしまってるのが不思議な感覚です。


「わぁー、これが生の会場だよ、美咲!」

「すごいねー……昴ちゃん」


 会場内に入ると、各校の横断幕が飾られていました。


 観客席は試合会場が見渡せるように階段状に配置され、リングを1階とすると、2階席で見るようなものです。そして天井は悪天候でも可能なように屋根付きとなっています。四方には巨大なスクリーンがおかれどこの位置からでも画面が見れるようになっていました。


 テレビでは幾度となく見た光景も間近でみるとひとしおです。


 テレビの小さい画面で見るより小さい私が生で見た方が迫力がすごいッ!


「美咲ちゃん、こっちだよー」

「いま行くね、おねいちゃん」


 応援する際の座席は自由なので、私は玉藻おねいちゃんの隣に座りました。


「はぁー、心配だよ。どうか強ちゃんが怪我しませんように。どうか無事で帰ってきますように。なんまんだぶ、なんまんだぶ、なんまんだぶ――」

「おねいちゃん……それは違うと思うよ」


 おねいちゃんは必死にお守りを握り目をつぶってお経を唱えていました。


 そして、お守りには恋愛成就れんあいじょうじゅと書いてあります。


 それは間違っているです……。




◆ ◆ ◆ ◆




 学園対抗選抜は日本列島を大きくわけた六の地方からなる異世界転生エリートを集めた学園の地位を決める戦いである。ここで優秀な成績を収めたものは日本自警団として名高いブラックユーモラスへの採用情報としても刻まれ、将来を約束される。


 学園対抗戦開始前に各学園長はVIPルームに入り試合を観戦する。


 そこには関東代表となるマカダミアキャッツ高校のにゃんこ校長を含む、


 六種類の動物がいた。


 北海道代表落花生熊のぼり高校


 ――クマ校長。 


 東北代表ピスタチオットセイ高校


 ――オットセイ校長。


 関東代表マカダミアキャッツ高校


 ――にゃんこ校長。


 関西代表カシューナッツドッグ高校


 ――わんわん校長。


 中国・四国地方代表ヘーゼルナッチュマウス高校


 ――マウス校長。


 九州代表クルミモンキー高校


 ――モンキー校長。


 各学園の校長は動物であり人語をしゃべる。


 昨年の優勝校オットセイ校長は悠遊に勝ち誇ったように語りだす。


「去年はうちの圧勝でしたからね、オット!」


 それに他の動物が顔を顰める。


「今年はそうはいかないワン!」

「黙れウッキー!! 東北は今年で終わりだウキー!!」

「それより去年全敗の敗者がいるクマよ。気を使うクマ」


 猿と犬が騒ぎ立てている横でおとなしそうな熊が制止をかける。


 そして全敗の覇者に視線が集まる。


 その校長は気まずそうに口を開いた。


「去年は色々あった……にゃんよ」

「いいわけでチューか?」

「シャー!!」

「マウスッ!?」


 ニャンコ校長はシャア―といい尻尾をたて中国・四国をおどす。


 だが、それは事実である。


 デットエンドによりボロボロの精神状態にされた去年の生徒達はナヨナヨしたオカマみたいになり戦闘どころではなかった。全国の笑いものとしてマカダミアキャッツ高校をのし上げた。


 学園対抗戦は総当たり戦で行われる。


 三人での勝ち抜き戦となり、六校でリーグ戦をして勝敗を決める。


 そこで輝かしいという不名誉な記録を残す。


 それはマカダミアにとっての汚点と言っても過言ではない。


 今年はそうなるものかと猫は気合を入れてリングを見る。


 そこに映るのは一人の人物。


「それではみなさん、準備はよろしいでしょうか!?」


 待ちわびる歓声の中、アナウンスが開始された。



《つづく》

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